防具屋のアイギス
「あの、これ買ってくれませんか?おひとついかがですか?・・・ダメだ。今日も一つも売れないよ。これじゃあ家に帰れな 「ちょっと待ってください!なんですかその変なナレーションは!」
「俺の今の気分」
「・・・フン!そんなこと言ってるといつかバチが当たりますよ」
「なんで自分の剣売ろうとしただけでバチが当たるんだよ」
「汝聖剣を売らんと企むものよ。近く汝はタンスの角に足の小指をぶつけるでしょう」
「おいやめろ!なんだその妙に具体的かつ絶妙に嫌な予言は!お前がいうと本当に当たりそうな気がするんだよ!」
「当たりますよ?本当に」
「なんでそこまで言い切れる」
「私の機能の一つに『所有者の足の小指をタンスの角にぶつける』というものがありますから。どうです?ぶつけたくないのなら私を売るのは 「売るわ」 早い!判断が早すぎますよマスター!?バチが当たっちゃいますよ?小指当たっちゃいますよ?」
「いやだって所有者が小指ぶつけるんだろ?なら売って所有者じゃなくなるしかないだろ。ぶつけたくないし」
「・・・あっ!?」
「今気づいたのか!?・・・お前、やっぱ馬鹿だろ」
「わー!?待ってください。やりません!そんなことしませんから!だから売らないでくださいってば!」
「だいたいなんでそんな機能あんだよ」
「さ、さぁ?それについては私もちょっと。私を作った方に聞いてください」
「いつかお前作ったやつ見つけて殴ってやりたい」
「なんでですかっ!?」
なんやかんやあったがようやく辿り着いた。
あの御者のオッチャンに教わったお店の最後の一つ、防具屋の『アイギス』。
とはいえ、
「特に寄る用事はないんだけどな」
「ええっ!?寄らないんですか!?」
「だって買うものもないし」
「買いましょうよ!」
「何をだよ」
「かっこいいマントとか勇者には必要だと思いませんか?」
「俺は勇者じゃないからいい」
「寄りましょうよー」
「・・・はぁー、寄るだけだからな」
「いらっしゃいませ」
「どうも」
店に入るとお姉さんが迎えてくれた。
「こんにちは、初めて見る顔ね。この時期だし、新入生かしら?」
「はい、今日王都につきました」
「そう、これから頑張ってね」
「もちろんです!」
「あら?あなたはまあ、喋る剣なんて珍しいわね~」
「ですよね!」
「ええ、私は初めて見たわ。これが遺物というものかしら?」
「まあ、そんなとこです」
「あら、ごめんなさい。それで今日は何の用かしら?」
「あー、新しい防具の候補を見に」
「防具?それならそこにあるわ」
「あれ?向こうに売ってるのは、何ですか?」
「ああ。新しく洋服も取り扱うことにしたの。せっかくだから向こうも見ていってね」
「あ、はい」
「マスター!マスターにはどんな服が似合うでしょうね!」
服を見ていくのは確定らしい。
はぁ、手早く済ませて学校に向かうか。
取り敢えず服は、奥か。
「マスター。これなんて似合うと思いますがどうでしょう?」
「なんでそれを選んだ?」
「最新のファッションって奴ですね!」
「お前にはこれが服に見えてるのか!?」
それは、そこに鎮座しているだけで凄まじい圧力を払う”全身鎧”だった。
服じゃない、これはどう見ても服じゃない。
なんともまあ禍々しい見た目である。
防御力は高そうだがなんか呪われそうな感じだ。
俺がつけたら重くて動けないだろ、いや大抵の人はつけたら動けなくなりそうだな。
いや本当よくこれを選んだな。
こいつのセンスはどうなってんだか。
とりあえず奥行こ奥。
てかあんな鎧誰が買うんだ?
「あらいらっしゃい」
誰か客が来たのか。
さっきの武器屋であった剣士風の奴だろうか。
「店主」
「はいなんでしょうか?」
「鎧が欲しい」
「ではどんなものが良いでしょうか?」
「龍の爪撃に耐えられるくらいで頼む」
いやどんな鎧だよ!
龍、龍ってあれだろ?
物語でも語られる本物の伝説。
世界最強の生物と言われる存在。
「すいません、あいにくうちにそこまで高性能な鎧はなくて」
「要求が高すぎたと?では少し下げよう。魔王の呪いを抑え込める鎧はあるか?」
いやどんな鎧だよ!?
てか本当に少ししか下げてないなオイ!
「すいません。それもうちには」
「むう。では、嵐のなかでも飛ばないほど重い鎧などはないだろうか」
こいつ譲歩する気これっぽっちもねぇな!
「すいません、そちらも・・・」
お姉さんの申し訳なさそうな声が続く。
「防具屋でありながらお客様が求めてきた鎧を、売り切れてるならまだしも置いてすらいないとは。恥ずかしい限りです」
いや、商売人の鏡みたいなこと言ってるけど普通にそれ無茶だろう。
「仕方あるまい。其れ相応に我の要求が高いからな。まあないことも想定はしていた」
ああ、一応自分の要求の高さも理解はしてたんだな。
「ふむ。ないのなら別に構わない。ではこの店で一番良い鎧をもらおう」
「良いのでしょうか?お客様の求める性能には及べないようなものですが」
「うむ。この店はこの国一の防具屋と聞いた。ならばここで見つからないのなら他のところでも見つからんだろうし、ここで最も良いものならばそれはこの国でも有数の鎧だろう」
おお、提示してきた要求はどうかと思ったがその後の対応はすごいかっこいい。
「ではご案内します。こちらへ」
「うむ」
声が少しこっちに近づいたか?
「これでございます」
「ほう。凄まじいな」
「この店で、いえこの国で最も良い鎧だと自負しております」
「ほう、いくらだ?」
「いえ、この鎧に値はございません。この鎧を着ることができればお代は結構です」
「フ、面白い。かつてこれに挑戦したものは?」
「あなた様で223.5人目でございます」
意外と多い上にキリが悪いな。
・・・いや0.5人ってなんだよ!?
「0.5人とは?半身が欠損でもしていたのか?」
「あれは悲しい出来事でした。唯一上半身を装備することができた彼は、しかし重さに耐えきれずそのまま・・・」
「そうか。これは、曰く付きの物なのか」
「ええ、お陰で今でも彼は杖が手放せないでいます」
「生きてるのか?」
「? ええもちろんですよ。ぎっくり腰が癖になっただけなので」
「そ、そうか」
「そして上半身を装備しながらも下半身を壊してしまった彼をたたえて0.5人としました」
それは一般的に言って馬鹿にしてると思う。
「む?これはなかなかの一品だな」
「おお!まさかこの目でそれが動く日が来るのを見ることができるとは!」
あっさり着れたっぽい~。
「見事それを着こなしたお客様にはその鎧を進呈いたします。どうぞご武運を」
「うむ」
はぁーすごい場に出くわしたんだなぁ。
寄って良かったと思ってしまった。
「そういえば店主よ。これは一体どういう性能をしているのだ?」
「龍の拳に耐え、魔王の呪いを減退し、たとえ台風の中でも地に足をつけることのでき、破損した箇所は魔力を込めることで自動修復される鎧です」