武器屋のバルカン
「いーやーでーすー!」
「ええいっ!往生際が悪いぞ!」
「いやったらいやですからっ!絶対駄目です!」
「うっさいわ!さあ、いくぞー!」
「いーやー!」
なんつー金汚い薬屋だあそこは。
あの後結局有無を言わせぬあの笑顔に屈しボラれながらも俺たちは薬屋を後にした。
そもそも別にあそこで買う必要なかったんじゃ、・・・やめよう。
もうあそこに近づかないようにしよう。
そして俺たちは今、当初の目的であった『バルカン』に到着していた。
「よく考えたらあれ、私を売るつもりですか⁉︎いや、いやですよ!」
「だーかーらー、いいから入るぞって、おいなんで、前に、進まなっ」
「させませんよ!」
「これお前の仕業か!」
「使用者を守る結界の発動!それと剣の重量の操作!どちらも私の機能の1つです!どうですっ!こんなことできる武器他にありますか!?だから売るのやめましょうよ!」
「だぁー!売らん売らん。お前はいい剣だからな。だから売らないから行くぞ!」
ガラガラガラと音を立てて戸を開ける。
「なめてんのかテメェは!」
「ピッ!ごめんなさいっ!」
突然の怒鳴り声である。
「落ち着け、お前じゃないよ。多分」
どうやら怒鳴ったのは店にいた強面のオヤジのようだった。
怒鳴られたのは正面にいる少年だろうか。
「おいガキ!お前今俺になんて言った?」
「いやーひのきの棒ここに売ってませんか?」
「ここは!この国で!最も栄えてる街で!そこに!腕を認められて!店を構えることを許されてんだぞ!ひのきの棒なんて武器とも言えん武器を置いてるわけないだろうが!」
「むう。残念です。分かりました。じゃあこの店の他の武器見せてください」
「・・・そこらへんにあんの見とけ」
「はーい」
強面で筋骨隆々なオヤジにあそこまでキレられてこれっぽっちもこたえてないのか、オヤジの方が戸惑っていた。
てかどういう状況だよ。
「あん?客か?」
「あ、ああ。お邪魔する」
「いらっしゃい、何の用だ?買いか?売りか?」
どうやら接客はきちんとやってくれるらしい。
「売りだ。この剣を頼む」
「えっ⁉︎」
「あん?その剣か?」
「ああ」
「ちょっ、ちょっ!ちょっと待ってください。売らないってさっき!」
「ああ、だから高く買ってもらう」
「会話が繋がってませんよっ!?」
「お前はいい剣だからな」
「はいっ!」
「だから安くは売らんよ」
「・・・ちょっ、ず、ズルイです!ダメです。そういうのはひどいです!」
「ああ~。坊主が売りたいのはその剣か?」
「ああ。高値だと思うんだがどうだ?」
「い、嫌です。売りませんよ!売られませんよ!」
「剣は、嫌がってるようだが?」
「お前ちょっと静かにしてて」
「あ、ちょっと」
搭載された機能は普段はこいつの中に蓄積された魔力で使用されるが、別に俺の魔力を使って発動することもできる。
消音機能を最小で発動する。
これは剣身から音を吸収するものらしい。こいつの声はこれで聞こえなくなった。
「さて、どうだ?」
「喋る剣とはまた珍しいものを持ってるな?ダンジョン産か?」
「似たようなものだよ」
「でもなあ、うちは使い手と武器の気持ちを大事にするよう心がけてんだよ。もちろんその剣みたいに喋るわけじゃないから本当のところはわからん。だが使い方が荒いやつには剣を売らない。いい使い手にこそ、うちのいい剣を使って欲しいって思って俺は商売してるわけだ」
「いい心構えだと思うよ」
ウンウンと頷きながら少年が言う。
「小僧はそっちで武器見てろって言ったろ!」
「はーい」
「だからな?その剣はお前さんを気に入ってる。俺にその剣は買えねぇよ」
「そうか。なら店頭に飾っといてくれ。喋る剣ならいい客引きになるだろう。いつかこいつが気にいる剣が来たら売ってやってくれ」
「坊主、話聞いてたか?」
「いいから買ってくれ。この剣はすごいぞ。なんせ冷暖房効果がついていて常に快適に過ごせる」
「いや、だからな」
「剣の形が変えられるから伸ばして物干し竿に使ってもいいし、遠くのものを動かずに取るのにも便利だ」
「いやあのな」
「剣から聖なる力を出してるらしくどんな環境でも眠ることができる上に、家庭魔法が使えるから合わせてやれば簡単な野菜の栽培なんかも可能だし、家庭魔法の水で飲料水も確保できる」
「ほへぇーすごいね」
「録音機能があるからもう一度聴きたいものがあるときは便利だろう」
「結界を生成する能力があり、外から侵入される恐れがなく、重量を操作できるから持ち運びに便利だし重石にも使える。その上まだまだ機能はあるらしい」
「・・・」
「どうだろう?高いとは思うんだが」
「ああー色々と言いたいところはあるんだがよ」
「いっぱいいろんなことができるんだなーって思ったけど」
「「それは本当に剣なの?」か?」
「俺も分かんない」
剣を打ち、売る武器屋。
剣を操り、買い手である剣士。
そして現在の所有者。
三者三様の立場であるがその全員の考えが一致した。
すなわち、
(((別にそれ剣じゃなくてよくね)))
「やったー!解除できた!ってマスター売らないでくださいっ!売られるのはイヤーっ!」
・・・
「あれ?なんで皆さんこんなに静かなんですか?」
「お前ってほんと剣なの?」
「だから剣以外の何に見えるんですか!」
「みんなが考えた便利グッズに刃がついてるみたいな感じだよねー!」
「初対面で急に失礼な方ですねっ!私こそ剣オブザ剣。剣の中の剣とは私のことですよ!」
「「「それはない」」」
「あっれー?」
「ああもうお前が話し始めると本当に会話が進まないからちょっと静かにしてろ!」
「ええー。酷いです。ううう、ってちょっと!またマスター」
言いつつ静かになる剣。
まあ俺が機能を使用したんだけど。
「で、いくらだ?」
「悪いが買えんな」
「飾っといてくれるだけでもいいからさ買ってくんないか?」
「俺は剣は使ってこそだと思ってるからな」
「じゃああんたが使ってくれよ。鍛治するときにでもおいとけばきっと快適になるぞ!」
「なんでそんなに必死なんだよ!」
「さっき薬屋でぼったくられて金がないんだよ!!」
「・・・そうか。大変だったな。だが、無理だ。まず何より、その剣が望んでないってこともあるがさっき言ったことが全部本当なら」
「うそじゃない!本当だ!」
「お、おうそうか。いやな、だからたとえ本当だったとしてだな?うちに払える金がねぇんだよ。そんな高ランク武器いくら金積めばいいかもわからんしな。ま、そういうこともあって俺は買えん。せいぜい大事にしてやれよ」
「ぐ、分かった」
クソ、こっちはダメか。
なら隣にいるこの剣士風の奴に。
「なぁお前は買ってくれないか?」
「うーん?その剣ってヒノキ製?」
「いや違うけど」
「じゃあいいや」
ヒノキ製の方が少ないだろ!
さっきからなんでこいつはヒノキの棒にこだわるんだよ!
「おじさん。これ幾ら?」
「あん?なんでそんなちっこいナイフなんだ?お前剣士じゃないのか?」
「剣士だよ?でもこれ以外だと重くて動きづらいんだよねー」
「お前本当に剣士?」
「剣士だよ?」
「ああまあいい。必要だってんなら売ってやんよ。10000セルだ」
「んーたかいなー。500セルじゃダメ?」
「いいわけあるか!」
「なら俺の全財産出すからそれで!」
「とりあえず幾らあるか出してみろよ」
皮の財布をひっくり返す少年。
チャリンチャリーン。
「350セルだね。おじさん500セルじゃちょっと高いから350セルにしない?」
「そもそも500セルじゃねぇよっ!冷やかしならとっとと帰りやがれっ!」
「ん〜じゃあ、また来るねー!次はヒノキの棒入れといてねー」
「だれがいれるか!
で、お前はどうすんだ?」
「これ買って「いい加減諦めやがれ!」
仕方ないので一本俺もサブウエポンとしてナイフを買う。
「なんで今日はこんなろくな客が来ねぇんだ、、、」
オヤジは机に突っ伏してた。
店の前で客引きついでに剣の売り込みしてたらすぐ元気になった。
「とっととどっか行きやがれ!」