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ファミルーマート名もなき村店  作者: かむろ木
1/1

プロローグ 俺たちの日常

「ありがとうございました。」


お決まりの接客文句を言って客を見送ると店内は俺一人になった。

昼食時を過ぎたコンビニというのは決まって暇なものである。

もともと、この最果ての村にあるコンビニにやって来る客は少ない。そのおかげで本部の人間もチェックに来ないし、気楽にやれているのはありがたい話ではあるが。


「お兄ちゃん、ドリンクの補充終わったよ。」

「おお。早かったなルキア。休憩に行ってこいよ。」


ルキアは6つ年の離れた俺の妹だ。俺たちに両親はいない。正確には、ルキアが生まれてすぐ母親は病に倒れ、父親は村のはずれでモンスターに襲われ命を落とした。俺が20歳になった時、俺たち兄妹は世話になっていた叔父の家を出てコンビニ経営をで生計を立てることにした。「フランチャイズ店募集」という張り紙を見て、仕事のあての無い俺はすぐに飛びついた。「ずいぶんとお若いですね。」と最初は何やら思案するように俺を見ていた本部の担当者だったが、その日のうちに『ファミルーマート』の看板を掲げることを認められた。大方、こんな最果ての村で他に店長のなり手は見つからないので早く決めてしまおうという判断だったのだろう。


視線をルキアに向けるとモップを片手にスタンバイしている。

「私はお掃除してから休憩に行くから、先にお兄ちゃんが休憩に行ってきていいよ。」

我ながらよくできた妹だといつも感心する。

「そうか。じゃあお言葉に甘えて。」

レジの奥に向かう扉に手を掛けるより先に、奥から扉が開いた。


「ごめんごめん。伝票の整理に時間かかっちゃった。」

「お前な、伝票確認するだけでどんだけ時間掛かってんだ!」

「だから、ごめんってば。許して~て・ん・ちょ・う・さ・ま・♡」


いつも1ミリのズレもなく同じ角度の上目づかいで俺を見上げる視線にいら立ちが倍増する。

エミールは俺と同じ22歳。“自称”吟遊詩人で昔は各地を旅していたそうだが、今は訳あってこの村で暮らしているらしい。


「ジンってさ、なんか私にだけ冷たくない?」

「店では店長と呼べ!」

「ほらー!またそうやって怒る!」


エミールは仕事に対してかなりルーズである。店の立ち上げ当時はとにかくアルバイトが必要であったが、この村でアルバイトを探している者などほとんどいない。猫の手も借りたいタイミングで募集してきたのがエミールだった。詳しい話も聞かずに即採用にしてしまったことは少し後悔している。


「怒られたくなかったらちゃんとしろ。制服もちゃんと着ろ、だらしない。」

「だって~。この制服小さくて胸元が締まらないもん!」


エミールはわざとらしく制服のファスナーをがちゃがちゃ上下させた。

本人の主張が正しいかどうかは分からないが、いつも制服はお腹の上までしか上げずに胸元は露出している。村のオジサマ連中にはエミール目当てでやって固定のファンもおり、今ではこいつを簡単にクビにできないでいる。


「俺は今から休憩に行くから、お前はレジお願いな。」

「え~っ!!私も休憩した~い」

「お前はさっきまでたっぷり休憩しただろ!」

「ちゃんと伝票整理したもん!それにこの時間はお客さん来ないしいいじゃ~ん♪」

「ダメなもんはダメだ。」

「私と一緒に休憩したらいいことしてあげるよ♪」

「いらん。」

「ええー!この吟遊詩人エミールさんが素敵なポエムを読んであげるのにぃ。あ、もしかしてエッチなこと想像ちゃったりした?」


無視して奥の扉へ手を伸ばすと「待って待って」とエミールが俺の左腕を引っ張ってきた。

「今ちょうど素敵な詩が思い浮かんだ!これ聞いて感動したら休憩ちょーだい!」

「・・・」

さらに無視をして奥へ行こうとする俺の前へエミールは回り込み「ちゃんと聞いてね」と言って大きな瞳でこちらを見つめてきた。

「男は無関心を装って女を振り解こうとするが、その目は女の胸元を撫で回すように視姦していた。女は蛇のような男の視線に恐怖を覚えながらも、体は快楽を求め鼓動はみるみる早くなる。そんな女の態度を男は予想していたかのように、抵抗できない女を力づくで引き寄せ胸元に手を伸ばし強引に服を脱がせると・・・って痛ッ!!」


レジに置いてあった返品用の雑誌でエミールに激しいツッコミを入れる。

「お前、それ官能小説じゃねーか!」

「違うもん!純愛ポエム!!!」

「頼むからルキアにだけはエロ小説みたいなことは教えるなよ。教育によくない。」

「だから純愛ポエムだってばー!」


やり取りをするだけでも疲れる。こんなやつの面倒を見てバイト代を渡している自分がバカらしく思えることにももう慣れた。


「お兄ちゃん、私のこと呼んだ?」

気がつけばレジの横にモップを持ったルキアがちょこんと立っていた。

「何か私の名前が聞こえたけど?」

「なんでもないから気にしないでくれ。またエミールが悪い冗談を・・・」

「ひどーい!!ねぇ、ルキアちゃん聞いて!ジンったらいつも私が悪いみたいに言うんだよ!」

「もう、お兄ちゃん!エミールさんには優しくしてあげないとダメでしょ。真面目に働いてくれてるんだから。」


ルキアの中でエミールに対する評価は俺のものとは違うらしい。

俺以外の人間には猫をかぶっているのか、ルキアはエミールをいつも「頑張り屋さんでキレイだし憧れる」と言うのだが、その片鱗すら俺は見たことが無い。


「とにかく、俺は今から休憩に行くからちょっとの間店は2人でお願いな。」


ルキアの前ではおとなしく仕事に励むエミールを傍目に、俺は店の奥へと続く扉を開けた。

























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