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格好つけるな

 この森は何かがおかしい。それがこの森を駆けまわって感じた事だ。例えば光の入り方。陽の光一つにしても志向性がある。差し込む陽光が一定なのだ。線を引いたように生息域が分かれた植物の分布なんて誰がどう考えてもおかしい。誰かが管理してもこうはならない。そして眼の前に広がる焼け野原だ。森が焼けるのはまあ、よくある事だ。乾燥すれば木々が擦れるだけで火が付くなんてことは聞く話だし、虚だって世界の森を泥にまみれて走っていた頃は当然気を付けた。がこれはおかしい。火が付くのは乾燥しているからだ。葉に油がある訳でもない。潤沢な水分がこの森にはありあちらこちらに苔がある。どこぞの馬鹿がたき火でもして燃え広がった可能性も無くはないがこの規模がはおかしい。

ねね

 いや、無くはないか、そんな事を考えながらも虚は説明できない何かが胸に渦巻く。何にせよ。



「気持ちわりぃなここ。何が居るんだ? 生き物の気配すら無いぞ」


 見渡す限りなんて程では無いがそれなりに燃えてる。それも結構な規模でだ。そんな場所がここ以外にも三、四か所はありそのたびに迂回した。最初はどこかの馬鹿が焚火でもしてそれが燃え広がったのかと思ったがどうやらそれも違うようだ。ここに何か動物が食い散らかされた後の残骸があったからだ。

 余程の大型肉食獣が居るのか、それとももっと知らない別の何かか。異世界というだけで可能性は山の様にあり何が、どれがなんてまるで役に立たない。今までの常識は全て心構えに変わる。ましてやこんな森の奥深くになんて人が居るはずもない。虚は森の深くに入って来た事を後悔し始めていた。


「動物もいない。木の実キノコの類も無し、と。こりゃあかなりマズいな」


病人を抱えてここで足止めはかなりマズい。が、戻るという選択も取りずらい。剣という凶器を振りかざしていた所を見るに敵愾心に溢れていることは馬鹿でもわかる。殺されると分かっていて戻る気はない。無いがここにも居られない。

 どうしようか、と考えて居る時だった。ふと背中の方で声がした。


「う……ん? どこだい、ここ」


「おう、目が覚めたか。ホント何処だろうな」


まだ意識がはっきりしてないのか、ぼんやりとした感じの声だ。「おろして」と真優は小さく言い、余り衝撃を与えないように気を付けながらそっと地面に降ろす。顔色は良くない。青いとか土気色とか言うよりもはや白く色素が抜け落ちてきているのではないかと思える程だ。


「途中から寝ちゃっててね、なんでこんな所に居るんだい?」


「意識を失った事を寝たと言える事にびっくりだが、そうだな、色々だ」


「汎用性が高い言い訳だね。色々が聞きたいとは思わなかったのかい?」


「何をどう言っても納得させられる言葉が思い浮かばないけどさ、まあ異世界独特のコミニケションの取り方が出来なかったんだ。距離感が分かんねえよ」


 何せ剣を向けてくる新しい初めましてだ。斬新すぎて付いていけないと思うのは仕方ないだろう。

真優は何かを察したのか、「あー」と何かを納得したように頷いた。どうでも良いが顔の整った奴がこういう仕草をすると絵になる。


「原住民的な人たちに出会ったという事でいいのかな」

よろしくない。というかその段階からすでに意識をなくしていたのかとゾッとする。この分ならそう時間がかからずにまた意識が飛ぶ事だろうという事が容易に想像がつく。適当に会話を繋ぎ意識を失わないようにすることが重要だ。


「そうだな、概ね間違ってないな。多分蛮族かそれに似た部族だ。もしかしたら知り合いの可能性もあるが」


「君に異世界の部族の知り合いが居たとは驚きだよ。人を驚かせる事には事欠かないね。まだ何か隠してることは無いのかい虚君」

 くく、と笑いながらも不思議そうに首を傾げる真優の顔委色は良くなっていない。ともすれば悪くなっているかもしれない。

こうやって話をするのも辛そうだ極力それを悟らせないようにしているというのが分かる。

だから虚もそれを触れない。辛いと分かって言うのに辛いですかなんて聞くのは馬鹿けてる。

だがこれは聞いておかなければならない。


「なあ、もしかしてだけどなんか持病かなんか持ってないか?」


「ふふっ、僕の具合が悪い事を気にしているのかい? 本当に優しいね。だけど残念ながら病気なんてしたことないし持病持ちでもないね」

 それに、と真優はゆっくりと目線まで持ち上げた。それを見た虚はうっと息を飲む。

こんな事があり得るのか? あり得て良いのだろうか。だって。それは、手がーーーーーー、


「身体の一部が消えていく病気があると思うかい?」


透けて向こう側が見えていた。透明になっている。それは体の不調など問題にならない程の一大事。


「面白いと思わないかい? なんでどうしてこんな事になっているのか、手が透けてる、もしかして体にも広がってくるのかな?」


 まるで他人事の真優は手を光にかざして面白ろがっている。


「お前、それ」


 言うべき言葉が見つからない。体が透けていく人間に対して何と言えばいいのか分からず、虚は口ごもっていると「気にすることは無いよ」と軽く言った。


「痛みがある訳じゃない。それに消えると決まった訳じゃない。だけど、君のいう事が正しければ僕は長い間失踪してた言わば居ない人間、死んでるはずの人間だと言ってもいい。そんな奴が居なくなっても別にどうという事はないさ」


 こともなげに、だが、ほんの少し自嘲を含んだ言葉が虚の何かに火を付けた。


「良い訳ないだろうが」


「ああ、そう言えば虚君には助けてもらったお礼をしなくちゃね。何がいいかな? やはり君も男だからね

 声が小さい訳では無かった。だから虚の声が聞こえないはずはない。ならば意図的に無視している事になる。という事は真優はもうあきらめているのか。自身が消えてしまうかもしれないという事を。

 それが虚には我慢がならなかった。いそいそと服を脱ごうとしている姿が。

 無理に明るく振舞おうとしている態度が。震える声を隠す事が。


「ふざけんじゃねえぞ手前! 怖けりゃ怖いって言やぁ良いだろうがこの馬鹿が! 消えたくない。死にたくないってよ。何が面白くないかだ。ちっとも笑えねぇよクソが。言っても変わらねえ? 知ってるよ。

だからってあきらめてんじゃねえぞ! 何か原因があるはずだろうが。それを見ずに勝手に決めんなクソ馬鹿が!」


「確かにそうかもね。だけどこんな森の深くで何をするっていうんだい? めそめそと泣いてどうなるんだい? 教えてくれないかい? こんな場面この状況でどうやって振舞うんだい? 

 僕はね虚君、気が狂いそうな途方もない長い時間を暗闇で過ごした。そんな中、君が来た。助けてくれた。それでもう十分なんだ。人に会え会話が出来た。それで十分さ。そりゃあ気になるさ。どうしてこんな事になってるのか、どうすれば助かるか。でもね。それは無理だよ。あれもこれもなんてのはね。

 十分だ。なら助けてくれた君に報いたいと思うのは間違いかな?」


「知るか。 俺が気に食わねぇ、それだけだ。見たことも無い世界に俺一人は嫌だ。それだ。それだけだ。

やっと俺と似た人間を、似た性格の妙な奴を見つけたんだぞ。分かってるさ。短い付き合いだがお前がその状況を実は楽しんでるくらい。俺も状況が同じなら、逆なら、そう思うさ。だがな」


 真優を引き寄せて目を見ていう。理解させる為に。俺がやっと見つけた同志かもしれない妙な少女。

死んで欲しくはない。居なくなって欲しくはない。出来るならこの謎の世界を一緒に見て回って、笑う。そのために。



「諦めんな。何か手があるはずだ。俺を残すな。一緒に世界を見て回るんだ。だから死ぬな」


真優はぽかん、としてそしてじわりと笑いだす。自分でも大分恥ずかしい事を言った自覚がある為に顔に火が付いたように熱い。


「く、くくく、何だい君、くく、あはは。うん。分かった君の言う通りにしよう。くく、ああ、正しい正しい、くくく、まさかこんな情熱的な告白を受けるとは思いもよらなかったよ」


「おい、俺は別にそんな事」


「分かってる分かってる、照れ隠しはいらないよ」


「分かってねぇじゃんか」


「さて、そうと決まれば速くこんな場所からオサラバしないとね」


 半脱ぎだった服をさっと着直して、立ち上がる真優は元気が湧いたと言い、急かすように虚の頭を叩いた。

「何をしてるんだい? 早く解決方法を見つけないと僕がどうなるか分からないよ? 僕と一緒に生きたいんだろう?」


 もうどうにでもなれだ。

「はいはい仰せのままに」


「どこに行こうというのですか?」


 凛、と鈴の鳴るような、真優でも虚でもない声が響いた。見れば銀の髪を伸ばした女の子がこちらを眺めながら立ち尽くしていた。美少女、と言えるだろう容姿からは想像も付かないほどの敵意を燃やす眼。


「色々っあったっていうのはああいう事かい?」


真優は納得したと頷いた。そんな様子が気に食わないだろう少女は苛立たしそうな顔をした瞬間自らの影に沈んでいった。そして。



「何をそんなにゆっくりとしておられるのでしょう。私にはわかりません。が、あなた方がとても美味しそうなのは分かりました」


次の瞬間には虚の横に現れていた。またか、虚はそう思いつつも用意してあった言葉を少女に投げかける。


「ルナマリアは元気か?」


その言葉に少女は目を見張った。身のこなしから動揺が見てとれる。それはそうだろう、自らの家族の事を見たことも無い人間から尋ねられれば誰だってそうなるだろう。


「なぜ、あなたがルナマリア様の事を知ってうぃるのでしょう」

 

 噛んだ。ものの見事に噛んだ。それを悟られまいとしているであろう少女は頬を染めながらも名乗りを上げ。


「んん、私はアルシャナ。ただそれだけです。では」


猛スピードで虚の背後を取ったアルシャナはそのまま虚の首筋に牙を突き立てた。

その事に別に驚きはしない虚とは対照的に真優は目を丸くする。


「虚君!?」


「良いよ気にすんな。俺の知り合いの孫らしい。それにしても吸血すんのは苦手と見た。ルナマリアとかレナードには程遠いいな」


「んん? ん~!」


「おいおい落ち着けよかなり痛い。勢いよく吸うなって干乾びる。そういやあいつらも初めて俺の血を吸ったときはそんなだった。まあ、なれだ吸血少女。落ち着いて吸え」


 その慣れた様子に真優やアルシャナは戸惑っているようだが虚からすればもはや日常の一部だったのだ。

吸血鬼の兄妹との生活は。自分でも驚く程落ち付いていた。随分と懐かしくもあるけどもはや習慣化していた事をまたやっているだけという気がしてならない。そんな感覚に少し笑ってしまう。この少女は虚を食い尽くすために吸っているというのに。


 勢いよく吸われる血液が、少し勢いを落とす。そんな時だった。見慣れた黒いウサギが虚の視界に入って来た。一匹、また一匹と見る見る間に増え、地面を覆いつくす頃にまたこれまた見慣れた人外が現れた。

人型の黒いウサギ。虚が最後に見たのは忘れもしない五年前の春先の頃。仕える主人達に泣く姿を慰められながら手を振り続けた姿は今も変わらない。


「虚……様ですか……?」


「おう、ランフェイ久しぶり。元気だったか? ちょい待ち、腹ペコさんにドリンクを提供中だからな」


 涙を眼いっぱいに溜めたランフェイに虚は手を上げて答えた。たかが数年とはいえ懐かしさが胸に込み上げてくるのは年を取ったからか。別にどうという事は無いが吸引スピードが上がっている為に多少頭がくらくらしてきた。なんてことは無い貧血だ。いや、だいぶぐらぐらしてきた。

ああ、くそ。倒れる。

「大丈夫ですか!」

ランフェイが慌てるがもう遅い。

「あー、後よろしく」

そのまま地面に倒れ込んだ。最後の気力を振り絞って虚は格好つけるんじゃなかった、そう考えて意識を手放した。



諸事情によりいつ次が上げられるかはわかりませんが頑張りたいと思います。

目指せ1000pt、目指せ書籍化で頑張りますぜ。

最後になりましたいつも読んで下さっている方に最大限の感謝を。

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