《Re:Re:Re》
<第2話>
《Re:Re:Re》
ほら。刑事さん,“サイコパス”っているでしょ。
あれってさ,周りから見るとそうだけど本人達は自分が正常だって思ってるから異常なんだよねぇー。
なんていうの?悪い意味で突出しちゃってるみたいな?
―数か月前,斉藤は俺に向かってニヤニヤしながらこう言った。
その意味が今なら分かる。
(あれは、俺に向かって言っていたのだろう)
ジャラッ―…重たい鎖の音が響いた。
***
4階へ向かい,部屋を見てから5階,6階,そして最後の7階まで来て見てみたが3階と何も変わらなかった。
どの階も,どの部屋も生存者は居らず,血の海となっていた。
地下2階から,地上2階まではしっかりと人の声がした。
3,4,5,6,7階は音一つしなかった。しいて言うならば俺の靴音。
このことを上司に伝えるのが先か,斉藤を問い詰めるのが先か。
ただ…およそ800人の人間を一撃で,しかも刃物で刺し殺すには斉藤は若すぎる。それに斉藤には常に誰かしらの監視がつくようになっている。一人になる時間も,殺す時間も無い。
―なら,一体 誰が。
***
僕は産まれた時1人だった。
母は死んだし,父も来ていなかった。
生まれたときの記憶なんてないけど,きっと看護師の人たちは僕をどうするべきか悩んだんだと思う。
まぁ,常識からして普通に施設に入れられた。
そこですくすくと育ったし,楽しかった。
12歳の時だ。声を掛けられたのは。僕はコンピュータだってほかの子どもよりずっと使えたし,計算も好きだった。
そして何より,早く独立したかった。
―だから僕は見ず知らずの人を“お父さん”と呼ぶことにした。
あれから4年。
本当に好き勝手させてもらっている。まぁ。約束ごとを守り続けないといけないのだけれど。
えー…っと。僕が殺したのは153人か。1年で51人。
すごいな僕。何年あったら日本人全員殺せるのかな。
***
とりあえず斉藤の元へ戻ることにした。
何故,知っているかのような素振りで俺に見に行かせたのか。
それにあの有様だ。俺がこうして引き返している間に誰かが気づくだろう。そうでなくてもそのうち誰かが違和感を感じ見に来るだろう。
何か言われたら斉藤から話を聞くべきだと思ったと言えばいい。ただそれだけだ。俺の判断は間違ってはいない。俺は間違っていない。
++
《僕,言ってたんだよね。冷房をずーーーーーっとつけ続けてって》
《あ。そうだった。時間もずらしておいてね。うまい具合に針をいじってさ》
《絶対にデジタル時計は使うなよ》
++
腕時計の時刻は午後3時45分。
刑事さんおっそいなー。人が沢山死んでんのがそんなにショックだったかなぁ。
人の死体なんて今まで散々見てきたはずなのに。
カツカツカツカツ…
早歩きの足音。
お。これは帰ってきたな。なら僕は犯人らしくしないとね。
いや,別に僕がしなくてもいっか。
ガシャン‥!
再び鉄の音が鳴った。
ドンッ!!!!!!!!!!
荒々しく尋問室の扉が開く。
「お帰り。刑事さん。どうしてそんなに汚れているの?」
須賀は手を見つめる。
「違う違う。どうしてそんなに服が汚れているのかって聞いたんだよ」
「――服…?」
「もしかして気づいてなかったの?」
斉藤にそう言われて自分の制服を見ても,やはりどこも汚れていない。
今朝取り込んだばかりの状態と何も変わらない。
暫くの沈黙の後口を開いた拓巳はこういった。
――――「あ。じゃあ娘さんと奥さんは元気?」,と。