八話 人は信頼できるとおもうが、例外もあるかもしれない。
「ん?スノーちゃんか、どうした?」
ギルドの接客室に恐る恐る入ってきた私にそう声を掛けたのはジョフさんだった。
「ジョフさん.....ユウは?」
ソファで新聞を読んでいるジョフさんと私以外に、この部屋には誰もいない。
「ん?ユウか?ああ、たしか図書館へ行ったぞ。」
「図書館に?」
「ああ、なにか知りたい事があるなら俺に聞けばいいのになぁ、大体の事なら答えられる自信がある。」
図書館か.....どうしたんだろう.....
「そうですか、ありがとうございました。」
そう言い、私はギルド支部から一番近い図書館に足を運んだ。
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館内に入ると、すぐ見つける事が出来た。
ユウが外出する時は、青色のコンタクトをして、真っ白なコートを羽織っている。
さらに髪は黒色だ。
そして、沢山の人が本を読んでいる中、一人その特徴に当てはまる人物が十数冊の本を読み漁っていた。
「ユウ、どうしたの?」
「・・・」
ユウは一瞬こちらを見たが、何も答えずに本に向き直ってしまった。
何の本を読んでいるのかと思い隣に積み上げられた数冊の本を見ると、それは全て歴史関連のものだった。
「!?」
そして驚く事に、ユウが今読んでいるのはエルフ語で書かれた本だ。
「あの.....ユウ?読めるの......?」
「・・・」
相変わらずユウから反応は無い。
「ユウ?」
「・・・」
「ユウ!」
「......ハァ.....」
深い溜息の後、ユウはやっと口を開いた。
「読めるわけ無いだろ?」
「ゑ?」
意表を突かれ、裏返った声が出る。
「俺はタロス語しか読めん。あとはエルフ語とドワーフ語が多少読めるくらいだ。」
「ではなぜこれを.....?」
「タロス語で書かれた物に、俺が知りたい事が書いてないからだ。」
「・・・」
「____取り敢えず、少なくともここに置いてあるタロスで書かれた本には、俺の求める情報は無い。別の言葉ならあるかもしれんが.....まあ、別の言語を勉強してまで知りたいことでも無いしな。」
「一体何が知りたいんです?」
「____秘密だ。」
そう言い、ユウは出口へと向かう。
私はそれを追った。
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「・・・どこにいくの?」
目の前を歩くユウに私はそう問いかける。
「図書館だ。ここには2つあるしな。」
「そこまでして.....一体何を調べているの?」
「だから言ったっろう?秘密だ。」
「・・・」
まあいいか。
「フッ.....お前か?」
「?」
突然、私達の前に一人の兵士が立ちはだかる。
通常の兵とは違い、マントを羽織っており、背中には巨大な剣を背負っている。
「・・・」
ユウが無視しようとするが、彼はユウの肩を掴み、止める。
「おいおい、待てよ?」
「......ハァ.....一体何の用だ?手短に頼む。」
そう言ったユウに対しフッと笑い、彼は口を開いた。
「貴様が、この街に来たという紅眼の剣士だろう!」
「なっ!?」
何故ユウさんの目が赤いことを!?
ユウは全然動じていない。
「フン、シラを切る気か.....グッ!」
「!?」
突然その兵士は腕を抑える。
その手には包帯が巻かれていた。
「フッ.....こ、こんな時に.....静まれ!」
「!」
突然ユウの目が見開かれる。
その顔は驚きに満ちていた。
「_____やっと治ったか.....フッ、すまないな、右腕が暴れだした。」
ユウが驚く程の相手....一体こいつは.....
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なんということだ.....
俺は今、目の前で右腕を抑えている兵士の前に立っている。
マントを羽織っていて、背中には常人が扱えないような巨大な大剣。
絶対対人用じゃない上に、腕には包帯を巻いている。
この世界での包帯は魔力は枯渇しかけている状態での応急処置にあたる。
つまり別に枯渇するような事をしていない現状、付けるのは異常だ。
そしてあの大剣。
刃渡推定2.5m、背中にくくりつけていて、恐らく抜刀の際は紐ごと切り落とすんだろう。
マント....ボロボロだ。つか衛兵がこんなのつけるわけ無い。
最後に一々鬱陶しい言動。
間違いない.....こいつは.....
「厨二病.....」
「ん?今なんと言った?」
まさかこの世界でも居るとは.....いや、別におかしいことでも無いか。
現世でならこんな奴社会から追い出される底辺中の底辺なんだろうが、この世界には生憎魔法というものが存在する。
故に厨二言動は全て事実である可能性も浮上する訳で....
「行くぞ、こいつに構っている暇はない。」
そう言い、俺はスノーの手を引いた。
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「!」
いきなりユウに手を掴まれ動揺する。
「フッ、まあ待て、紅眼の騎士よ。」
さっきの兵士が片目を手で隠しながら私達の目の前に立つ。
「ここを通りたくばこの俺をたおしてかr___」
ジリッ
彼が言いかけたところで身体中に電気が走る。
そして兵士は倒れた。
「これでいいか?」
兵士から反応が無いが、体が小刻みに震えている。
「行くぞ。」
ユウは手を離し、そのまま歩き去ろうとする。
「あ、あのユウ?」
「なんだ?」
「大丈夫なの.....あの人?」
そう言い、そこで倒れている兵士を指差す。
「ああ、ただの痙攣だ。」
「けい....なに?」
「まあほっとけ。大丈夫だろう。現世なら死んでるかもだが。」
「死ぬの!?」
「まあな。」
ユウは冷静に答える。
「なんでそんなに冷静なの!?これ__「落ち着け。」
私の言葉を遮り、ユウがそう言う。
「でも__「大丈夫だ。」
「・・・」
「この世界には魔法があんだから。治癒魔法でなんとかなるだろ。多分な。」
「グッ!や....やるじゃないか....」
突然兵士が起き上がる。
「ほらな?」
「こ....この俺の顔に泥を塗るとは.....覚えておけ、我が右腕の封印を解けば、貴様など一瞬の内に暗龍の黒炎で炭に変えてみせる.....!!」
「あーもう面倒くせえな、いいから行け。」
「フッ.....また会おう!」
兵士はそう言いうと、突然周囲が煙に包まれる。
「コホッコホッ....今のは.....?」
目を開けると、そこにはもう兵士の姿が無かった。
「ハァ.....帰るだけになんで煙幕焚くんだよ.....」
「ユ、ユウ、今のは.....?」
「煙幕だ。魔法を使わなくても出来るが、今のは魔法だな。多分水を蒸発させて出したんだろう。」
.....世の中にはそんなものがあるのか......
「ハァ.....行く気なくした。今日はもう戻る。」
「へ?いかないの?」
「ああ。」
そう言い、ユウはギルドへと歩き去ってしまった。
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