六話 人は信頼出来る。
投稿が若干遅れてしまい申し訳ございません、次は恐らく出来るだけ早く投稿したします。
「____あいつ尾行下手だな。」
私の目の前を歩くユウさんが私にそう囁く。
「そうですね、人類の頂点でも苦手な事はあるようです。」
今、古代林に向かって歩いている私達を、ジョフさんが尾行している。
距離は50mくらいかな?
木の影を移動しながら尾行してるけど、思いっきり舗装された道を跨いで移動してるから、いくらなんでもあれを気付かないという人はいないだろう。
「____保護ってこのことかよ.....」
ユウさんがそう呟いたけど、結局バレていないフリをして歩いて行った。
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「ここか....?」
遺跡の残骸がポツポツと出てきたところでユウさんがそう問う。
「いえ、まだだと思います。しかし、遺跡の残骸があるので....もうすぐかと。」
古代林___遥か昔、数十年間世界から一切の戦争を根絶することの出来た王が居たとされる大国があった。
王の名はヨハン、当時冒険者序列1位。
そう、その後剣を司る神となる剣の神、ヨハン。
彼が神となってからはヨハンが最も信頼した人間、当時の騎士隊長が王の座についたらしいが、その後数ヶ国による度重なる攻撃により滅亡、その国同士も戦争をし、結果全ては無くなった。
当時の資料は皆無。
この歴史と、当時ヨハンが使ったとされている一本の宝剣があるという情報だけだけど、その国自体が何処にあったのかわからない上に、剣の存在自体も曖昧で二本あったとか3本あったとか....そんなわけで数万年に及んだ剣の捜索は打ち切られ、剣の存在自体架空の産物とされたわけなのだ。
これがこの古代林の歴史。
「で、お前の依頼はオーガの討伐だったな?」
「は、はい。」
オーガ___頭に二本の角を生やした巨人。
体長3mの巨人でありながら、槍や棍棒、鉄剣や弓など、自分の武器を自作する程知能が高いけど、基本的には一体で活動している。
彼等は食糧を沢山必要とするから、群れられない。
極稀に群れる事があるけど、これは利害一致組のようなもので、なにか大きな目標を遂げる為に手を取り合うらしい。
しかもそれはとても連携の取れた物で、人里が襲われれば強固な防壁でもない限り壊滅に直行する。
さらに彼等は非常に巧妙で、各地で彼等が仕掛けたトラップによって冒険者が犠牲となる報告が挙がっている他、素の戦闘能力も相当な物で、冒険者管理協会からは竜種に次ぐ戦闘力有すと言われている。
私がこんな依頼を受けられたのはサイクロプスに討伐貢献した功績が評価されて、冒険者ランクがCに上がったためである。
実はこれを酒場ではなした途端、酒場の私と同じくらいの女の子に、「古代林に出現したオーガを狩ってみてよ」って言われて....
あまりにも上から目線だった為、ついムキになってその勝負に受けて立った。
結論から言うと、私一人じゃ絶対に勝てない。
絶対に。
なのでユウさんに協力を要請したわけで....
「はあ....正直面倒臭いな。」
「す、すいません....」
「大体、何故オーガなんだ?しかも古代林だし。」
「え、えっとですね....」
言えない、絶対に言えない。
「オ、オーガってそんなに強かったですか?」
「いや、そこまで強くはないが....まあ、簡単に言うと怠い。まず奴等は人里を滅多に襲わない。襲えば自分が狩られることをわかっているからだ。故に戦闘力は竜種に次ぐが、脅威度は彼等より下等なサイクロプスに劣る。次に奴等の素材は売れない。
武具などに用いるには強度や伸びが足りず、その上加工し辛い。また皮は非常に臭く、鞄などにもにも使えたもんじゃない。そして最後に___遠い。目的地の古代林までは村から数百km離れている。なぜこんなの受けた?」
「え...えっと.....」
カサカサッ
突然葉が揺れる。
そちらに慌てて視線をむけると、ジョフさんが木の裏に張り付いているのが見える。
肩がはみ出してる。
「ハァ....」
突然、ユウさんが私の身体を抱え上げる。
「えちょッ!ユウさん!?」
あ、なんだかドキドキする....
「掴まってろよ。」
「へ?」
突然ユウさんが走り出した。
しかし速さが尋常じゃない。
しかもこんなに速いにも関わらず足音が全くしていない。
さっきのトキメキも何処かへ消え去っている。
結局ユウさんは、私を抱えたまま古代林まで走った。
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「よし、着いたな。」
ユウさんが足を止めると、何故か、何故か羞恥心が湧き上がってきた。
「ユ、ユウさん!」
慌ててユウさんから離れる。
顔は恐らく真赤だ。
「ん?」
ユウさんは「どうしたんだ?」という目で見ている。
何故恥ずかしくない。
い、いや待てよ....まさか普通の冒険者はあの程度じゃ全く恥ずかしくないのでは....
「どうした?行くぞ」
「は、はい!」
駆け足でユウさんの隣に並ぶ。
「ユ、ユウさん。」
「____なあ。」
「はい。」
「その....ユウさんってのやめてくれないか?」
「?ではサキトさんですか?」
「いや、そうじゃなくてその、さん付けをやめて欲しい。」
「そ、そうですか?では____ユウ....で?」
「ああ、そっちの方がなんだか良い。」
「わ、わかりましt__「敬語も止めろ。」
私の言葉を遮ってユウがそう言う。
「え....えっと....」
「で、なんだ?」
「へ?え、えっとなにがです?」
「だから敬語は止めろと....」
「___わ、わかった。」
「まあいい....で?さっき何を聞こうとした?」
「あ、えっと。あの......さっきしたアレは...?」
「ん?ああ、アレか。アレは足と地面に雷魔法で磁力を流して、同極同士が反発し合う性質を使っただけだ。」
なにを言っているのかサッパリだ。
「わ、わかった。」
「で?奴はどこだ?俺はオーガの生息地なんぞ知らんぞ?」
「えーっと.....それは依頼主自身も把握していないそうで....」
「は?」
「この地域に出没するらしい。でも正確な位置等は不明だそう。」
「ハァ.....なんでこんな依頼受けたんだよ。」
「うぅ.....」
返す言葉も無い。
「ワン!」
「ん?」
突然、ユウの狼が鳴き始める。
「どうした?」
「グルルルル.....ワン!ワン!」
「何かを......威嚇している?」
「へ?」
ユウの言葉に首を傾げていると......
スパッ
ジリッ
「ふぇ?」
何かが信じられない速度で投擲され、それは顔の前でユウの電流によって弾かれた。
「......なにかいる。」
「なにかって.....?」
「オーガがこんなに好戦的な態度を取ることはまずありえん、だとすると、また何か別のモンスターか.....?」
ユウが投擲された方へ歩き出す。
「え?嘘でしょ....」
私は覚悟を決めてユウを追いかけた。
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「グルルルル.....グルォォォォォォ!!!!!」
「!?」
そこは神秘的な空間だった。
木の隙間から差すわずかな光が地面を流れる水を輝かせている。
そして、その神秘的空間の中央には、一体のモンスターが立っていた。
____オーガだ。
「オーガがっ!?何故!」
オーガが人間に好戦的な態度をとるだなんて聞いたことがない。
「落ち着け、多分、こいつは特別な個体だ。」
「ど、どうして?」
「あの角をみろ。」
ユウに言われたように、オーガの頭から真っ直ぐと伸びた、一本の角に目をやる。
「通常のオーガは角が琥珀色だ。だが、あいつは真赤に染まっている。おそらく血じゃない。その上、通常種より角がデカい。」
確かに言われてみると、あの角は通常のものと違う....じゃああのオーガは一体....?
「まあ、これはお前の依頼だしな、取り敢えずお前が戦ってみろ。」
「へ?」
いまなんと?
「オンラインゲームでも寄生プレイヤーは嫌われるぞ?」
「オン....なに?」
「いいから行け、マズくなったら俺が手を貸す。」
「は、はぁ.....」
大丈夫かな.....
「お前は戻っていろ。」
ユウがそう言うと、狼は雷に包まれ、消えた。
____基礎に沿った闘い方を心掛けよう....
このフィールドは水が多い、つまり私が得意な水属性魔法を十二分に扱える。
また、この狭い空間であれば、攻撃を躱すというより防御する方が賢明だろう。
なら.....
私は腰から剣を抜刀する。
そして感知されないレベルで足元にある水を魔法でうごかす。
「ハァ!!」
意識をこちらに集中させる為、剣を振る。
カキッ
それはオーガの持つ棍棒に受け止められるが、かなりの力だ。
直接攻撃は私の防御魔法だと確実に貫通するだろう。
___ユウに頼ってはダメだ。
彼の力に甘えるな、それじゃあ何時まで経っても冒険者とは言えない。
「せあ!」
続けて攻撃を行い、意識を完全にこちらに移す。
行ける、これなら勝てる!
ちょっと卑怯だけど、地の利を活かさせてもらう!
そして____
今だッ!
一気に圧縮した水属性魔法を背中から発射する。
しかし___
ガキッ
「なッ!?」
その水属性魔法は防御魔法で出来た数枚の盾で防がれた。
途端、周囲の動きが一気に遅くなる。
オーガが棍棒を振り上げるのが見える。
マズい、これは.....死___
サッ
「!?」
ドンッ!!!!
突然自分の身体がオーガの攻撃のリーチ外に出る。
棍棒は地面に思いっきり叩きつけられ、水飛沫が上がった。
ユウが私を抱え、助けたのだ。
「____成る程、いい戦略だ。意識を自分に移し、視覚外から周りの水を一緒に用いた高出力水圧カッターを放つ。戦い方としては間違いじゃない。通常種なら今ので勝てただろう。だが___こいつは異常だ。」
ユウが立ち上がる。
そして両腕から雷魔法で作成した刃を出した。
「残念だが、お前は冒険者管理協会に希少種として提出させて貰う。」
そして一気に距離を詰め、二本の刃でオーガを斬りつける。
オーガは一瞬反応が遅れ、モロにそれを食らった。
「グルォォォォォォ!!!」
オーガが反撃に出る。
ユウはそれを受け流し、斬りつけていく。
「凄い....」
思わず関心の声が上がった。
魔法で生成した武器を使う魔術師は別に珍しくない。
比較的低コストで性能の高い武器を作り出せるからだ。
魔法で生成した武器は、魔法武器として位置付けられる。
魔法武器は、出している間ずっと、魔力を消費し続ける。
又、魔法武器には二種類あり、一つはその属性魔法に特化した属性型。
もう一つはなんらかの方法で切れ味を極限まで高める代わりに属性値を下げる切断型だ。
前者は燃費が悪いが、比較的作りやすく、強力な武器が出来上がる。
対して後者は燃費がとても良いが、生成が難しい上に性能が属性型に劣る。
ユウの魔法武器は後者の切断型だ。
あの二本の刃を、それぞれ一本の剣として扱っている。
故に巧妙さが無く、防ぎ易いが、次の手は無限大に考えられ、相手に精神的プレッシャーを与える。
剣裁きも中々のものだ。
前線に出て直接攻撃も出来、後衛でも高い属性魔法を放てる。
あんな魔術師がパーティーに一人でもいればとても楽だろう。
ユウは異常だ。
「へ?」
突然、不利と判断したオーガが私を標的に移した。
「チイッ!!」
ユウがそれに反応するが......
「!?」
私への攻撃はフェイントで、オーガはユウに棍棒を振るう。
咄嗟に反応したユウは思いっきり後方に打ち上げられ、壁に叩きつけられた。
ユウはそのまま動かなくなる。
「ユウ....?」
返事はない。
「嘘だ.....」
こんなことがあるのか.....?
「ありえない.....」
信じられない.....
オーガが棍棒を振り上げる。
そして....思いっきり____
バンッ
右腕が弾け飛んだ。
「グルォォォォォォ!!!」
あまりの激痛のオーガは右腕を抑える。
壁には数cm程の穴が開いており、放たれた方角には、腕を構えたユウがいた。
腕の先から僅かな電流が流れている。
「おいおい、何時から対戦相手を変えた?」
腕を抱えて膝をつくオーガに魔法武器を出したままユウが近寄る。
「相手に一瞬の隙を作り、そこを突く。戦術としては悪くない。正直驚いたよ。だが.....死体は、ちゃんと確認した方がいいぞ?」
ユウが魔法武器を振ると、オーガの首が飛んだ。
私は急いで治癒魔法をかける。
「必要無い。傷は完治している。」
「で、でも血が....」
「治癒魔法は付着した血までは消えん。」
「___ごめんなさい.....」
「ん?何故謝る?」
「だって....私の所為で....私が居なければユウはあんな目には.....」
「____何を言っている?お前は善戦した。通常種であればあれで倒せた。だが相手がイレギュラーだっただけだ。それに、もし俺が一人で奴に鉢合わせたとしよう。通常種と同じ戦い方をして、隙を突かれて死んでいた可能性もある。」
「で、でも.....」
「そう深く考えるな。過ぎたことだ。そんなに気になるんなら、次からそうならないように気をつければいい。」
「____ありがとう.....」
「____ん?」
ユウが何かに気がつく。
「こんなのあったか?」
いつに間にか、フィールドの中央に一本の錆びた棒が突き刺さっている。
いや、あれは剣だ。
古く錆びていて、所々で刃が欠けている。
ユウがそれの近寄る。
「これは....剣か?」
「そのよう....ですね?」
「引き抜いてみるか。」
ユウがそれの触れる。
すると___
ユウが倒れた。
「ユウ....?」
私はユウの元へ駆け寄る。
「ユウ.....ユウ?ユウ!ユウ!!」
反応しない。
「ふぅ....やっと追いついた.....」
突然入り口から声がし、そこを見ると、そこにはジョフさんが立っていた。
「ジョフさん!」
「ん?君は...スノー、だったか.....ん?ユウ!?どうしたんだ!?」
ジョフさんがユウに駆け寄る。
「何があった?!」
「分からないんです、その剣に触れたら、突然ユウが倒れ出して.....」
「剣?何処だ?」
「そこに....あれ.....?」
先程まであった剣が何処にも無い。
「無くなってる....?」
「なんだかわからんが、厄介な事に首を突っ込んだな....」
そう言いながら、ジョフさんがユウの首筋に触れる。
「体温はある。」
次に胸に耳を当てる。
「心臓も動いている。」
そして、ユウの口元に耳を近づけた。
「呼吸もちゃんとしてるな.....生きてる。だが、気絶に近い状態にあるのか....」
「どうしましょう?」
「とりあえず、近くの街まで運ぼう。」
「は、はい!」
「だが.....その前にここを片付けなくちゃな....」
「え?」
ジョフさんが剣を抜き、入り口に構えると、そこから数体のモンスターがでてきた。
「ユウを守るぞ!」
「はい!」
私も剣を拾い上げ、構えた。
楽しんで頂けたでしょうか?
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