五話 人は、いつも過保護に接してくるが、それはただの自己満足に過ぎない。
冒険者序列、それは冒険者登録を行った人間、魔族以外の全種族の冒険者の戦闘能力を序列化、即ち現在連合軍側の戦力を序列化したものである。
その頂点に立つ、冒険者序列1位、ジョフ・ディデイラ・ヨネル。
かつて人種でありながら《人類最強の剣士》と呼ばれ、その身で神にまで成り上がった剣を司る神、ヨハンの再来とも呼ばれる化物だ。
《最強の男》《人類の頂点》《聖騎士ジョフ》....
数々の称号を欲しいがままにした現在連合軍の最終兵器、切り札、最強の駒。
そんな男が....なぜ....なぜ....
「俺の後ろでニコニコしながらついて来てんだ?」
そう言い、俺は後ろからついて来ているジョフに問いかける。
「だから言ったろう?俺はお前の子守をするだけだ。暇だしな。」
「暇なんだったら魔王城に単騎でカチコミして魔王の首とってこいよ.....」
「いやいや、そりゃ無理だ。いくら俺が1位でもそれは無理。1位が言うんだから間違いない。」
「なんか腹たつなお前。」
「HAHAHA。」
ぶん殴りてぇ....
「ユウさん!」
入り口から出てきた俺に、スノーが駆け寄る。
「大丈夫でした?怪我は?なんともありませんでしたか?」
なんでこの子こんなに心配してるの?
「大丈夫、大丈夫だからその服を脱がせようとしている手を退かせ。」
「だって怪我してたら....」
「なんともないっての.....____で?さっきからお前はなんでそんなにニコニコしてんだ?変態か?変態なのか?」
横でニコニコしながら俺たちを見つめるジョフに俺はそう言う。
「まあまあ、いいじゃねえか。」
「なにがだよ.....じゃ、俺は宿にでも泊まるから___ってなんで道塞いでんですかね....」
「言ったろ?今日から俺はお前の親父。宿なんて泊まらずに俺の家に__「いやこっから何千km離れてんだよ?」
ジョフが言い切る前にそう言うと、ジョフは「それもそうだな」と言って続けた。
「なら、このギルドに住めばいい。幸い、宿泊施設は揃ってる。」
「いやいや、何処の世界にギルドのお偉い方が宿泊するような場所に泊まる冒険者がいる?」
「目の前に。」
「したのかよッ!!」
全く、なんなんだこいつはいやマジで....
「あ、あの....」
「「?」」
スノーが少し気まずそうに入る。
「ジョフさんがユウさんの父親というのはどういうことなんですか....?」
「えーっとだな.....」
なんと言えばいいんだろうか.....
「つまり俺達は親子だ。」
「「「「「ええええええ!?」」」」
スノーを含めた、全冒険者がその一言に驚愕したz
「馬鹿!なにてめえいい加減な事を!」
「まあまあ硬い事は言わずに来いって」
そう言い、俺のマントを掴んで引きずる。
「ちょッ、やめッ!離せってッ!」
「まあまあよいではないか、よいではないかぁ〜」
「よくねぇ!!」
結局ギルドに泊まった。
--------------------------------------------------
「ハァ....」
「おお、よく寝たか?ユウ。」
寝室から出た俺に丁度ソファで新聞を読んでいたジョフはそう言う。
おっさんか....
「ほっとけ.....」
そう言い、マントや上着を掛けていたポールハンガーから服を取ろうとしたが、無い。
どこにも、無い。
「おいジョフ.....俺の服は?」
「ん?棄てた__「てめえなにやってんだッ!!!やべえ、やべえよ!外出れねえじゃねえかああ!!もうどうしてくれんだこの野郎!!!!」
「まあまあそんなに怒んなって。別にお前に意地悪する気で棄てたんじゃない。___ん?いや待てよ、すまんすこし意地悪する気はあった。」
「頼む死んでくれ....」
「ハハハ、まあ安心しろ。お前の服はある。」
そう言い、ジョフはクローゼットを開ける。
するとそこには左右に黒の服と白色ズボンがひとつずつ。
中央には、白いコートが置いてあった。
ジョフはドヤ顔で『どうだ』って感じでいるが、肝心な事を忘れている。
「俺の目を隠せねえだろフードくらい付けろよ馬鹿か?馬鹿なのか?」
「そういうとおもって、これだ。」
怒りを込めてそういう俺に、ジョフはあるものをだした。
「これは......?」
「カラーコンタクトというらしい。魔族達が連合軍側にスパイを送る際、付けるそうだ。」
「お、おう。」
まさかこの世界にカラコンがあるとは.....意外にも程がある....
「ほらよ。」
「おっと....」
ジョフが投げたケースを俺は受け取る。
「じゃあ、その髪洗い流してこい。」
「____は?」
こいつ.....いまなんと....?
「だから、その髪のペンキ、洗い流してこい。」
「いやなんで知ってんの!?」
お、落ち着け俺。
何故こうなったかを冷静に考えるんだ。
ペンキが汗かなにかで少し落ちていた?
単にこいつがそれを知っていた?
俺が黒髪でいた所を見られていた?
考えろ....考えるんだ....
「あぁ、本当にペンキなんだな?」
「ふぇ?」
途端、思考が停止する。
ゑ?
「ただ勘でペンキで染めてると言っただけだぞ?」
「なん....だと....?」
こいつ....一見馬鹿に見えるが、いや馬鹿にしか見えないが実際はお花畑では無くかなりの思考回路を....
待て、心理戦で有利に立つ術を持っているだけ.....つまり、俺は今、こいつに心理戦で敗北した事になる。
なんてやつだ....人類最強と言われるのも納得が行く....
「ハァ.......わかった、降参だ。お前には絶対に敵わん。」
「ほぅ、やっと素直になったか?」
「ああ、言い方が少々癪に触るが.....まあいい。」
そう言い、俺は服を脱ぐ。
そして風呂場に行こうとした所で、ジョフがいきなり俺の手を掴んだ。
「___どうした?」
「_______おいユウ.......これ......誰にやられた.....?」
ジョフはかなり怒りの篭った声でそう言う。
「は?」
なんのことだと見ると、それは俺の身体中に出来た傷跡の事だった。
「___気にするな、冒険での__「嘘をつくな!」
「ッ!?」
ジョフに怒鳴られ、俺は硬直する。
「これはどう見ても10年.....いや、それ以上、最低でも12年以上前に出来た傷跡だ。お前は4歳の時から冒険に出てたとでもいうのか?!」
「_____詮索しないでくれ。」
「ッ!す、すまん.....」
そう言い、ジョフは俺の腕を離す。
「ハァ....全く、俺の父代わりは面倒な奴だな。」
「そ、そうだな.....」
ジョフは少し悲しそうな目をしていた。
--------------------------------------------------
「さて.....湯船に浸かるのは何年ぶりだろうか?」
この世界の宿に湯船なんて物はない。
当然俺の住んでいた家にもだ。
つまり.....
「死んだ日の昨夜に入ったのが最後か......」
全く、彼奴は悪い奴じゃないとは思うが....本当によく分からない奴だな。
--------------------------------------------------
「ふぅ、いい湯だった.....ん?」
風呂から上がり、籠を見るとそこには袖が長く、首の少し下まで行ったシャツと、長いズボンが用意されていた。
それを着てみる。
____ひんやりして気持ち良い。
なんの素材で出来てるんだ.....まあいい。
俺は服を着て、そこから出た。
--------------------------------------------------
「ユウ」
「?」
風呂から上がると、ジョフがすぐ声を掛けた。
「さっきの傷__「この服はなんの素材で出来ているんだ!?」
「!」
ジョフの言葉を遮るようにしてそう聞く。
「ひ、氷狼種の毛皮だ。」
「そ、そうか。ひんやりしていて気持ちがいいな。」
「・・・」
「そ、それにしても何故これを?とても価値の高いものなんじゃ.....」
「_____ハァ....肌の露出は困るだろ?」
「ああ。」
よし、元のジョフに戻った。
「それじゃあ....」
俺はコートのボタンを閉じ、ジョフに向き直る。
「依頼でもこなすとするか。」
「____似合ってるじゃねえか。」
「そうか?」
ふむ.....個人的に黒や灰色が好きなんだが.....まあいいか。
「じゃあな。」
「ああ。」
俺はジョフに挨拶し、そのまま部屋を出た。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
誤字、脱字、指摘等がございましたらよろしくお願いします