四話 人はいつも、予想出来ない事をするが、それは自分も例外でない。
「ハァ......」
小さく溜息を吐きながら俺は背後で歩いている少女の対応に頭を抱える。
このままダッシュで逃げれば彼女は追ってこれないだろう。
もし追いついたとしても、雷魔法を足に流して磁力を反発させれば竜種でも追いつけない。
だが、それでいいのか?
もし俺が去った後、彼女を何かが襲ったら?
もし何かがあったらどうする?
____ん?
なぜ俺はこんな事を考えているんだ?
別に恩がある訳でもない、惚れた訳でもない。
じゃあ何故......?
____ああ、なるほど。と、俺は理解する。
俺は別に彼女に惚れた訳でも、恩があるわけでもない。
『単なる自己満足』だ。
人を助けて、頼りにされるのが心地良い。
そんな、人にある捻じ曲がった感情だ。
____馬鹿め、何を善人ぶっているんだ?この偽善者が。
自分でそう罵りつつ、俺は歩いた。
目的地である、密林に向かって。
--------------------------------------------------
「ユウさん。」
「なんだ?」
密林に着くと、突然スノーが声を掛けてきた。
「桃源草って.....どこにあるんですか?」
桃源草___麻薬の一種だったか?
どこにあるんだろうな....
確か昔読んだ本に書いてた気が....
「ユウさん?」
「それだろ。」
そういいながら俺はすぐそこに生えている白い蕾の様な物が先端についた草を指差した。
「これですか。ありがとうございます。」
そういい、スノーは桃源草を採集し始める。
___俺の目的はサイクロプス一体の討伐だったか....?
探すのが面倒だな.....
「じゃあな。」
狼を暫く撫でた後、俺はそう言って立ち上がった。
「え?あっ!は、はい!ありがとうございました!」
そう言い、スノーは俺に頭を下げる。
それを背に、俺は密林の奥まで歩いて行った。
--------------------------------------------------
「......いない。」
おかしい、依頼がきていると言う事は村からかなり近い位置に出没する事が多いという事の筈。
じゃあ何故見つからない?
____ただ運が悪いのか.....特別その個体が俺を脅威と見なし隠れているか.....
いや.....いくらなんでもあの低脳なサイクロプスがそんな事出来る筈がない....
じゃあ何故....?
周囲1kmに渡って魔力を飛ばしているが、生体反応は一切無い。
ここまで歩いていないというのは流石におかしい....
_____まさか.....
召喚士.....
その言葉が俺の脳裏を過る。
た、確かに目撃情報によると通常のサイクロプスとは色が違うと.....
正確な色は不明だが、召喚士によって召喚されたモンスターは通常のモンスターとは色が異なる。
その上魔力を飛ばしても魔力源はその召喚士自身な為、モンスター自体はひっかからない....
だが....人間と思わしき生体反応はなかった筈じゃ....
「きゃああああああ!!!!!」
「ッ!?」
突然、密林に悲鳴が響き渡る。
「方角は南西.....声からすると....」
スノーッ!!!
俺は悲鳴の聞こえた方向へと向かった。
--------------------------------------------------
「う....嘘....でしょ....?」
先程スノーのいた場所につくと、そこではスノーがサイクロプスに追い詰められていた。
そこら中が傷だらけで、ボロボロになりながらも剣を向けている。
しかし、その姿を見た瞬間、俺は___
「ふざけんなよ?」
「ギャオァァァァッァ!!!!」
サイクロプスの背中に雷で作った刃を深々と突き刺していた。
その間の記憶はないが、一つだけ言える。
俺は今、かなりキレている。
「ユ、ユウさん!」
そう言うと、スノーは崩れ落ちるように座り込んだ。
刃を引き抜くと、サイクロプスは俺の方を向く。
「ギュルウォァァァァ!!!」
何故、何故俺はこんなにも怒っている?
何に対して?何故?どうして?
そう考える間にもサイクロプスの拳はどんどん近付いて来る。
わからない。
ジリッ
拳が俺に触れる寸前、磁場に弾かれ拳は逸れる。
わからないが、これだけは言える___
こいつは.....
「お前に対しての怒りだ.....ッ!!」
右腕から放たれた雷の光線はサイクロプスの身体を貫通する。
胸に大穴の開いたサイクロプスはその場に倒れこんだ。
「あ....ありがとうございます.....で、でもなぜ....?」
スノーが近づくが、俺は顔を上げられない。
あらゆる感情を棄ててきたと思った。
恐怖も、愛情も、幸福感も___
だが、だが何故か、何故かボロボロになったスノーの姿を見るのが怖く、俺は顔を上げられない。
「こいつは俺の討伐対象だ....」
俺は顔を伏せながらそう言う。
「大丈夫か?」
治癒魔法をスノーに掛けて、俺は顔を上げる。
「は、はい。___本当に、ありがとうございます」
「____戻ろう。」
「はい!」
それにしても.....
やはり、あのサイクロプスは召喚士によって召喚されたモンスターだった....
周囲1kmにスノー以外の人間は居ない。
召喚されたモンスターは、通常、召喚された位置から直径500m以内でしか移動することが出来ない。
つまりこいつの主は1kmより外からサイクロプスを召喚した事になる。
あれを召喚した術者は不明だが、見つけたら______
--------------------------------------------------
「ありがとうございます!ユウさん!」
機嫌良く酒を飲みながらスノーは俺にそう言う。
彼女はサイクロプスに攻撃をあたえていた。
そのお陰でそれが評価され、冒険者ランクが上昇した。
「そういえばユウさん、飲まないんですか?」
俺の分の酒が全く減っていないのを見て、スノーは俺に問う。
「酒は好きじゃない。それに、お前はまだ飲んじゃいけないだろう....」
「もぉ〜ユウさんまでそんなお母さんと同じこと言って!私は子供じゃありません。」
スノーは眉間にシワを寄せて俺にそう言う。
「そうか....そうだな.....」
そう言い、俺は立ち上がった。
「じゃあ、俺は宿を取るから、ここでさよならだ。俺の分も飲んでくれて構わん。」
「へ?あ、は、はい!ありがとうございました!」
そのまま出口に向かおうとすると____
「お前がユウ・サキトか。」
「?」
突然誰かに呼び止められた。
後ろを向くと、そこには一人の男が立っている。
筋肉質で、金髪。
髪は短い。
瞳は青く、髭は薄い。
身長は190cm以上はある。
「今朝の奴らの仲間か?」
「今朝の奴ら?なんの話だ?」
?違うのか.....?
「じゃあ、お前は誰なんだ?」
「俺か?俺は、ジョフ・ディデイラ・ヨネル。」
「え?」
スノーがそう言いながら酒の入ったコップを落とす。
「?知っているのか?」
「し、知っているも何もジョフを知らない人間なんてこの世界にいたんですか!?」
「現在進行形で、目の前に。」
「「「「ええええええ!???」」」」
その言葉に、周りの冒険者達も驚愕する。
「ジョフ・ディデイラ・ヨネル。冒険者序列1位で、人類の頂点に立つと言われている方です。」
スノーが俺の耳元で囁く。
「ふむ.....で、そんな1位様が、俺に何の用だ?」
「まあまあ、そんなに尖らなくてもいいだろ?ちょっとついて来いって。」
--------------------------------------------------
ジョフについて行った先は冒険者達が戦闘練習に使う演習場だった。
「よし、じゃあ.....」
「ッ!」
ジョフが振り向く寸前、いきなり強い光が俺を襲った。
眩しさで目を伏せるが、一瞬、ジョフが剣を持って近付いて居るのが見えた為、雷の刃を腕からだし、その剣に打ち付ける。
「チッ.....何の用だ!」
シャキッ
俺が剣を振り抜くと、ジョフは背後に飛んだ。
「ほう、本当に魔族じゃ無いんだな?」
「なんの話だ....!」
「そんな怖い顔すんなって。」
そう言い、ジョフは剣を収める。
「光魔法『ホーリーライト』だ。殆どの種族はただ眩しいだけだが、魔族は痛みを感じる。今お前は痛みを感じていなかった。つまり、お前はプロフィール通り、人種だ。」
「だからなんの話をしている!」
「子守を頼まれた。」
「.....は?」
「ギルドマスター直々の命令。『とある村に出現した少年の種族を探り、魔族であれば抹殺、出なければ将来連合軍の戦力とする為、訓練せよ。』だそうだ。」
「・・・」
「お前、親は?」
「____死んだ。」
「__そうか、そりゃ悪い事聞いちまったな。」
ジョフは葉巻に火を点ける。
「じゃあ、今日から俺が、お前の親父だ。よろしくな。」
「はい?」
そう言うと、ジョフはニッコリと笑った。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
誤字、脱字、指摘等がございましたらよろしくお願いします!