三話 人は可能性に満ち、とても強い心を持っている。
視点が変更されました。
彼女がこの作品の第二の主人公兼ヒロインです。
「ス....ノ.....」
うぅ....なに?
「スノ.....」
んん.....?
「スノー....」
うぅ.....
「スノー!!」
「はいッ!!」
大声で自分の名前を呼ばれ、私は跳ね起きる。
「いつまで寝る気なの?」
ベッドの側には私のお母さんが立っている。
どうやら私の名前を呼んでいたのは、お母さんのようだ。
私はスノー。
スノー・リフサイン。
「そうだ!今日は!」
冒険者になる日だ!
私が幼い頃から夢見た冒険者!
昨日、16歳になった今の私は冒険者になれる!
「行ってくる!!」
「待ちなさい。」
扉へ向かって走り出そうとした私をお母さんが止める。
「その格好で行く訳?」
「え?」
確かに、今の服装で外に出るのはマズい。
皺の過ったパジャマは、寝相の所為で少し肩が出ている。
そこからは下着がはみ出ている始末だ。
絶対襲われる。
確信出来る事実である。
「そ、そうね。じゃあ着替えてくる。」
「ハァ....ギルドに私服で行ってどうするの?」
「あ、そうか。」
「レザーアーマーなら準備してあるわ、動きやすい服に着替えてらっしゃい。」
「はーい」
私は自分の部屋に走っていくと、汚れても良いように少しボロボロな服を着て、母親からレザーアーマーを受け取る。
「うん、いいんじゃない?」
レザーアーマーを着た私を見て、母さんがそう言った。
「うーん、ちょっと違和感あるなぁ....」
「まあ、そのうち慣れるわ。いつか何も着けていない状態に違和感を感じるようにもなるわよ。」
「そういうものかなぁ?」
「そうよ。」
「まあ.....いいか。___じゃあ、行ってくるね。」
「はいはい行ってらっしゃい」
その声を聞くと、私はナイフを腰に差し、扉を開けてギルドへ駆けた。
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「うぅッ....」
ギルドに一歩足を踏み入れると、酒の臭いが鼻をつん裂く。
そっか....ギルドって酒場も兼ねてたんだっけ.....?
あんまり好きじゃないな....この臭い。
「さて....と。母さんの言ってた通りにやればいいんだ。」
よしッ、と気合を入れ、受付へ向かう。
「すいません。」
私が声を掛けると、受付嬢の人が顔を上げる。
「本日はどのようなご用件で?」
え、えっとたしか....
「ぼ、冒険者登録を....」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。___冒険者登録ですね。承知いたしました。」
そう言うと、受付嬢の人はカウンターの下から一枚の紙を取り出した。
「ここに、名前と種族をご記入下さい。」
「は、はい。」
言われるまま名前を記入する。
「スノー・リフサイン様ですね。間違いございませんか?」
「は、はい大丈夫です。」
「では次はこちらに、少しの血を垂らして下さい。」
そう言いながら一枚の石板と小さな針を渡す。
「わ、わかりました。」
そう言いながら、私は自分の指に針を刺し、そこから流れ出る血を石板に垂らした。
すると、石板から一枚の板が浮かび上がる。
「冒険者登録は以上となります。これが冒険者カードです。依頼で討伐したモンスターの数や種類は全てここに記録されます。再発行は有料ですので、くれぐれも失くさないで下さい。」
「は、はい。」
それを受け取り、ポーチに入れる。
「冒険者ランクの説明を致しましょうか?」
「大丈夫です。」
「承知しました、ではご武運を。」
受付嬢に手を振り、クエストボードへ向かう。
その時、一人の男性とすれ違った瞬間、何かを感じ、立ち止まった。
「?」
いまのは....?
受付嬢に依頼成功を報告している男性は、フード付きのマントを羽織っている。
これだけじゃ絶対に男性だとはわからない。
では何故?何故男性とわかったの....?
「____あ、あの....」
「____なんだ?」
「!?」
クエストボードへ向かおうとしているその人の顔をみて一瞬驚く。
その人は、瞳が紅く輝いていた。
しかし、前髪は黒ではなく、綺麗な青色だ。
「___なんの用なんだ?」
「ッ!」
ボーッとしていた私はその人の声で我に帰る。
「す、すみません....人違いでした。」
「そうか....」
その人はクエストボードに足を運んでいった。
なんだったんだろう?今の感覚は。
____ま、まあ依頼を受けよう。
さっきの人の隣に立ち、クエストボードから手頃な依頼を探す。
すると『桃源草10本の納品』という物があった。
どうやらRランク限定の試験のような依頼らしい。
「これか。」
そう呟き、その紙をボードから剥がすと、受付嬢に渡した。
説明を受け、ギルドをでようとしたその時だった。
「ねえ、君。」
「へ?」
突然声を掛けられ背後を振り返ると、数名の男性の冒険者がいた。
全員筋肉質でとても巨漢だ。
「君、さっき冒険者になったばっかりだよねぇ?じゃあ、俺逹と組まない?」
そういい、一番先頭の男が手を出すが、これは明らかにヤバいという事は私でもわかる。
彼等は報酬目当てじゃない。
私の身体だ。
「お、お断ります。」
そう言い、ギルドを出ようとするが、手を掴まれる。
「連れないなぁ〜、いいだろ?俺逹といこうぜ?人数多い方が早く済むだろ?」
まずい、これはかなりまずい。
意地でも一緒に行く気だ。
「え....えっと.....」
すると、横を通りかかったさっきの男性に目がいく。
ごめんなさいッ!!
心の中でそう叫びながら、その人の腕にしがみついた。
「わ、私、この人と一緒に行く約束をしているので!」
その人は少し驚いた様子だったが、ハァ、と溜息をついた後『そうだが。』と言ってくれた。
まさに命の恩人である。
感謝。
「あぁ?んだてめえ。そこどけや?」
チンピラか。
というツッコミを入れられるレベルの絡みだが、この人は全く動じない。
「なんとか言___」
言いかけたその時だった。
「失せろ。ぶち殺すぞ?」
「ッ!?」
その一言で男達は怯んだ。
「ぐ.......チイッ!」
舌打の後に、先頭にいた男が「行こうぜ」と言うと、全員向こうの方へ行った。
「す...すみません.....」
「そんな貧相なナイフ一本じゃ、襲われても仕方ないだろ。魔術師か?」
そういう彼だったが、彼自身は武器を携行していないように見える。
この人もナイフなのだろうか?
「ご、ご忠告ありがとうございます....」
「ああ、じゃあな。」
そう言い、ギルドを出ようとした彼の腕を私は掴んだ。
「____なんだ?」
「あ....あの.....」
「?」
私は無言でこちらを見ているさっきの男達を指差す。
「ハァ.....目的地は何処だ?」
「み、密林です.....」
「同じか....いいだろ、そこまで一緒に行ってやる。」
「ありがとうございます。___あの....」
「まだなにか?」
「名前は.....」
「ユウ・サキトだ。」
そう言い、手を出す。
「ス、スノー・リフサインです。」
私は差し出された手を握り返した。
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「あの.....」
「なんだ?」
「サキトさんは、魔術師なんですか?」
「ユウでいい。____まあ、そうだな。」
あ、やっぱり魔術師なのか....
そこから一切会話は無く、密林に向かって歩き続ける事数十分。
突然『くうん』という鳴き声がした。
その鳴き声に、ユウさんが足を止める。
「今のは.....?」
「___狼か。」
「ええ?群だったら結構まずいんじゃ....」
その言葉を他所に、ユウさんは鳴き声のした森のほうへ入っていった。
「あ、あの.....嘘だ....」
暫く立っていたが、腹を括って森の中に入る。
するとユウさんの背中は意外に近かった。
そこまで走っていくと、急に立ち止まる。
「いた。」
「?」
目の前を見ると、傷付いた一匹の狼が木のそばで倒れている。
「怪我してる.....?」
「・・・」
突然ユウさんは狼の方へ歩み寄っていく。
「そこにいろ。」
追いかけようとした私をユウさんは止めた。
「グルルル....」
ユウさんに気付くと、狼は立ち上がって、威嚇し始めた。
狼の周りに雷が帯電する。
変異種.....
その言葉が突然脳を過ぎった。
変異種。
狼は稀に、自身に属性魔法を宿す事がある。
火ならば炎狼種、水ならば水狼種、雷ならば雷狼種、土ならば砂狼種、風ならば風狼種といった具合だ。
この狼は雷狼種だろう。
「群から逸れたのか?」
「へ?」
突然ユウさんはそう呟く。
「いや、追い出された、か....」
___変異種という物は実はどんな狼でもなる事が出来る。
しかし、変異種となると大量の食糧必要とする為、群で活動することはもう出来なくなる。
あの狼はそれでも仲間と一緒にいたかったのだろう。
だから追い出された。
「____じゃあ一緒だな。」
「え.....?」
一緒....?どういう.....
バチッ
「!?」
突然ユウさんの身体に雷が帯電し始める。
危ないと思ったが、あれは狼の物ではなくユウさん自身の物のようだ。
すると、ユウさんは狼を抱え始めた。
そのまま毛を撫でている。
その顔は少し悲しそうだった。
狼の周りの雷がどんどん引いていく。
やがてなにも無くなった。
「くうん....」
狼はユウさんの身体に身体を寄せる。
「使い魔にした.....」
使い魔。
召喚魔法によって召喚する事の出来るモンスター。
しかしどんなモンスターでも使い魔にすることが出来る訳ではなく、使い魔に出来るのはとても特別な個体だけだ。
狼の変異種であってもその確率はかなり低い。
また、狼の変異種はその性質上とても凶暴である。
それを物の数秒で手懐けたユウさんは調教師として天才的なセンスを秘めているのだろう。
「あ、あのユウさ____」
「グルルルル.....」
「え?」
私が近付こうとすると、突然狼が威嚇しだした。
「近付くな、お前をかなり警戒している。」
「なんでッ!?」
え?私なにかあの狼に悪い事した?
「大丈夫だ....あいつはなにもしない。」
そう言いながら毛を撫でると、狼は威嚇を止めた。
再びユウさんは立ち上がり、歩き始める。
「どうした?密林まであと少しだぞ?」
「へ?あ、は、はい!!」
私はユウさんの元へ駆け寄っていった。
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