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二話 故に人は信用に値しない

「ここが冒険者管理協会(冒険者ギルド)支部か.....」


村の中央にある巨大な建物を見て俺はそう呟く。


そして軽く被っていたフードを深く被り、そのままギルドへ入っていった。


--------------------------------------------------


中に入ると、そこは酒場のようになっていた。

受付のすぐとなりに大きな板があり、そこには大量の紙が貼られている。

恐らく依頼だ。


受付の近くにもう一つ受付のようなものがある。

そこには十数台の椅子が並べられ、冒険者と思われる者達が酒を飲み交わしている。


その背後にも数台の机と大量の椅子が置いてある。

何れも、冒険者と思われる者達が酒を飲んでいた。


俺は受付まで足を運び、受付嬢に話しかけた。


「あの....」


俺が声を掛けると、何かの書類を整理していた受付嬢はこちらを向く。


「___魔族ッ!?はッ!しッ、失礼致しましたッ!」


俺の眼を見て一瞬驚いたが、青色の前髪に気付き、急いで受付嬢は頭を下げる。


「いや、構わない。____冒険者登録がしたいんだが....」


「わ、わかりました。で、ではこちらに名前と種族を御記入ください。」


___文字は13年間書いていないが....大丈夫だろうか?


俺は筆を手に取り、名前を書く。


しかし、「ユウ」の部分を書き終えると、手が止まった。


___俺、苗字しらないぞ?

____まあいい、現世の物を使わせて頂こう。


そのまま「サキト」と記載し、種族の欄には人種と記載した。


「ユウ・サキト様ですね、承知いたしました。では、次にこの針を使用し、こちらの石版に血を垂らしてください。」


受付嬢に言われた通り、俺は血を垂らす。


すると、その石板の上に1枚の板が浮かび上がる。

まるでクレジットカードのような材質をしていた。


「冒険者登録が完了いたしました。こちらが冒険者カードとなります。」


そう言い、差し出されたカードを俺は受け取り、ポーチの中に入れた。


「それでは、冒険者ランクについてご説明させて頂きます。冒険者ランクとは、全冒険者の階級の事です。一番上のSSから順に、S,A,B,C,D,E,F,Rの8段階となっております。ランクRは見習いであり、依頼を一つでも熟せば、その依頼達成時の成績に応じて、最高Dまで昇格する事が可能です。また、規定により特定のランク以上でないと受注出来ない依頼も御座いますので、ご注意下さい。」


「わかった、ありがとう。」


「冒険者ランクの説明は以上です。魔法適正値のご確認も可能ですが、どうなされますか?」


魔法適正値か....流石にあの雷魔法は気になるな....


「お願いする。」


「承知致しました、ではこちらへ。」


そう言い受付嬢はカウンターを開いて奥の部屋に招き入れる。


その部屋に入ると、そこには椅子が一つ、置いてあった。


「そちらにお座りください。」


受付嬢にいわれるがまま、椅子に座ると、その受付嬢は俺の額に手を翳し始めた。

すると、そこに魔法陣が浮かぶ。

暫くすると、受付嬢は腕を下ろした。


「雷魔法が7、それ以外は全て5となっております。」


「_____わかった、ありがとう。」


___雷魔法以外全て5?


雷魔法ですら7....おかしい、あんな芸当、7などで出来る様な事じゃ無い。


じゃあ何故.....?


いや、考えても仕方がないな.....


取り敢えず、依頼でも熟すか。


で、今の俺のランクはRだから受けられる最高難度の依頼は.....これか?


クエストボードにあった紙の一枚には、


『オーク3匹以上の討伐 契約金10z 成功報酬300z+1×100 期間無期限』


と書かれている。


「これだな。」


そう呟くと紙をボードから剥がし、受付嬢に渡した。


「はい、『オーク3匹以上の討伐』ですね。オークを一匹討伐する毎に冒険者カードに記録されますので、3匹以上の討伐後、ギルドに提出すると報酬を受け取れます。3匹討伐した際は300z、それ以上討伐すると、一匹につき100zずつ加算されていきます。期間は無期限ですのでじっくりと貯めていくのも良いかもしれません。しかし、一度に複数の依頼を受注することは出来ませんのでご注意下さい。」


「了解した。」


そう言い、入り口へと歩き出す。

すると___


「あんた。」


「?」


肩を掴まれ、俺は背後を向く。


そこには一人の男が立っていた。


「ッ!?」


一瞬俺の眼を見て驚いたが、直ぐに俺の前髪に気付き、話を続けた。


「___っと失礼、俺はキースってんだが.....俺もさっき冒険者登録したとこなんだ。そこで、同ランク同士同じ依頼を熟してパパーっと一緒に昇格しようと考えたんだが.....どうするよ?」


____一体なんなんだ、こいつ。

いきなり声を掛けて....何を企んでいる?


「何企んでんだ、って顔だな。」


「・・・」


「さっき言ったように、楽して昇格するだけの簡単な話だ。どちらにも損害はでない。むしろ有益なんだよ、わかるだろ?」


「___一体いきなりなんなんだ?」


「やっと口聞いてくれたな。」


「・・・」


「この事を早めに思い付いて、やろうと思ったが偶々新規冒険者登録をしているあんたが目に止まっただけ。別にあんたを狙ったわけじゃない。俺はあんたのことなんざ一つも知らねえし、知る必要も無え。」


「・・・」


こいつは尋常じゃないレベルに怪しいが、確かにこいつの言っていることは有益な事と考えられる。

こうすれば、山分けでも報酬は上がるし、高い成績を残せる為、他の冒険者達よりも比較的早く昇格する事も出来る。


___一つでも怪しい事をすれば感電死させれば良いさ。

なに、俺への障害は無いに等しい。


「____良いだろう、分け前は?」


「報酬は5分5分、フェアだろ?」


「____わかった。だが、俺はお前を信用しない、わかるな?」


「へいへい、少しでも怪しいことすりゃあ、即攻撃してきても俺は文句言わねえよ。」


____まあいいか。


「ユウ・サキトだ。」


俺は手を差し出す。


「キース・バーナ。」


そいつは俺の手を握り返した。


--------------------------------------------------


「なあ、えーっと....」


「ユウでいい。」


「わかった、じゃあ俺の事もキースで構わねえ。で、ユウ。」


「なんだ?」


「こっちであってんのか?」


周りは木が生い茂っている。

森のかなり奥の方に入ってきた。


俺は地図を手にして歩いているが、正直俺にもこっちであってるのかわからん。


「ち、ちょっとユウ、見せてみろ。」


「ん?」


俺はキースに地図を渡す。


「______ユウ.....」


「なんだ?」


「これ.....地図逆だぞ.....」


「そうか、それなら来た道を戻ろう。」


「いや.....戻るも何も...」


そこでキースは言葉を切る。


「なんだ?」


「ここ何処!?」


キースの悲痛な叫びが森に響き渡る。


「知らんが来た道を戻れば大丈夫だろ、真っ直ぐにしか歩いていないんだから。そんな事もわからないなんてお前もしかして馬鹿か?」


「いや....地図を逆に持ってたのはあんたにだけは言われたくない....」


「まあいいだろう、そんなクソどうでもいい事、うだうだ言ったところで現状は変わらん。」


「なんであんたはそんなに落ち着いてられんだ....」


「いくぞ。」


俺は歩き出す。


「お、おい、ユウ!待てって....」


キースが駆け寄ってきたその時____


「グルォォォォォォン......」


一つの唸り声が森中に響き渡った。


「い、今のは.....?」


「オークか、結構速く見つかったな。」


「馬鹿かあんたは!!」


「は?」


キースはかなり焦っている様子だ。


「あんな唸り声、オークなんかがあげられるもんじゃねえ!あ、ありゃあ、もっと....もっと恐ろしい何かの.....」


ドスン.....ドスン.....ドスン.....


何かの大きな足音が響く。

それはドンドン近付いて来るようだった。


「お、おい....ユウ.....あいつ、こっちくんぞ.....」


キースはかなり怯えている様子だ。

足はガクガクと震えており、剣に手を掛けている。


「そりゃあ好都合だ、探すのも面倒だしな。」


「なっ!?あ、あんたッ!正気かッ!?あんたも俺と同じ前衛なら、なんとかなったかもしれないが、あんたは魔術師!勝てるわけがない!!!」


「おいおい....」


「な、なんだ....?」


「落ち着けよ、それに何時、俺は魔術師と言った?」


「は?だって剣を....」


「剣が無いからって魔術師扱いするな。」


「じ、じゃあ.....まさか.....格闘士(モンク)なんて言わねえよな....?」


「馬鹿、ちげえよ。」


「グルォォォォォォ!!!!!!」


突然、足音が止み、巨大な咆哮が森中に響き渡り、木々を揺らす。


目の前に巨大な怪物が立っていた。


見つかったようだ。


それはデカかった、10mはある。

巨大な腹に、黒い肌。

顔は豚の様で、右腕には棍棒を握っていた。


「見つかった.....もう終いだ.....」


キースは膝をつく。


「ったく....情けねえな.....」


俺は歩き始めた。


「お、おい!ユウ!し、正気か!!」


「グルォォォ!!!」


怪物は棍棒を振りかざす。


そして直撃する寸前____


ジリッ


ドンッッッ!!!


その棍棒が磁場の様なもので弾かれ、地面に叩きつけられる。


怪物は驚きを隠しきれておらず、キースは口が開きっぱなしだ。


急いで怪物は棍棒を引き抜こうとするが、遅い。


俺は手を前に出す。


全身の魔力を感じ取り、手にのみ集中させる。


すると掌に雷が収束し始め、中央が紅く光る光線のような物が手から撃ち放たれた。


「グォォォォォォ!!!!!!」


それは頭に直撃する。


怪物は棍棒を手放し、直撃した頭を抑え、屈みこむ。


俺はそのまま頭を踏み台にして上空に跳び上がった。

その状態で腕から雷の刃を出し_____


着地と同時に刺す。


「グルォォォォォォォォ!!!!!!」


怪物は断末魔の叫びを上げ、そのまま動かなくなった。


背中から飛び降りると、キースが問う。


「し、死んだのか?」


「ああ、感電死だ。やろうと思えば蘇生も出来るがどうする?」


「冗談は止せ....そ、それよりアレは一体なんなんだ!!!」


「何って....雷魔法だが?」


「それだけじゃないだろう!?」


「いいや、雷魔法しか使っていない。」


「いやアレは確実に防御魔法だろ!」


「磁場だ。それたのは棍棒じゃなくて、奴の腕輪だ。まあ棍棒も少しはそれたがな。」


「磁場ってなんだよ.....」


そうか....魔法が発達した世界故に科学は全く進歩していないのか....


「気にするな、それより、こいつはオークじゃないんだろう?」


「あ、ああ。ジェネラルオーク。Aランクが相手するような奴だ....」


「ほぅ、そんな奴殺ったのか。まあどうでもいいがな、依頼内容にジェネラルオークの討伐はカウントされない、とっととオークを狩るぞ。」


「あ、あぁ....」


キースは力無く答えた。


--------------------------------------------------


「俺達の昇格を祝して、乾杯ッ!!!」


キースは俺の持つコップに自身のコップを打ち付ける。


「まさかあんたがあそこまでの実力を有してたなんてなッ!」


最終的な成績はゴブリン15匹だった。

報酬は1500z。


外は真っ暗だが、ギルドは賑わっている。


「ほらよ。」


俺は1500z全て渡す。


「おっと。___おい、ユウ。約束は5分5分、これは全部じゃねえか。」


「ジェネラルオークの報酬が25000z。別にいらんからお前にやる。」


ジェネラルオークの討伐はかなり評価された。

おかげで俺のランクは一気にD。

それ以上の評価をやりたいとこだったらしいが、流石に規定違反は出来ないらしい。


「で、ユウ。」


「なんだ?」


「お前、今日何処の宿で泊まる気なんだ?」


「考えていない。」


「じゃあ一緒に部屋借りようぜ、あんたともう少し飲みたい。」


「別に構わんが、俺は未成年、酒は飲まないぞ。」


「ん?」


キースは俺のコップの目をやる。


コップの中のぶどう酒は一滴も減っていない。


「俺は酒を飲めん、やるよ。」


「おぉ、すまねえな。」


キースは俺の分の酒も飲んだ。


--------------------------------------------------


「中々いい宿だな。」


部屋に入ると、俺はそう言う。


「だろう?俺がいつも泊まってる宿だ。」


広さは6畳程。

壁には二つの窓があり、部屋には二台のベッドと一台の机と椅子が置かれていた。


「なあユウよ。」


「なんだ?」


「少しは飲んでくれよ、俺だけじゃ面白くないだろう?」


「何度も言ってるだろ?俺は未成年、酒は飲めん。」


「だから未成年ってなんなんだ?」


_____そうか、この世界に未成年が酒を飲んではいけないなんて法律は存在しなかったな。


「なら少しだけ。」


そう言うとキースは笑みを浮かべてコップを差し出す。


「最高級のブランデーだ。一気に行けよ?まだまだあるからな。」


そう言い、キースはコープみブランデーの入った小タルを入れ、それを飲み干す。


「・・・」


俺はそれを一気に飲み干す。

すると、視界は真っ暗になり俺は気を失った。


--------------------------------------------------


「ううッ....」


頭が痛い、なんでだ?


起き上がるとクラクラとする。

部屋にはキースの姿は無い。


「うぐっ.....」


駄目だ、なにも思い出せない。

昨夜、何があった?

どうしてこんな.....ん?


すると、机の上に一枚の紙が置いてあることに気付いた。


『よおユウ、目が覚めたか?まさかあそこまで速いとは思わなかったが....計画は成功させてもらった。別にあんたに悪気は無いが、俺も金に困っているもんでね。全財産を頂かせてもらったよ。だが俺も鬼じゃない。宿代くらいは払ってやった。あと、残念だが俺はその村にもういない。まあ、楽しかったよ、じゃあな。 キース』


「・・・」


ボッ


手紙は一瞬で灰と化す。


忘れていたな.............人は、信用に値しなかったんだ。


それを.....つい最近に知ったばかりだろう?


ハッ、俺も甘いもんだな。


どれだけ親しげに接していようと、人は人。


醜いことに変わりはない。


だからこそ......人は、信用に値しない。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

誤字、脱字、指摘等がございましたらよろしくおねがいします。

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