一話 人は醜く、とても弱い
スマホを修理に出していた為、投稿がかなり遅れてしまいました。
申し訳ありません。
そして、前回言いそびれてしまったことですが、この小説は同時更新中の『なんか異世界に転生させられたっぽいんで海賊やってみようと思うんだ。』の300万年前という設定となっております。
主人公同士が会うことはありませんが、名前のみ登場するかもしれません。
____何年経っただろう?
7歳からもう数えてない....
俺は.....殴られ続けた。
この十数年間、ずっとだ。
毎日毎日、前世の虐待なんて比にならないような、そんな拷問じみた暴力を振るわれ続けた。
口の中は血の味しかしない。
俺は、恐怖を失った。
恐怖と言っても、それは死に対する物だ。
全てではない。
死は誰にも平等で、そして恐ろしい。
誰かがそう言っていたな.....
だが、俺はそれに対する恐怖が無い。
いや、俺は逆に死にたいな。
様々な手を講じたが、意味は無かった。
前に舌を噛み切ったことがある。
しかし、治癒魔法で直ぐに治された。
拘束されている現状、自殺する選択肢は限られる。
しかも全て行動から数時間を要す。
その間、彼奴らに見つからないなんて有り得ない。
治癒魔法で治されて直ぐに自殺しようとした罰を与えられる。
剣を四肢に刺され、腹を殴られ続けるという物だ。
終われば治癒魔法。
だが、此奴らの治癒魔法は弱すぎる。
傷跡が残るくらいだ。
煙草を押し付けられる事は日常茶飯事。
雷魔法で全身に放電しながら殴ったり蹴ったりする、それが此奴の日課だ。
だが、俺が魔法を使う事は出来ない。
どうやら首に取り付けられたこの首輪が、魔法を妨害しているようだ。
まあ、そんな毎日を過ごしていたということだ。
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「うらぁ!!!」
「ッ!」
男は俺の腹に本気のストレートをかます。
もう慣れた。
大したことじゃない。
「チッ、もう鳴かなくなったか。はええな.....ん?いや....13年もありゃ普通か。」
13年....?
そんなに経ったのか....フッ、俺が死んだ歳と同じだな。
「気に入らねえ。」
.....は?
「お前のその、どっかにある余裕が、気に食わねえんだ、よッ!」
そう言い、俺の腹をもう一度殴る。
「___もうそろそろいいな。」
なにがだ....?
「てめえ、両親が憎いだろ?へへへ」
男は笑いながら俺に問いかける。
「____当たり前だ。こんな目に遭わせたんだからな。」
「ったく、親の事になると口を開くな。それ以外で口きいた事なんざねえのにな、ああ?」
「・・・」
「____まあいい、わかってねえだろうなぁ.....」
「なにがだ....?」
「俺のクソ兄貴、ヨハンとその女がお前の命を守った事だよ。」
「___どういう意味だ....」
「ッ」
「ぐはッ」
突然、男は俺の腹を蹴る。
「あんまり調子乗ってんじゃねえぞ?ブチ殺すぞ、ぁあ?」
俺の髪を掴みながらそう言う。
「やれるんなら....やってみろよ....?歓迎するぜ....」
「チッ」
「ぶはッ」
男は俺の腹に土魔法で作ったスパイクを刺した。
「しばらくそのまんまでいろ。___てめえの親はてめえが魔族と同じという事を心配に思ってたんだよ。我が子を思う気持ちって奴だ。泣けるねぇ〜」
結構くるな....
「だがてめえの家は戦地になった。だから見つかっちまったんだよ。連合軍側にな。そして殺されかけた。」
連合軍___全種族側か。
それにしても、何が言いたいんだこいつは....
「彼奴らは、自分達の命と引き換えにてめえを俺の所に預け、見事命を救ったわけだ。」
「はっ.....?」
「わかんねえか?救われてたんだよ、てめえは。」
「嘘だ....」
「本当さ、てめえが憎んで憎んで憎みまくった実の親は、てめえを命と引き換えに守った恩人なんだよ。ハハハ。」
なん....だと....?
まずい....考えろ、考えるんだ。
冷静さを失うな、考えなければ精神が崩れる。
落ち着け....落ち着くんだ.....
「そう、その顔だよ!!その絶望と後悔の渦巻く顔が見たかった!!!」
「ぐッ」
さらに男は4本のスパイクを俺の腹に刺す。
そして____
「ぐあああああああああああ!!!!」
雷魔法を一気に流される。
「ハハハハハ!!!!どうした!どうしたさっきまでの余裕は!ハハハハハ!!!」
「グハッ」
放電が終わると、全身の力が抜けた。
「じゃあなッ!」
「・・・」
もう一発俺の顔を殴る。
「フフフ......」
「あ?どうした、壊れちまったか?」
そう言い、スパイクをもう一本刺すが、俺は反応しない。
「おいおい、本格的に壊れてんじゃねえか?」
忘れていた.....
人は、醜い。
欲に溢れ、エゴを下げ....
ただただ自分の欲に忠実に.....
そうだったろう?
人は信用に値しない。
だが、俺は此奴の言葉を信じてしまった。
それでどうだ?
人生で唯一、俺を愛した両親を13年間も怨みながら生活していたんだぞ?
___全てがどうでもいい。
「____だから、どうした?」
そう言い、俺は男を睨む。
「チッ、戻りやがった。」
男は俺の腹から全てのスパイク引き抜いた。
「・・・」
「___このままだと死ぬなぁ。」
男は俺の腹に治癒魔法をかける。
すると、傷はどんどん縮まっていき、最終的に塞がった。
しかし、なんだか歪だ。
「ったく....誰のお陰で、雨風凌げる屋根の下で暮らせてると思ってんだ!」
「ぐふっ」
そう言い、俺の腹を殴る。
続けて顔を蹴り、殴り続け俺の身体をサンドバックの様に扱い始めた。
「ねえ、まだおわんないの?早くシヨうよ。」
突然、男の後ろの入り口から、一人の女性が入ってくる。
こいつの女だ。
「わあったよ、しゃあねえなお前は。」
そう言い、男は俺の腕の鎖を外した。
「うッ」
ピチャッ
そんな音共に俺の身体は血溜まりに打ち付けられる。
「おい、クズ。そこに着替えは用意してある。とっととそこ片付けて着えろ。俺達が終わった後の片付けもして貰わねえといけねえしな。」
そう言い、二人は唇を重ねて出て行った。
脚に力が入らない....腕にもだ。
首輪の所為で治癒魔法は使えない。
「ハハ、ハハハハ....」
なんか、もう馬鹿馬鹿しい。
どうでもよくなってきたよ。
「だが_____不快だ。」
ピリッ
「!?」
突然の音に其方を向くと、一瞬だけ、青い雷が走っているのがみえた。
なんだ....いまの?
「あれ....」
足が動く。
____こんなこと初めてだ。
動けるまでにはもう少し時間が掛かる筈....
「____動ける。」
完全に回復した。
先程まで動かなかった部分が暖かい。
そう、これはまるで__
「治癒魔法みたいだ....」
治癒魔法....?一体誰が?
辺りを見回すが、誰もいない。
「・・・」
起き上がろうとしたその時。
ジャリッ
俺を中心にして蒼い稲妻が床に流れた。
「!?」
また.....おい.....まさか....
俺は人差し指を一本立てる。
そして全身の魔力を感じ取り、人差し指に集中した。
ボッ
そんな音共に小さな火がつく。
「成る程な....」
原因はしらんが、この首輪、壊れてる。
一番有力な説はあのクズの魔法乱用だが....
どうでもいい。
それより_____彼奴には罪を償わせなければな.....
俺は二階へと足を運んだ。
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ダンッ
「ッ!?」
俺がドアを蹴破ると、そこにはベッドでお楽しみ中の2人がいた。
「なんのつもりだ?あ?」
「あらあら、貴方も混ざりたいの?全く若い子は行けないわねぇ〜」
「黙れクズ共が。」
「あ?んだ?てめえ。」
「黙れつってんだ」
ビリッ
すると俺の足下に雷が走り出した。
「なっ!?てっ、てめえっ!何しやがったんだ!」
「さあな?お前の暇潰しで、こいつがぶっ壊れたんじゃねえか?」
そう言い、俺は首輪を指差す。
「チッ......まあいい....こうなったならぶっ殺すしかねえな。」
「______お前だけは絶対に殺す!」
俺が拳を握ると、雷が俺の身体を帯電し始める。
「調子こいてんじゃねえぞ!!」
男は炎の弾を飛ばす。
バリッ
「なッ!?」
しかし、その弾は俺に到達する前に磁場のようなもので逸れ、消え去った。
「それで終わりか?」
確かに雷が身体を帯電しているが、全く身体は痺れない。
恐らく魔法というのはそういうものなのだろう。
「フッ.....」
さらに拳を握ると、雷による爆発が発生し、建物が倒壊した。
「あ....ありえねえ....」
男は瓦礫を押しのけ這い出てくる。
雷属性魔法と言うものは高度な魔法だ。
まず形を維持させるのが難しい。
球を作るだけでかなり疲れる。
だが、正面にただ飛ばすだけならば全属性魔法の中で最も容易だ。
故に____
ジリッ
俺は両腕から雷の刃を出す。
刃と言っても床に塞がれてそう見えるだけだが。
その状態で歩き出すと、男は後退りし始めた。
「く....来るな....」
「どうした?」
「くるな!」
「怖いのか?」
「くるなァ!!!」
俺は腕を振り上げ、男をX字に斬りつける。
「ぐあああああああああああああああ!!!!」
男の身体に大量の雷が流れ込み、男の身体が帯電し始める。
すると、男は断末魔の叫びを上げた。
「あく....ま.....め.....」
そう言い残し、男は倒れる。
身体からは煙が上がっており、真っ黒だ。
「死んだか....もっといたぶればよかったな。」
___それにしてもどう言う事だ....?
俺の魔法適正値は全て5な筈。
さっきの爆破は明らかに8以上だ。
____どういうことだ.....?
「ん?」
不意に気配を感じ、そちらを向くと、そこにはあの女がいた。
「ヒッ....」
俺と目が合うと、女は後退りし始めた。
「お、お願い、お願いだから殺さないで.....な、なんでもするから!!」
そう言い、股を開く。
「______不快だ、失せろ。」
そう言い、雷をとばす。
それは胸の中心に命中し、女は糸の切れた人形の様に倒れ、動かなくなった。
あたりを見回す。
どうやらここは村外れの山のようだな、下の方に村が見える。
だが周りは木が生い茂っており、とても村の一部とは考え難い。
____それより、これからどうするか....
確かに酷い環境ではあったが食糧にはありつけた。
だが、それを消し飛ばした今、出来ることは最低限に限られる。
___そうだ、この世界には確か、冒険者管理協会なるものが存在した筈、この魔法があれば、生活には困らないだろう。
幸い、ギルドの支部はよほど小さな村でない限り、一つはある。
あの村で冒険者になるとでもしよう。
だが.....
俺は自分の身体を見下ろす。
この格好は流石にマズいな....
ボロ布一枚纏ったような感じだ。
しかも、あのクズの話が本当ならば、この髪のまま行くのもマズい。
あのクズの服ならありそうだな。
だが____
俺は半分崩れ落ちた家を眺める。
これ、服無事か?
まあ、探すしかないか。
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うん、あったな。
瓦礫が乗って壊れそうなタンスの扉を破壊すると、そこには服があった。
その中の一つに、フードの着いたマントがある。
____普通に服着て、その上からこれ羽織るか。
俺は今着ている服を脱ぎ、それを来て、上からマントを羽織った。
そしてフードを被る。
そのままあたりを見回すと、破れた鏡があった。
そこに写っている自分の姿を確認する。
前世の俺と瓜二つだ。
だが、一つだけ違う点がある。
「____この眼紅いな、こいつはどうするか.....」
魔族の特徴の一つとして瞳が紅いことが挙げられる。
当然、前世の俺の眼は紅くない。
普通に黒だ。
しかし、前世でも紅い眼の人間は存在した筈。
確率的にいうと0.1%を大きく下回るらしいが。
だが、いくらこの世界に魔族以外で紅い瞳を持つ者が居たとしても、そんな奴を見れば次に髪を疑う筈。
受付で冒険者登録をする時、確実にバレる。
つまり、いくらフードで隠した所で意味がない。
何か....何かないか....?
不意に、死体に目がいった。
___血.....?
いや、臭いでバレるか。
それに不快だ。
やっぱり無いのか....?
家の周りを歩きながら着色出来るものを探していると、中途半端に青色に塗られた壁のすぐ下に、何かの入れ物があった。
あれは.....
近付いて見てみると、それは青いペンキだ。
ペンキで髪を染めるか....?
いや、これも臭いで.....ん?
そこで、俺は2歳の時に父親に聞いたことを思い出した。
『こいつはペンキっていうんだ。色んな木の実を潰し、それを水に溶かしている。舐めたら甘かったりするぞ、ちょっと舐めてみろ。』
そう言われ、ペンキの桶に指を突っ込んで舐めた事があったが、確かに甘かった。
臭いも前世のペンキのあんな臭いじゃない。
まず臭いはなかった筈だ。
あのペンキがこの世界で一般的な物であれば.....
桶の中のペンキを嗅いでみる。
しかし、なにも臭いはしなかった。
「ビンゴ___」
俺はそれで髪を染め、フードを被って村へ向かった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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