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プロローグ

初めましての方は初めまして。

NAOと申します。

小説を書き始めて日は浅いですが、楽しんでもらう、をモットーにして書いて行きたいと思います。

《痛み》___それは、感覚器官から感覚神経を通じて脳に伝達される感覚の一種だ。

殴られると痛い。叩かれると痛い。蹴られると痛い。

これだけじゃない、包丁で指を斬れば痛いし、何か尖ったものを踏んづけても痛い。


痛みという物は日常に溢れている。

これを感じた事の無い常人なんていやしない。


だが____俺は、この痛みという物を喪いかけている。


いや、もう既に喪ってしまっているにかもしれない。


「ぐふッ」


腹を蹴られ、俺は口から血を吐く。


「雨風凌げる屋根の下暮らせているのは、誰のお陰だと思ってんだ!あぁ?!」


「ぐあッ」


目の前男はさらに俺の顔を蹴る。


もう何時間こうしているんだろうか?

手を鎖で繋いで屋根から垂れた紐に固定し、ぶら下げられているような状態になっている。ズボンは履いているが上は着ていない。


男はその無防備な俺の腹や顔を蹴ったり殴ったり蹴ったり殴ったり....


「おい聞いてんのか?ぁあ!?」


そいつは俺の顔を殴る。


痛いか?____いや、痛くないな。

拳が当たる感覚はある。

拳が俺の顔に直撃する度、顔が揺れ、身体が揺れ、全身にその振動が伝わる。


しかし___痛くない。


俺は男を睨む。


「なんだぁ?その目は。」


「ッ」


再び俺の顔を蹴る。


「ねえ、まだ終わんないのぉ?早くシヨうよそんな奴ほっといてさぁ。」


突然、男の背後にある入り口から女性が入ってきた。


「___わあったよ、しゃあねえなぁお前は。」


そう言い、男は振りかざしていた腕を下ろし、俺の腕の鎖を外す。


「うッ」


ピチャッ


床に溜まった大量の血の上に身体が打ち付けられる。

全て俺の血だ。


クッ.....脚に力が入らない。


脚だけじゃないな....腕にも力が入らない。


「おい、クズ。そこに着替えは用意してある。とっととそこ片付けて着えろ。俺達が終わった後の片付けもして貰わねえといけねえしな。」


「じゃ、行こ」


二人は唇を重ねながら部屋を出て行った。


___ここは異世界だ。

俺は前世の記憶を持っている。

いわば....転生者という奴だな。


___俺は咲渡 勇(さきと ゆう)

俺の前世の話を聞いてくれ。


--------------------------------------------------


1999年 6月14日。

それが俺の生年月日だ。


幼い頃から父による虐待を受けていた。

毎日のように父に殴られた。

煙草を押し付けたり裁縫針を飲まされた事もあったな。


お陰で全身傷だらけ。


だが、父は顔にだけは痣を作らなかった。

学校へ行く必要があったからだ。


しかし、土曜のみ、顔も殴られた。

痣ができないよう、暴行後にバケツ一杯氷水に顔を押し付けられる。

勿論呼吸なんて出来ない。

肺の中に水が入る事なんていつもの事だ。


母は...交通事故で亡くなった。

俺が5歳の時だ。

それから父は酒とギャンブルにハマり、やがて会社をクビになると俺に暴力を振るうようになった。

週に数度だった物は徐々に日常化していき、今では毎日の様に虐待を受けている。


警察?そんな物に通報してどうする。

児童養護施設にでも行くか?

その後は?金なんて無い。あそこは18までだ。

その後は就職する必要が有る。


それで可能か?


無理だな。

それなら、高校卒業まで耐えて、卒業したなら逃げればいい。


もしかすると、マインドコントロールに陥ってしまっていたのかもしれないがな。


____まあいい。


父親は俺をエリート校へ行かせようとした。

理由は楽をしたいから、だそうだ。

俺は勉強に励んだ。


そのお陰で成績は中学から常にトップ。

地味に顔もいい上に運動神経も良い方だ。


故にモテた。

モテてモテてモテまくった。

告白される事もかなり多かったな。


される度に断ったが。


理由?父親に全て拒否るよう言われたからに決まっている。

その所為で男子からの評判はクソ悪かったが。

何度かリンチに遭ったが、俺が3歳の頃まで自衛隊員で、今も筋肉は衰えていない父に毎日の様に暴行を受けている俺からすれば、どうってことない。


まあ、流石に画鋲を刺される時は骨が折れるが。

裁縫針を飲まされるよりはマシだが。


___感覚麻痺という奴か?

まあいい。それは大した問題じゃない。


学校へ行けば放課後リンチに遭い、家に帰れば虐待に遭う。


___毎日12時間以上殴られ続けて居たわけだ。


よく自殺しなかったと自分でも思うよ。


これは酷すぎる。


こんな毎日を過ごしながら俺は見事、偏差値72の高校に合格した。

あと3年。あと3年で俺は自由になれた筈だった....


だが....俺は入学式の数ヶ月に死んだ。

死因は分からない。


電車で通学中に急に眠気が襲い、目を閉じたらもうその世界で俺は目を覚まさなかったって訳だ。


16年.....短い人生だったな.....


--------------------------------------------------


「.....?」


俺はベッドの上で目が覚めた。

見た事のない部屋だ。


目の前に二つの人影が見える。

しかし、視界がボヤけて見えない。


「うっ....あっ....」


なんだ....口が上手くうごかせない。

必死に2人に話しかけようとするが、口から出てくるのはうあうあうなどという訳の分からない言葉だ。


クソッ.....なんでだ.....チッ、瞼が重い....このまま寝てしまう前に...なんとか現状を....


必死に寝まいと足掻いたが、やはり眠気は覚めない。


その時____


「リン、リンニーティヴァクレスィード、ドゥヴェラステーラー.....フェイン、スーロウテースヴィランズリガスティイェーバー」


突然、目の前に入る何方かが聞いたことのない言語で唄い始めた。

それはどこか優しく、心の籠った声に聞こえる。

恐らく女性の声だ。


グッ....まずい....このままじゃ....


眠気は次第に増していき、俺は瞼を閉じる。


___こいつは.....子守唄か....


そう気付くと同時に、再び俺は眠りに着いた。


--------------------------------------------------


「フィデリア?」


突然の声にそちらを向くと、一人の女性が立っている。


黄色い髪を腰まで伸ばしており、とても美人にみえる。


恐らくさっきの子守唄は彼女が唄ったものだろう。


何かを俺に言っているが、何を言っているのかサッパリだ。

何処の言語なのか全くわからない。

英語じゃない。


まず、ここは何処だ?

何故俺はこんな所に居る?

目の前の女性は誰だ?


二人居たように見えたが....もう一人はどこだ....⁇


____状況を整理しよう....


俺は電車で登校していた。

そして急に眠気がして.....


そして....ベッドで目覚めた....?


___訳が分からない。


「ッ!?」


起き上がれないッ!?


腹に力が入らない。

何故......


クッ.....


俺はうつ伏せになって立ち上がろうとするが.....


なっ!?


急に腕の力が抜け、胴がベッドに着く。


腕にすら力が入らない....


あの女性は驚きの声を上げていたが、俺が普通に居るのを見て安心したようだ。


____あれ....?俺の手...こんなに小さかったか....?


目の錯覚.....?

いや....違う、実際、俺の手がかなり小さくなっている。


どういうこと....だ.....ッ!?


____低下した全身の筋肉.....そして小さな手....


まさか....俺は.....嘘だろ...?


______転生


突然、そんな言葉が脳裏を過る。


____じゃあ、ここは地球上の....一体何処なんだ?

あの女性はブロンド色の髪をしている....


じゃあ北西か?

___いや、それはただ多いというだけだ。

そこ以外の可能性も十分考えられる。


____だが、確率から言うと北西か.....


____今の年齢は不明だが、赤ん坊である事に変わりはない。

それにしても、こんな幼い子がこんな事を考えていると想像すると中々面白いな。


____そんな場合じゃなかったな....


今は取り敢えず.....ここが一体何処なのかという事と、この国の言語を覚える事に専念するか.....


--------------------------------------------------


2年経った。

言語も大体話せるようになり、字もかなり読めるようになった。


あの女性だが....どうやら俺の母親らしい。

セシルという名前だ。

父親がそう呼んでる為、本名かどうかは不明だが.....


父親の名前はヨハンだ。


俺の名前は....驚いた事に《ユウ》といらしい。

前世と同じ名前というのは良い。

まあ、《勇》ではなく《ユウ》なんだが。


こんな感じに色々とわかった。___だが、ここが何処か.....わからない。


家の本を読み漁ってみたが、親の趣味かモンスターとかそういうオカルト系の物しか置いていない。


その上、どうやら前世と時代が違うようだ。

正確な年代は不明だが....恐らく1200年程だろう。

父親が剣を持っていた。


かなーり巨大な大剣だ。


そして、この家だが.....どうやら平原に建っているらしい。

つまり、人の手が入っていない未開拓地域だ。

窓から見た光景な為、あくまで推測だが。


父の役職は不明だが、恐らく騎士だと思う。


「ユウ、また本を読んでいるの?」


「____うん。」


彼等とは話辛い。

親が子に愛情を注ぐのは当然の事だ。

しかし、俺はそんな育てられ方をされていない。


屑な父親に毎日の様に殴られ続け....


まあ、そんな前世を過ごした俺には少し難しい事だ。


「そうだ、ユウ。」


「?」


「___いや、なんでもないわ。まだ早いものね。」


何を言っている?

どういう意味なんだ?



--------------------------------------------------


その答えは直ぐにわかった。


こんなの異常だ。

あり得ない。


「ユウ、全身の魔力を感じ取って、それを手に集中させて。」


母親が平地に手を出しながら俺にそう説明する。


____魔法だ.....


最初は冗談かと思った。

だが、母親が手から炎を出すのを見て、本当なのだとわかった。


こんなのおかしい。


「どうしたの?ユウ。」


ここは地球じゃない.....

魔法だと?そんなの地球上に存在するはずが無い。

あんなの古代人の妄想だ。


この現象を説明できる最も有力な説.....

それは.....ここは地球じゃないという説だ....


恐らくだが、体内にそういう器官が存在するんだろう。

つまり、今の俺の身体は、前世の人間の身体に限り無く近い別の種類に当たる。


「ユウ?」


ここが異世界であるのなら、こんな聞いたことの無い言語を話すとしてもおかしくはない。


___待てよ.....じゃあ家に置いてあったオカルト系の本は.....


「ユウ!」


「ッ!?」


突然母親が大きな声を出し、俺は驚く。


「どうしたの?ボーッとして.....まさか、どこか悪いの?」


「い....いや、大丈....夫....」


「そう.....ならいいんだけど......」


「____大丈夫だから、魔法を教えて。」


「わかったわ。」


父親の持っていた物が剣。

だとすると、この世界に現代の武器があるという可能性は限りなく0%に近い状態となった。


つまり.....この世界での攻撃手段は剣や槍などの近接武器か、弓や魔法の遠距離攻撃だけだ。


____自己防衛能力は身につけて置いて損じゃない。


--------------------------------------------------


3歳になった。


様々な事がわかった。

まず、この世界の魔法は、火、水、風、氷、土の5種属性魔法。

そして、治癒魔法と防御魔法があるらしい。


他に、光魔法と黒魔法という物があるらしいが....それに関する本が一切ない。

何処を探しても見つからない。

両親に聞いてみてもノーコメントだ。


絶対何かを隠している。


それはいいか.....

少し話が逸れたな。

この世界には《魔法適正値》という物が存在する。


各属性魔法と治癒、防御魔法の適正値だ。

値が高ければ高いほど高度な魔法を扱う事が出来る。

平均が5だ。


そして、俺の値だが....


全て5。


超ドストレートの平均を見事に撃ち抜いている。


まあ、使えんだけマシだが。


魔法適正値は努力次第で上昇したりするそうだが.....

どの本にもそれでかなり上昇したという事は書かれていない。


よくて2、3って位だ。


あまり期待しない方が良さそうだな.....


「ユウ.....」


「?」


不意に声をかけられ、背後を向くと、そこには一人の男が立っていた。

金髪の髪を後ろで結び、正面から纏まった数本の毛が垂れている。

とても巨漢で、厳ついが、顔は良い方だと思う。


彼は俺の父親だ。

剣術を教えて貰った事が何度かある。


それと....両親が金髪なのに俺だけ黒髪というのがなんだか不思議でたまらない。

どうでもいいが。


「なに....?」


「すまない.....」


「えっ....?」


次の瞬間、俺は意識を失った。


--------------------------------------------------


「うっ.....なんだ.....?」


眼が覚めると、そこは見たこと無い所だった。


「よおガキンチョ、いい夢見れたか?」


そう言ったのは、目の前に立つ男だ。


薄いブロンドの短い髪で、筋肉質な体型をしている。


どことなく....前世の俺の親父に似ている.....実に不快だ。


「なんだその目は?」


「ぐあッ!」


こいつ.....蹴った.....?


馬鹿な....俺はまだ3歳の子供だぞ.....


「ペッ....ゲホッ、ゲホッ....」


そのまま血を吐き、咳き込む。


クッ.....なんなんだこいつは....!


「っへぇ〜こんな事してもまだ生きてるなんて....流石魔族だなぁ....?」


魔族...?一体何の話だ....


「なんの事だ、って顔だな。何も知らねえってのは本当みてえだな。____まあいい、教えてやるよ。」


そいつはそう言い、しゃがみ込む。


「てめえは魔族だ。最も、俺のクソ兄貴のヨハンと、彼奴がどっかで誑かした女の間に産まれた、正真正銘純血の人種同士の間に生まれた子だが。」



どういう....


「そうか....魔族が何かも知らないんだったなぁ....魔族ってのはてめえと同じ黒髪紅眼のクズ共だ。やったらかってえ上に強え。そんな馬鹿共が数年前に全種族に喧嘩売ったんだよ。わかるか?この意味が。」


___つまり....この世界には数種類の種族が存在し....その内の魔族というものが全種族に宣戦布告....その戦争が続いているかは知らんが....純血の人種同士の間に産まれた筈の俺が何故か魔族の特徴と一致していた....ということか...?


「つまりあの馬鹿兄貴にてめえは売られたんだよ。」


売られた.....?


その言葉で、俺の頭は真白になった。


あの優しい父と母に....俺が....?


彼等に....売られただと....?


不意に前世の父親の顔を思い出す。


「そういう.....ことか.....」


俺はそう呟いた。


「わかったみてえだな、ガキンチョ。」


やはり人は屑だ.....最愛の息子を売る親がいたとは.....いないと思いたいが、あの親父が居るのならそんなのいてもおかしくない.....


人は....自分の利益しか考えない。

優しさ?心の暖かさ?


____反吐が出る....


そんなのただのエゴだ....


自己満足に過ぎない。


奴等は全員屑だと言う事を....俺は長らく忘れていたようだ....


フッ....無理もないか....?

三年間、暴力から逃れられていたのだから.....


だが____


俺は目の前の男を見る。


こいつのさっきの行動から察するに....

奴は俺を奴隷としか思っていない。

つまり......


_____また、始まるのか.....


俺は目を閉じた。


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