護送≒護衛
レストランを後にして早10分、何も起きないまま本常銀行へ向かっている。
御井は周りを気にしながら俺の後を歩いてくる。俺はその様子を見てため息を吐きたくなる。
「あの、御井さん」
「な、なんですか?」
「そんな挙動不審にしてると怪しまれて絡まれやすくなる。普通に歩いてくれませんか」
「わ、分かりました」と違う意味で不自然な歩き方になる。
こりゃ駄目だ。歩いて向かうより車を使って行った方が早い。
そう思いタクシーを捕まえようと手を上げると御井に止められた。
「あの、出来れば交通機関を利用しないで向かいたいんです」
「何故?」
「狭いところで襲われれば元も子も無いですから」とヘラっと笑った。
何も起こらないまま目的地に着きそうな足取りで向かっている。
本当に護衛なんて必要だったのだろうか、本人が意識しすぎだけのように思えた。
そう注意力が緩んだ一瞬、後ろから凄い速さで何かが通り過ぎていく。
すると後ろから悲鳴があがる。
「ああぁあ!!に、荷物がぁ!!」と御井の手に持っていた荷物が無くなっていた。
まさかさっきの走って行った奴だろう。
「御井さんはそこで待っててくれ!」
俺はさっき通り過ぎて行ったのを追いかける。確かあの細い路地を曲がって行ったはず。
曖昧な記憶を頼りに追いかけていく。合っているかと聞かれれば自信は無い。だが、もし撒くのだとすれば人混みの方へ向かうはずなのに、人気の無い所へ向かっているようだ。俺を誘うかのように思えた。
細い路地から広い空き地に抜けると、見覚えのある荷物を抱えている男が立っていた。
「おい、その荷物を返してもらおうか」
近づくと男の着ていた服を投げつけられた。
「くっ!」服をはたき落とした次の瞬間、何かが俺の顔に突きつけられる。
それは鋭く磨かれたナイフだった。だたの泥棒では無い。
「一般人にそれを向けるのはどうかと思うけどな」
「一般人?アンタ《ファイター》だろうが、燕さんの妹さんの顔傷つけておいて」
「千鶴・・・?誰だそれ・・・」
「私よ」と男の後ろから現れたのはあの時の女。
「お前か」その顔には見覚えがある。確か俺の後を付きまとっていた奴だ。
痺れを切らして問いただそうとすると攻撃してきた反射でやり返してしまった。
あの時は思わずやり返してしまったのを今思えば大人気無かった。
女の顔を見ると絆創膏を貼っている。もしかして俺が付けてしまった傷があれなのだろうか。一応謝っておこう。
「わ、悪かった」
「女の顔に傷つけるって事は、貰ってくれるって事よね。私の事」
「・・・・は・・・・?」
一瞬聞き間違えたのかと思った。だが、居合わせている男も驚いた顔をしている。
「な、何を言っているんですか!」
「この顔じゃあ誰も貰ってくれないし、だったら付けた人に責任を取ってもらうしかないじゃない」
頬しか傷ついておらず、他はなんとも無いように見える。普通に街を歩いていればナンパされそうな顔をしているのに、中身が残念のようだ。
「こいつを懲らしめる為にしたんじゃないんですか!?」
「ここにおびき寄せる為よ、まぁ懲らしめてもいいけど・・・」
二人が話しをしている間に荷物を回収しようとすると男のナイフが俺を掠める。
「こっちが話しをしているのに、お前は何しようとしてるんだ」
「俺には関係ない。俺はこの荷物だけに用があるんだ」
「その必要は無いわよ」と千鶴が言う。
「その依頼を頼んだ人はこっちで用意した人よ。貴方をここに来させる為に」
「そんな回りくどい事を・・・」俺は呆れてため息をつく。




