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シブリング≒パートナー  作者: 佐藤成
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2)無名の「ファイター」

細いビルの間からうめき声が聞こえ、男が苦しい顔をしたまま倒れ、意識をなくした。

それを見下ろしながら指を鳴らしていると後ろから「あ、ありがとう!その男に無理やり金を取られそうになってしまって」と事情を説明してきた男。

たまたま通りかかっただけだったが、相手が威嚇してきた為にこうなった。

手加減をするのは慣れていないのもある。

その場を去ろうとすると助けた男が「あ!あの、お礼を・・・」と札を手渡そうとした。

「いや。俺はただ、ここを通りたかっただけなんで」と断った。

別にお金に困っていないとは言えないが、依頼された以外の金を受け取るのは好きではない。欲しいが、俺の意地がそれを邪魔をする。

その道を抜けると俺の住む家が見えてくる。

小さく、古い、今にも壊れそうなボロい家だ。

「ただいま」

家族は妹が一人、両親はいない。

家計は妹が働いて主にやりくりしている。

俺の方はたまに依頼が入れば、それが収入になる以外は街をただ歩いている。

この暮らしからなんとかしてやりたいと何度も思い、アルバイト等の仕事をしようとすると「兄貴は「ファイター」以外の仕事は絶対にしない!兄貴に合う仕事なんてそれぐらいしかないんだから」と妹に言われた。

確かに妹に黙って色んな仕事をしたが、どこにも合わずに辞めさせられた。

俺は昔から力の方が強く、良く物を壊していたらしい。

そんな俺に「ファイター」と言う仕事を進めてくれたのが、今はいない父だった。

父は良く俺の拳を握り「いつかきっとこの力はお前を、お前の大切な人達を助けるはずだ。強くなれ」と言っていた。

そんな父も今はいない。せめて・・・、せめて妹だけでもこの手で守ってやれる男になる為に何度も特訓をした。

それが今では俺が妹のお世話になっている状態だ。自分で自分が情けない。

するとあまり鳴らない電話が鳴った。

「はい、西折にしおりです」

『あ、兄貴?私』

ひなか?どうした?」

『バイト先で兄貴の話したら、仕事を依頼したいって人が来てさ。今、フリーでしょ?』

「ま、まぁ・・・」

『なんでも、有名銀行様の依頼らしいからさ。上手くいけば高収入かもよ?もちろん、引き受けるでしょ?』

「話の内容による」

『何格好つけてるんだか。もう了承しちゃったから早く来てよね』と言い電話を切られた。結構強引な妹である。

久しぶりの仕事だ。とりあえず《ヒットアンドダウン》に向かう事にした。


そこそこ大きい通りにあるお店が、妹の働いている《ヒットアンドダウン》というレストランでウェイトレスをしている。

そのレストランは食事は勿論の事、2階にはスポーツジム、3階は温泉がある。

普通とは言えないレストランである。店長が中々のボディビルダーで、仕事中でも鍛えたいという事でこんな内装になったらしい。

温泉まで掘ってしまうとは、あなどれない。

「いらっしゃいませー、おや?これはこれは雛のお兄さんじゃないか。依頼人さんは奥のテーブルにいるよ」と店長が案内してくれ、その依頼人に飲み物を雛が渡したところだった。

「あ、今来ましたよ。この人が私の兄、西折にしおり 和久かずひさ。兄貴、この人は・・・」

「初めまして、私は《本常銀行》に勤めています御井おいと言います」と名刺を渡した。

だがその顔には見覚えがあった。それは互いに気付いている様子であった。

「もしかして、さっき助けて下さった方・・・ですか?」

「俺の方はあんまり顔覚えてないけど、アンタがそうだって言うならそうかもな」と言うといきなり頭を叩かれた。

「いっっって!」

「依頼人さんに失礼でしょう!すみません、御井さん。こんな失礼な兄貴ですけど、どうぞ今回の依頼を兄貴に・・・」

「も、もちろんです!私は先ほどこの人に助けられたんです。お礼も受け取らず、何事も無かったように行ってしまって。あの時は、本当にありがとうございました」と深く頭を下げた。

「何したの?」

「だた絡まれている所に出くわしただけ」嘘は言っていない。

「あの時、もし貴方が来なかったら私は殺されていました」

「そんな大袈裟な」と妹が苦笑い。

「いえ、本当に・・・」と御井の顔が暗くなっていくのを見逃さなかった。

「その荷物を取られると困る、って事か?」

「はい。この中には一億円相当の物が入っているんです」

「い、一億円!!?」と思わず俺と雛が大声で叫んでしまう。

周りの人達は一斉にこちらを見るが直ぐに視線を戻した。

「何でそんな物をアンタみたいな奴が」

「私のような人がそんな物を持っている事が無い。そこをついたつもりなのですが、案の定うまくいかず危うく奪われる所に、貴方に助けられたんです」

そんな偶然があるのかと、少し信じがたい。

「今日中にこれを《本常銀行》本社に運ばないといけないのですが、また襲われるのではと怖くなって・・・このレストランで悩んでいるとそこのウェイトレスさんに話し掛けられたんです」

妹に視線をやるとドヤ顔をしていた。

「内容を話す前にもう連絡をしたと言われてしまったので、出るに出れないまま貴方を待っていたんです」

経緯はほぼ分かった。雛が勝手に進め、勝手にこうなってしまったと言うこと。

「雛。何でもかんでも勝手に早々決めるな。お前は困らないかもしれないが、俺とか依頼人が困るだろ」

「悩むと余計に悩むでしょ。何事も即決!悩む前に決めるべし!」と全然分かっていない。

「でもこうして貴方にまた会う事が出来たのは妹さんのおかげなんです。気にしないで下さい」

「アンタは良いかもしれないが、俺にだって決める権利が・・・」

「まさか兄貴!断るなんてしないよね?最近、依頼無いって途方にくれてたじゃない」

「それとこれとは別の話しだろ」

すると御井はまた頭を深く下げる。

「ちょっ!何して・・・」

「お願いします!お金ならいくらでも・・・!わ、私を《本常銀行》本社まで送って下さい」と震える声で言う。

俺は頭を掻きため息をはく。

「分かりました、俺で良いのなら護衛しますよ」

「あ、ありがとうございます!!」と御井は立ち上がり、手を握られる。

護衛なんてした事は無かったが、何事も経験だ。

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