花
さんさんと太陽の日照りが降り注ぐ昼下がり
学生の波をかきわけるようにして手に入れたクリームパンを腹に流し込み俺が向かったのは校舎の裏側にある庭である。
教室からふと窓の下を覗き込んだときに綺麗な花々が咲いているのが見え、気になったのだ。
悠「ほぉ、丁寧に管理されているようだな」
花、はな、はな。
目の前には色とりどりの花が広がっている。
およそ一教育施設には不必要なほどの設備が整っているようで大きなビニールハウスや素人目にも高そうに見える機材が奥の方には並んでおり相当の園芸に対する気合が感じられた。
悠「しかし、何故ここまで素晴らしい庭園なのに他に誰も来ないのだ」
思ったことが口に出ていた。
今は昼休み、校庭で遊ぶも物思いに耽るも友人との談笑に励むも人それぞれであろうが一人二人くらいはこの花の都に足を運び精神を安らげに来る奴がいてもいいはずだ。
もう一度鮮やかで自己主張の激しいフラワーたん共と目を見つめあう。(俺はぷりちーなお花さんにとびっきりの笑顔で笑いかけるのだがどうやら恥ずかしがりやのようでなかなかこちらを見てくれないが気持ちの上では両思いであり昼間から至近距離で見つめあうほどの仲だと思っている。)
傍から見れば土の上に寝転がり怪しい目を浮かび上がらせながら花にブツブツ話しかける不審者である。
?「せ、せんぱい」
?「せんぱいっ!!!!」
気が狂いそうになるほどに俺の頭がフラワーテーマパークを遊び歩いていると現実に引き戻された。
声がする。
?「悠先輩、大丈夫ですか?」
悠「あぁ、俺は元気さ!元々エネルギーが有り余ってたぐらいだが、いま君の声を聞いたらさらに元気になったもんで上半身だけでなく下半身も元気になりそうな勢いだよ!!」
極上のスマイルを返してやった。
?「うわぁ…いつから悠先輩はそんな変態さんになっちゃたんですか、もうっ」
可愛い奴だ。
衝動的に抱きしめたくなる・・・がここは紳士に我慢という選択肢を選んでおこうじゃないか。
なぜなら。
すざく「このは、水やりの続きをしましょう」
このは「うん、分かったよ!お姉ちゃん!」
悠「出たなっ!花をも喰らう悪の魔導士めっ!!」
すざく「ふう……。何を言っているのやら。日光に頭がやられてしまったのかしら?」
溜め息を吐かれてしまう。
このは「というか先輩っ、ここに来て下さったなら活動手伝ってくださいよう」
迷う必要は……ないだろう。
特に他にすることがあるわけでもないしな。
悠「おう、いいぜ」
植物委員会。
それが俺が参加している委員会である。
この学園には特別部活や委員会に所属しなければいけない義務は無い。
興味が無ければ授業が終わり次第帰宅しても構わない。中には寮住まいの者もいるが。
この学園の周りには他にも教育施設はあるが、教育方針が少しこことは異なると耳にしたことがある。
何が具体的に違うのか、は分からない。
どこにでもある学園。
当たり前のような日常。
このは「実は少し前からここに来た先輩には気が付いていまして。離れて様子を見ていたんですよ。そしたら一人でブツブツ何か話しているし、だ、大丈夫かなって流石に心配になったので声をかけたんです。」
きっちり目撃されてしまっていた。
悠「日記ってあるだろ。あれって他人が書いたものは凄い読み難いんだよ」
このは「?」
悠「自分が書いたものは読みやすくて他人が書いたものは読み難い。この違いが分かるか?」
自分で何かを書き残すときにはメモ程度で構わない。いつ、どこで、なにがあってといった情報、記憶が頭に残されているからだ。
たった一日分の日記を書くのに自分の名前から生い立ち、友人との交友関係まで説明する奴はまずいないはずだ。
その日の日付、天気の次にはいきなり今日何があって云々…と書き並べられられることが多いはずだ。
だから、人が書いた日記を読んで理解することは容易ではない。
何が起きた、とただ事象だけをつらつら箇条書きのように記されているものであれば尚更だ。
心情の変化を付け足せば幾分かは読みやすくなるが。
つまり、自分で感じたことを書いたものを読んだ場合に比べて圧倒的に情報量が少ないのだ。
書き手と自分とが関わりがあれば多少の推測はできるかもしれないがそうでない場合もある。
このは「そ、そうですね」
悠「その違いの溝を埋めるための行為ってやつさ」
このは「は、はぁ………」
深く追及することはやめたようだった。ふう。
俺は植物をこよなく愛したプラント博士だからな。(専門的な知識は皆無の模様)
きっとこの気持ちがこのはには伝わったに違いない。ふむふむ。
それから三人で水やりをした。古典的よろしくじょうろでひとつひとつ水をあたえてやったさ。
何故こんな効率の悪い方法でこれだけの面積の庭を管理できているのか疑問だが…他にも委員会メンツはいるようなので(会ったことも話を聞いたこともないが)誰かが適当にやってくれているのだろう。
この少女らが奥にある重く鈍色を光らせた地面粉砕機を扱えるとも思えんしな。
そんなこんなで昼休みは終わったのである。