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白の部屋

とは言ったものの特にあてがある筈もなく、足が(おもむ)くままに歩を進める





悠「にしても、広いな…………」





先ほどまでいた校舎から外に出て、未だ見慣れない景色の中で人工的な歩道を歩む


視線を上へとやれば、まるで大都会の真中で空に向かってそびえ立つビル群に囲まれているかのような錯覚を起こす


それほどまでに、学園内の敷地の中でもここは建物という建物に囲まれている








悠「……………ん?」






それからしばらく歩いていくと、別の校舎が現れた




それまでの校舎群とはどこか異なる、人が近寄りがたい雰囲気の建物である



中はどうなっているのだろうか、と俺の興味は充分に引かれるが



そこで、その建物の前に見知らぬ少女が立っていることに気が付く



薄い、今にも溶けて消えてしまいそうな程に存在感のない奴だ






腰辺りまで無造作に伸ばされたような銀髪が光を反射して思わず目を細めてしまう






こちらには気付いているのだろうか






俺が知らなかっただけで、ここの学生なのかもしれないな









ああ、風になびく髪が、綺麗だ______






?「     」





視線が交差する






何か声をかけてみようか








 

刹那






ぐらり、と少女の身体が傾く





悠「!?」





咄嗟に駆け寄る





が、間に合わないと確信する







ここで俺が走り寄って優しく胸に抱き込むように転倒を防ぐ


悠「おっと、危なかったな…大丈夫か?」


?「ありがとうございます、あの、貴方のお名前をお伺いしても宜しいですか?」




____なんて展開があっても良いと思わないか


言うまでもなく、俺の妄想に過ぎない






そう上手くはいかないもので




ばたっ、と鈍い音で目が覚め




数秒後、倒れた少女の元に辿り着いた






悠「おい……だいじょうぶか…?」




おそるおそる声を掛ける








返事は無い







近付き、その細い首筋に触れる






脈は、あるようだが……






悠「くっ……運ぶか…」





こんな経験はこれまで無いとはいえども、女一人程度運べるだろう


意識を失っている以上あまりここでもたもたしていられない





抱き上げ、来た道を戻ることにする







 _____________________












悠「………はぁ、はっ………」





なんとか校舎群の方まで戻ったが、問題はこいつをどうするか






保健室、そうだ保健室だ…あそこなら、あいつがいる





確か、ここの建物の一階に______








やっとの思いで「保健室」と書かれたプレートが掛けられた部屋の前に着く


ノックは、両手が塞がっているせいで出来ない


走ってきた勢いでドアにそのまま体当たりを仕掛ける


悠「くおおりゃああああああ!!!」


がんっ!!と木製の古く弱っちいドアを押し倒し部屋に侵入う!!


?「え?ひゃああ!?!?」


突然の来訪者に悲鳴をあげる誰かさんの声


悠「はあっ、は…あ……っ…、………おい、(りん)っ!」


淋「!?…あ、あれ…………遠桐君…?」


悠「急病人だ、助けてくれ、俺では力不足だ」


淋「あ、あぁ…そういうことね、どれどれ」


こいつは朔真(さくま)(りん)

もう察しは付いているとは思うが保険委員

一応、俺の幼馴染み…でもある


俺は少女を保健室特有の真っ白いベッドの上に寝かせるように降ろした


そこに淋が駆け寄り診察を始める


因みに俺は入学以来保険の先生なんぞ見たことがない


この学園に保険の先生たるものがいないのか、形としてはいるが淋に一任している状況なのか、そこらのことは俺にはよく分からない


淋「うーん…、特に熱も無いようだけど…意識がなくなっちゃったのはどうしてなんだろうね…??」


悠「ふむ……」


淋に分からなければ俺には病態どうこうはどうしようもないのだが…


?「…っ」


と、そこで少女が意識を取り戻したことに気付く


淋「大丈夫?」


少女の虚ろな目が空中を捉え、淋の顔へと移る


?「…………」


何の色も持たないその瞳と淋の心配そうな瞳とが交差する


淋「えっと…驚かせちゃったかな?ここは保健室だよ」


?「…………」


少女はまばたきを一つ返した


淋「私、保健委員の朔真淋っていいます…あなたのお名前を聞いてもいいかな?」


?「…」


数秒の沈黙の後


?「……………(れい)


淋「怜さんね、お家はこの近く?歩けそうかな?」


怜「…………」


怜はこくり、と頷くとベッドから降りると迷わぬ歩で出入り口であるドアへと進み


俺達に見つめられるまま部屋の外へと静かに出ていった


ただ一言、立ち去り際に「……ありがとう」と残して






淋「…い、行っちゃったね…」


悠「あ、ああ、そうだな…」




………怜、か


不思議な少女だったな…



何故あそこにいたのか、何をしていたのか、まずこの学園の生徒なのか____


結局その怜、という名前以外は分からないままである


悠「まあ……、こういうこともある…か」


俺は一人溜め息をつき、帰路につくのであった






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