目覚め
なあ、もし魔法なんてものが本当にあって
その能力を自由に使えたら何をしたいと思う?
ほうきに乗って空を飛びたいか?
腹一杯になるほどの飯が欲しいか?
空から可愛い女の娘でも降らせるか?
世界平和でも願ってみるか?
この世界から全ての魔法を無くしてみるか?
気に入らない国や都市、人を消してみるか?
誰だって、ああだったらいいのになー、とか
こうだったらよかったのにー、なんて思う事
一つや二つあるんじゃないか?
何が言いたいかっていうと、つまり魔法というのが広く世間に知れ渡り、受容され、一つの文化を築き上げた、そんな世界では
また、魔法により苦しむ奴がいてもおかしくないんじゃないか?っていうことさ
…え、何だって?
「ここ」はそんなに魔法が発達しているのかって?
いやいや、あくまで例え話だよ
どのくらい浸透しているのかなんて分かりゃしないよ
俺も学生の身、そんなに話を信じて貰っては困るというものさ
___ただ、このままずっと学び続けて何時かは此処以外のどこかに行かなきゃならなくて、その時に俺はいったいどこで誰と何をしたいと思うのだろうか、と思ってね
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ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
「……………んぱ………」
「せ………い………………」
?「………せんぱいっ!!!」
?「うおあああっ!?」
?「んもう、やっと起きましたか…」
?「おや、誰かと思えばこのはだったか…、声掛け係とはご苦労様な事だな」
このは「むう…いったい誰のせいだと思ってるんですか、悠先輩??」
こいつは、茉雁このは
おとなしめで、人形のような顔立ちをしており、肌が白くて、なんというか、可愛い奴だ
このは「おねえちゃーん、先輩起きたよーー?」
開け放たれた窓、その近くのパイプ椅子にもたれ掛かるようにして座っていた女が一瞬気だるそうな顔を見せた後、身体ごとこちらに振り返り、そして歩いてくる
因みに、俺が先程まで寝ていたのは窓際とは丁度反対側…廊下側の壁と平行になるように設置された質素な作業用デスクであった
?「ふう……」
女は、ずかずかと近付き机の前まで来ると愛想の無い顔で俺を見た
?「……………」
悠「…あの、どちらさまで?」
無言の圧迫に耐えきれず口を開いてしまう
が、それが吉と出た…かは知らんが女は口元を緩め笑顔を見せた
?「貴方のその態度の悪さは何処から来るの?
いくら新入部員だからっていつまでも甘く見て貰おうとは思わない方が身のためよ?」
このは「お、おねえちゃん…、折角この植物研究会にも新人さんが入ったっていうのに、そんな強く言わなくてもいいんじゃないかな…」
この態度のデカい女は、茉雁すざく
名字が表すように、このはとは姉妹関係である
入学して間もない頃、こいつと偶然出会い、その後色々あり現在に至る
ガチャ
唐突にドアが開き、隙間から黒髪を腰まで伸ばした美少女…とも言っても過言では無い奴が俺を一瞥、部室へと足を踏み入れる
?「悠君、探したわ…ここにいたのね」
すざく「岬莱さん…!どうしたの、また何か事件でもあった?」
岬莱「あら、こんにちは…いえ、そういう訳ではないわ、ただ、生徒会の方から悠君の呼び出しがあってね、ちょっと、お借りしてもいいかしら?」
すざく「そう、なら仕方無いわね、どうぞ」
岬莱「ありがとう、助かるわ」
悠「俺はいつからもの扱いをされるようになったよ」
岬莱「ふふ…貴方に拒否権は無いもの、それに満更でもないでしょう?」
悠「分かった、行こうか…」
岬莱「ええ、そうしましょう」
俺は植物研究会の部室を出て、岬莱と共に生徒会室に向かうのだった
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岬莱に促されるまま廊下を歩き、なんとか生徒会室の前まで辿り着く
身なりを整え、背筋を正し、二、三度ノックをしてから、ドアノブを握り、中へ
?「やっと来てくれたか、我等の大いなる救世主よ!!」
室内に入った途端、頭上から声が響く
……………頭上から?
驚き、真上…つまり天井…を見上げると笑顔の爽やかな好青年が
____吊り下げられていた
悠「あの、石狩会長…そんなとこで何してるんですか?」
石狩「む!?そうか、見て分からないか!?」
岬莱「あらあら、また吊しの刑に…」
俺の背後、様子を伺い、状況を理解したらしい岬莱が小声で呟く
石狩「今後の活動方針、という至極真面目な生徒会活動をしているのだよ!!!」
悠「………ここが生徒会室で、貴方が生徒会長で、会長以外は皆自分の席に着席している…という事を考えれば、その発言に偽りはないのでしょうが…」
しかし、なぜ吊るされているんだ……
岬莱「私達がいない間に何があったのかは存じませんが、悠君も来たことですし、会長の事、離してやって下さい、私からも後で事情を聞き注意しておきますので…」
岬莱が部屋の会員にそう声を掛けると、流石に悪いと感じたのか、文句を言うことも無く、無事(?)に会長の縄はほどかれたのであった
岬莱「それで、会長の今後の活動方針、とは一体どのようなご提案だったのでしょうか?」
石狩「よくぞ聞いてくれた!!」
石狩「救世主、もとい主役はそこの彼だ!!」
そう言い、会長が指差す先は_____
悠「…おれ、ですか?」
会員全員の注目が自分に集まり妙な緊張感に襲われる
石狩「めでたく、我ら生徒会の副会長となり、男女問わず人気が高い岬莱麻里奈と肩を並べ仕事が出来る立場に立った、遠桐悠君の歓迎会を開こうと思うのだよ!!!」
悠「だから、俺を呼び出した、ってわけですか?」
石狩「いくら僕でも本人の了解は得ておきたいからね」
岬莱「しかし会長、またそういう事に経費を割いては予算委員会から苦情がくるのではありませんか?」
石狩「大丈夫だよ、僕を何だと思っているんだい…、石狩家の優秀な長男、名を勇一郎と申す史上最強の男なのだからね」
どこからその自信がくるんだよ…
なんて、口に出せる訳もなく
石狩「そういう事だから、日程が決まり次第連絡するので忙しいとは思うが当日には顔を出しておくれよ、遠桐」
悠「はい、分かりました」
余計な仕事でなくて良かった…と、ほっと一息
悠「では、俺はもう少し校内見て回りたいんでお先に失礼しますね」