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織田教諭(創造番号第1549天使)の手記②

はい。確かに神さまがメチャクチャであることは、よくわかっています。

しかしそんな我々でも、まさかあんなやり方をするとは思いもしませんでした。


あの日、神さまはテレビ、ネット、新聞、本、果てはダイレクトメールや電報など、あらゆる媒体をお使いになって、その町の住人にご挨拶をなさいました。携帯音楽プレイヤーを使っていた方など、聴いていた曲があんな訳のわからない演説に変わってしまい、たいそう驚かれたことと思います。


しかも、あの格好は何でしょう。

普段から奇矯(ききょう)な振る舞いをなされる方ではありましたが、あれは本当に何というか――実に何とも言えないセンスでした。

あれでよく、自分は神さまであると宣言できたものです。一番古くからお仕えしている先輩など、煮込んでいた料理が空焚きになっても気づかないくらい呆然としていました。


とはいえ、神さまがやると言った以上、我々が従わないわけにはいきません。しょせんわたし達は神の子。あの方の実行力を押し返すだけの力など、持ち合わせていないのです。はい。

 

ということで、愚痴はこれくらいにして、ここで神さまのご計画について簡単にまとめておきましょう。


まずは神さまがご降臨されるきっかけとなった召喚の儀式ですが、これを行なっていたのは、黒魔術師でも悪魔研究家でもありませんでした。

ごく一般の、というか、「羽舞原(うぶはら)町」という町の町長を務めている方でした。


しかしこの方、悪魔に興味があったわけでも、そういった分野に関わりがあったわけでもありません。むしろ召喚の儀式を行うまでは、何ひとつその方面の知識を持たない人物でした。


では、なぜこのような方が召喚の儀式などを行ったのかというと、それは「町おこし」がきっかけでした。

町おこし――そうです。自分の住んでいる地域になんらかの特色を持たせ、人や企業に来てもらおうというアレです。


羽舞原(うぶはら)町は、そもそもこれといった産業も観光名所もなく、発展という言葉からほど遠い、のんびりした町でした。

とはいえこのご時世、いつまでものほほんとしているわけにはいかず、この町も世間にアピールしていかなければならない。そんな気運が、不意にお偉方の中に高まったのです。


しかし、これといった特色もない町にとって、町おこしは難題でした。

何か産業を起こすには時間がかかる。

かといって無から有を生み出す――例えばアニメやマンガなどを利用したイベントといったことも、すでに手垢がついている。霊験あらたかなスポットも、未確認飛行物体や未確認生物の目撃情報もない。何か変わったモノを作ろうにも、近くには「アートの島」などと銘打ち、町中に様々な芸術作品を配置した島なんかがあったりする。伝統の踊りもなければ、奇祭が催されている訳でもない。あらためて調べて驚いてしまうくらい、何もない町だったのです。


しかし、彼らは諦めませんでした。あるいは、自らが作り出した焦りに飲まれてしまった、と言うべきかもしれません。

他に何か目新しい分野はないかと未発見の隙間を探し求めた――もとい、探し求め過ぎた結果、彼らは「悪魔」というキーワードにたどり着いたのです。


「小悪魔」というフレーズなど、それはそれで使い古された分野ではありましたが、一方で、自治体の町おこしとして使った事例はあまり聞いたことがありません。その意味では、確かに目新しくはあったのでしょう。

その概要、というか「設定」は、以下のようなものでした。


 


『羽舞原町まちおこし・「悪魔がやってきた!(仮)」企画書』より抜粋


 (5 設定

 財政難にあえぐ、とある町――羽舞原町。

 苦難から脱しようとあらゆる手を尽くすも、悲しいかな、やがて如何ともし難い状況となり、ついに町長は超自然の存在――悪魔にすがることにした。

 古代の文献をもとに行われた召喚の儀式によって、サタンの呼び出しに成功した町長。

 しかし、サタンは力を貸す代わりに、一年の内の一週間、羽舞原町を己の領土とすることを契約させる。

 その期間に限り、町の人々は地獄からやって来た他の悪魔達に憑依され、悪魔の恐ろしさを知らしめるための、様々な活動に従事することになる。




この「悪魔の領土」とされる期間、町の人々は『悪魔に憑依されている』として、それっぽいコスプレや化粧をしたり、年齢が「十万プラス実年齢」になるほか、飲食店では「悪魔の◯◯」という名前の料理を提供するといったことが、企画書には書かれています。

また観光客が「万魔殿(役場のこと)」に「契約書」と「お布施」を提出すれば、「悪魔に憑依される(コスプレセットのレンタル)」ことも可能です。


それはハロウィン的なイベントをもとに、自虐やきわどい内容を含んだ、(天使たるわたしが言うのもなんですが)中々に興味深い内容であった一方、よくぞこんなものが通ったと思わせる代物でもありました。人の思考システムは、実に複雑かつ奇妙なものです。もしくは、何事も考え過ぎはよくないと結論付けるべきなのかもしれませんけど。はい。


そんなわけで、「悪魔」をキーワードに町おこしを狙った羽舞原(うぶはら)町でしたが、その誤算(というか、神さまに目をつけられた原因)は、イベントで行われる召喚の儀式が、予想以上に本格的であったことでした。


いかに手記とはいえ、天使たるわたしがその方法を詳細に語るのはよろしくないので省きますが、実行委員会の儀式担当の人物が相当の凝り性だったらしく、どうせやるならということで、各種の文献にあたって本格的なものを作り上げたのです。


そして優秀な実行委員と生真面目な町長が本番に向けてリハーサルを行ったところ、あろうことか、神さまがご降臨なさったのです。

さすがに前フリ続きなので、今回は二話掲載にします。

次回からは新キャラも出てきますので。それも一気に。

この落差をどうにかした方がいいとは思うのですが…バランスって難しいですね。

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