古機(ふるはた) 誠(一年五組 出席番号十一)の愚痴②
おれの住んでいる町に神さまが現れたのは、五年前のことだった。その時のことは今でも覚えている。
時刻は朝。
おれはいつもどおりに二度寝し、いつもどおりに起こされ、渋々リビングに向かった。
そしていつもどおりにテレビをつけると――そこに神さまが映っていた。
ただその時は、そいつが神さまだとは思いもしなかった。そいつの外見には、そんな要素など何ひとつ見当たらなかったからだ。
キャスケットと丸レンズのサングラスで顔を隠し、首には青と白がストライプになったロングマフラー。白いTシャツの上に黒いジャケットを羽織り、下はスキニーパンツとスニーカーという出で立ち。
そいつは何というか――実に何とも言えない格好だった。
全体的に細身で中性的な印象だったが、キャスケットからはみ出した髪は耳を覆う程度の長さだったのもあって、男か女かはわからなかった。
そいつは唇の端からチュッパチャップスの棒の突き出しながら、開口一番――やはり男か女かわからない声で――こう言った。
「ボクは神さまだ」
バストアップに切り替わった画面の下に、『神さま』のテロップが現れた。
「『さま』を漢字にしないところに可愛気を感じてくれたまえ」
そいつは言った。
おれはマーガリンを塗ったパンをゆっくりと食べながらチャンネルを替えた。さっきと同じ画面が映り、そいつは再び口を開いた。
「汝、悔い改めよ――」
おれはパンを飲み込むと、ミルクと砂糖がたっぷり入った紅茶をすすった。
「――素直であることを悔い改めよ。誠実であることを悔い改めよ。正直であることを、悔い改めよ!」
やや引かれた画面に合わせるように、そいつは両手を大きく横に広げながら言った。
「よいか、汝! 必要なのは表層である! 虚勢である!! 演技である!!!」
おれはパンを手早く食べ終えると、残った紅茶に口をつけた。
「――というわけで、本日から皆さんには、生まれ変わるためのすばらしい権利を提供します。ひとつしかない真実よりも、無限の可能性を秘めたニセモノを目指しましょう」
おれは紅茶を飲み干すと、食器を手に立ち上がった。
「――ね、古機誠くん?」
おれは動きを止めた。画面には、そいつの悪戯っぽい笑顔がアップで映っていた。
直後、隣のキッチンにいた母親が、「呼んだ?」と顔をのぞかせた。
それは、決して特別な体験ではなかった。
なぜならその時、その町の住人全員が、神さまに名前を呼ばれたからだ。
そいつを呼び出したのがこの町のトップ――つまり町長であることと、その経緯が判明したのは、そのあとのこと。
そしてこの町に神さまが創った学校――『KAMISAMA立 キャラクターズスクール』が設立されたのは、翌日のことだった。
それは、何から何まで狂った学校だった。
毎週土曜日に異能力バトルがあるとか。
そのために神さまのオーディションを受けなければならないとか。
学校の職員がみんな天使とか。
本当に何から何までが意味不明だった。
ここまで読んでくださった方、まことにありがとうございました。
分量のわりに更新が遅くて申し訳ございません。
またストーリーの進行もゆっくりとなっております。
特にネットでの作品の場合は、最初のツカミが大事だとは承知しているのですが、なかなかそうはできないようです。本人の性質がもろに反映してしまっています。
ただ更新のペースは守りたいと思っておりますので、よろしくお付き合いのほどをお願い致します。