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古機 誠(一年五組 出席番号十一)の安堵

「キサマ……っっ!!」

「申し訳ありません」


怒り心頭のブービーに、おれは言った。半分は本心も込めてだ。


だがそんなことで、彼女の怒りが収まるはずもない。ちょっとキャラのキャパをオーバーしてるんじゃないかと思わせるほどの表情は、おれと同じく本心も混じっているのかもしれない。


まあそれも当然だろう。なんせイシュタルにとどめのラッシュを叩き込んでいるあいだに、ピーカブーを倒されてしまったのだ。


しかしおれに後悔している暇などないように、彼女にも嘆いている暇はない。

すばやく頭を切り替えた彼女は、おれをぶっ殺すための一撃をチャージしながら言った。


「……まあよい。その非道極まる狡猾さ、勝利への執念としては見事だ」

「ありがとうございます」


おれは胸に手を当てて応えた。


彼女が身にまとう愛らしいクマのキグルミは、すでに野生のそれへと姿を変えていた。

チャージを終えた彼女が、油断なく拳を構えた。


「最後に問うが、あの“予言”には、いったいどのような策を仕込んだ?」

「あれは……純然たる勘でございますよ。三分の一なら、悪い確率ではありませんから」

「なるほどな――」


彼女がニヤリと笑う。

刹那、その両足が地面を蹴った。


猛るクマの皮をまとった美しい少女が、眼前へと迫ってくる。

おれにできることは、何もなかった。

せいぜいが、左手の人差し指を曲げることくらいだ。


カチッ、とアナログな音がして、異能スキル/“災いのボイス・コンプレックス”が発動する。録音した音を、編集することのできる技である。

再生するのは、さっき“予言”と一緒に貼り付けておいた「声」だ。


ただし、確信はなかった。元々は、フェイント代わりに使おうかと思っていたくらいだからだ。


ただまあ、彼女とて年齢的には青春真っ盛りの時期であり、『アクター』としても、まだ新人なのである。

同じスーパールーキーの正之介しょうのすけに起こったことが、やはり動揺しているはずの彼女に起こらないとはかぎらない。


ま、ダメならそれまでってことで。


茶色い弾丸と化したブービーを見ながら、おれはそれを再生した。


【ヨダレついてるよ?】

「なっ!? だからそれはエンギ――」


馬戸井まどいも大変だな。


今は亡き、ハイエンドをエンジる友人に同情した直後、おれの体は吹き飛ばされた。


三度のバウンドを繰り返した末に、うつ伏せで着地。

そしてノーダメージである。


スマイリーらしく優雅に立ち上がり、汚れてもいないコートをやさしく払うと、すぐに体育館へと向かった。

さっきまで立っていた場所を横目でうかがう。

やはりそこに、ブービーの姿は無かった。

さすが天使の仕事は早い。まあキャラ逸脱は一番の反則なのだから、当たり前だろう。


しかし勝つためとはいえ、我ながら極悪なことをしてしまった。

ロングの方はともかく、こんなキャラが優勝してもいいのだろうか。


……ま、「良い子はマネしちゃいけません」みたいなクレジットでも入れとけばいいか。


そうして頭を切り替えると、ステータス画面を開いた。

HPは残り一割を切っていた。シャイニングどころか、誰の攻撃でも一発で終わりである。


しかし回復している暇などない。

“未来はぼくの手のギルティー・フリー”の時間切れは、すぐそこまで迫っているのだ。


ステータス画面を消したおれは、次に切札を確認した。


切札とは、おれの持ち技、“報復舌刀パラノイア・コネクション”で録音した音のことである。

自分がくらった攻撃の威力だけを体感させることのできる異能スキルで録音したのは、ブービーにくらったラッシュだった。

正直、切札と呼ぶには便りなさすぎる代物だが、足止めくらいには使えるだろう。


だがリリスもいる中、これをどうやって当てれば――と、考えていた時だった。


目の前に現れた人影に、すばやく足を止めた。

そして信じられない思いで、彼女の名を呼んだ。


「……ロングさん」


その瞬間、頭の中で渦巻いていた様々なシミュレーションが、一気に吹き飛んだ。


「必勝……?」


無表情でつぶやきながら、彼女がこちらに歩み寄ってくる。


そう、「必ず勝つ」と、彼女は言った。


相手のレベルが半分にしかなってなくても、リリスが漁夫の利を狙っていても、「必勝」を宣言した以上、彼女は――


「どうやって勝ったのですか?」


おれは自分の言葉に寒気を覚えた。


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