織田教諭(創造番号第1549天使)の手記①
まずはやはり、事の次第から説明することにしましょう。
もちろん天使たるわたしはすべての事情を承知しており、かつ個人的な手記であるからには、好きなように書き散らしても構わないわけです。
ですがそのような環境下で怠惰に身を委ねてしまえば、縛りがないだけに崩壊を招きやすくなります。自由にはむしろ一層の倫理が求められる、といったところでしょうか。
よって、ここは己の立場と環境を再確認する意味でも、やはり最初から記しておくのがよいでしょう。
というわけで、改めて書き進めたいと思います。はい。
そもそもきっかけは、召喚の儀式でした。
そう。召喚の儀式です。それ以上でもそれ以下でも、何かの比喩といったことでもありません。魔法陣や生贄といった非日常的な行為を媒介に、超常的な存在を呼び出すアレのことです。
わたし達の主――つまり神さまは、そうやって地上に降臨なさったのです。
ですが知らぬ者が聞けば、おそらくこのエピソードは、ちょっと奇妙に響くでしょう。
召喚の儀式で呼び出されるのは、神ではなく悪魔なのではないかと。
はい。それはわたし達も思いました。それは神ではなく、悪魔の仕事ですと――というか、そんなふうに登場するとあなたが悪魔だと思われますよと、実際に神さまに申し上げもしました。
ですが(あるいは案の定)、神さまは聞き入れてはくださいませんでした。
「悪魔と付き合うよりはいいっしょ?」と、必死の懇願をあっさりと一蹴されたのです。
しかし、わたし達は怯みませんでした。この生粋のわがままっ子(実際は年上ですけど)に一度拒まれたくらいで引き下がっていたら、天使なんてやっていられません。
わたし達は、再度申し上げました。
はい、確かに本物の悪魔と付き合うよりはいいかもしれませんが、だからといって世界中でいろいろな人達が同じようなことを行なっている中、あの召喚に“だけ”応じるのは不公平なのではありませんかと、訴えたのです。
ですが、やはり神さまには通じませんでした。
神さまはいかにも悟ったような表情で首を振ると、わたし達に向かってこうおっしゃったのです。
「いいかい、キミたち。公平のためにはね、むしろ権利は不平等であるべきなんだよ」
……ええ。その御言葉自体に反論する気はありません。赤子や病人には、健康な成人とは異なる待遇が与えられるべきでしょう。
ただ問題は、神さまのなさろうとしていることが、その御言葉に何ひとつ当てはまっていないだろうと、そう確信できるということなのです。
しかし、三度の進言は叶いませんでした。
わたし達がそうしようと思った時には、すでに神さまは地上に降臨なさっていたからです。
「あとで天使達も呼ぶことになると思うから、準備だけしといてね」
あろうことか、そんな捨てゼリフを残して。
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございました。
以下、主人公と天使が語り手となって、物語は進みます。
章ごとの分量も、徐々に増えていく予定です。
次は土曜日の更新となります。