織田教諭(創造番号第1549天使)の実況⑥
そのモンスターを、イシュタルはプールの近くで見つけました。
周囲を警戒するそれに、彼女は自身の姿を霧へと変えて近づきました。
そうして隙を見て相手を取り囲んでしまうと、驚き慌てるモンスターを二度三度と斬りつけたのです。
それでもモンスターが生きていたのは、イシュタルが手加減したからに他なりません。嗜虐性の強いキャラ設定を考え、そうしたのでしょう。
よろめき去る獲物を満足気に眺めていた彼女は、それがグラウンドへ出たところで、とどめを刺しにかかりました。一足飛びで標的に追いつくと、右手の手刀を背中へと放ったのです。
しかし、モンスターが断末魔と共に消滅したのは、その長い爪が相手を貫く寸前のことでした。
「……あらン❤?」
そうつぶやくイシュタルの顔には、嬉しげな微笑が浮かんでいました。
その視線は、地面に横たわる黒いリボンタイに向けられています。それこそが、彼女よりも先にモンスターをしとめたものでした。
来た方向へと戻って行くそれを、イシュタルの視線が追いかけます。
そこにあったのは、リボンタイで編まれた漆黒の弓でした。ロングがレベル19で取得できる技、“弓結び(アロー・ノット)”により作られた武器です。弦をはじくことでリボンの一端が矢として放たれ、遠距離にいる相手を攻撃する効果を持っています。
彼女の隣には、相方スマイリーが控えていました。
彼は一歩前に進み出ると、右手を胸に添えながら言いました。
「おや、これは申し訳ありません。ですがわたしの記憶が確かなら、イシュタルさん達は『給食』を終えられたはずではございませんでしたか?」
「……意地悪ねぇン❤」
イシュタルの応えに、スマイリーの笑みが深まります。それはキャラをエンジているばかりではない、心からのドヤ顔でした。イシュタルに一矢報えたことが、よほどうれしかったのでしょう。
わたしも過去に様々なタッグを見てきましたが、これほど危うい同盟関係は初めてでした。
とはいえ、こうしてモンスターは狩り尽くされました。
時刻は十時四三分。
『給食時間』はタイムアップもしくは、モンスターがいなくなれば終わりとなります。
後者の場合、視聴者を待たせないために、残った時間は切り上げられます。
次は終了時刻に一番近い、「キリのいい」時間から始まります。
つまりこの場合は、十時四五分に『三時間目』となるのです。
バトルの再開まで、残り二分弱。
スマイリー達は頭を切り替え、対『神の瞳』に向けた作戦に取りかかりました。
「それでは、イシュタルさん達はすぐに体育館に行って、準備をお願いします。終わり次第、わたし達がシャイニングさんを誘い込みますから」
「わかったわン❤」
妖しく微笑みつつも、イシュタルは素直に応えました。霧に姿を変えると、妹と共に体育館へと飛んで行きました。
それを見送ったスマイリーは、ロングに振り向きました。
「さて、それでは我々も参りましょう」
「気合……」
ロングがコクリとうなずきました。先ほどからセリフのチョイスが体育会系寄りな感じですが、二字熟語の設定は守られているのでよしとしましょう。
彼らは、目的の場所へと足を踏み出しました。
しかし、二人の道が失われたのは、その直後のことでした。
抽象的な意味ではありません。まさに文字どおりの意味で、足下の地面が消失してしまったのです。
失われた大地には、直方体の穴が二つ、空いていました。一軒家がすっぽりと入りそうなほど、巨大な穴です。それらにスマイリーとロングが別々に落ちると、天井は一瞬でふさがってしまいました。
それはもちろん、異能によって行われたことでした。
その技の名は、“世界は歪む(グルグルワールド)”。使い手は、『チーム・イノセンス』のハイエンドです。
彼が二人を捕えたのは、スマイリー達を倒すためでした。
先ほどの穴には、彼ら三人が別れてスタンバイしていたのです。
その組み合わせは、
スマイリー 対 ブービー
ロング 対 ハイエンド&ピーカブー
というものでした。
スマイリーに主力のブービーをぶつけてきたのは、それだけ彼を警戒しているからなのでしょう。『無邪気』をエンジる彼らですが、その行動はしたたかな計算に裏打ちされたものなのです。
ちなみに再投資後の彼女達のレベルですが、次のような結果となりました。
『夜のアリス(ブービー・ドール)』
71口 → 93口(個人ランキング2位 → 2位)
『酔いどれ案山子』
30口 → 43口(同8位 → 5位)
『丑三つ喇叭』
25口 → 31口(同10位 → 8位)
総寄進数は167口。75口であるスマイリー達とは、二倍以上の開きがあります。
時計の針が十時四五分を指し、校舎にチャイムが鳴り響きました。
『給食時間』が終わり、『三時間目』が始まったのです。
それにしても、最初は冗談にもならなかった“神殺し宣言”ですが、劇的なレベルアップを果たしたことで、情勢は確実に変わってきました。
言うなれば、彼らも勝負卓に立つ資格くらいは得たのかもしれません。
ただしその場合、注意しなければならないことが一つあります。
つまり、戦いを挑む資格ができたということは、同時に、狙われる可能性が生まれたことも意味するのです。




