織田教諭(創造番号第1549天使)の実況④
スマイリーこと古機くんが行った、「神殺し宣言」。
あれには、思わず感動してしまいました。はい。嫌々エンジているものとばかり思ってましたが、なかなかどうして、実に堂々たるエンギでした。教師たるもの、やはり生徒の成長を目の当たりにするのはうれしいものです。
せっかく回復させたHPが半分まで減ってしまったのは残念ですが、なんとかがんばってほしいと思います。
さて、そんなスマイリーとロングが飛び込んだのは、部室棟の一階でした。
そこの割れた窓に向かって、マシンガンを持ったキャラが駆け寄ります。
彼は二年四組『チーム・無法者』の、『射』というキャラです。するどい目つきが特徴の彼は、改造したトレンチコートのような服を身につけています。それは彼らギャング団(という設定)の、ユニフォームでした。
彼らは、生まれ持った特異な能力を生かして、国中の銀行を襲った、という設定を持っています。人々から「世界の敵」とまで呼ばれた面々は、警官との死闘に敗れそうになったその時、神さまの召喚によってハルマゲドンの世界へとやってきたのです。
二つ名はいささか安易ですが、彼らの爽快で親密な関係は、信者達からそれなりの人気を受けてきました。ですが寄進をジョーカーに奪われてから調子を崩し、そのままハルマゲドンを迎えてしまったのです。
総寄進が五人で28口の彼らは、立場的にはスマイリー達と変わりありません。斬斬りとクリーンの話し合いを盗み見ていた時も、クリーンによって『殴』と『防』が一瞬でやられてしまいました。
それからはこれといった方針がないままあちこちを動き回り、たまたまスマイリー達を見つけた彼らは、攻撃をしかけることにしたのです。
ガンは窓の手前で足を止めると、すばやく振り返りました。二階からのぞきこんでいた『爆』と『治』が、すぐに顔を引っ込めます。窓と廊下、両サイドから挟み撃ちにする狙いなのです。
ガンが正面に向き直りました。それから、中の様子を確かめようと首を伸ばした瞬間でした。
「こっちです」
「!?」
背後からの声に、ガンが驚愕の表情で振り返ります――が、目の前には誰もいません。
直後、その背中を、強烈な打撃が襲いました。
「ぐはっ!?」
「一気……」
そうつぶやいたのは、ロングでした。無表情で相手を見据え、宣言どおり一気のラッシュでガンを攻め立てます。
それは上段から下段をフルに使った、鮮やかなコンビネーションでした。超近接の距離を苦にしない動きは、「野影 純香」の持つ空手経験の賜物でしょう。始めに与えた不意打ちの三倍ボーナスもあいまって、ガンのHPを着々と減らして行きました。
「――――舐めてんじゃねぇ!」
ですが二人の体力がちょうど同じくらいになった頃、不意にガンは叫びました。強引に振り回したマシンガンの台尻が、ロングの胸を叩きます。その衝撃で下がった彼女に、銃口が狙いを定めます。
ガンがニヤリと笑いました。引き金にかかった指に力が込められます。
と、同時に、彼の背後でガラスの割れる音が響きました。
「こっちです」
それは、先ほどと同じ声でした。
ただし先ほどとは違い、そこには声の主である、スマイリーが存在していたのです。
一度目にガンを振り返られせた「こっちです」は、スマイリーの技“疑心ありき(リサイクル・ボイス)”によって発せられたものでした。部屋に飛び込む直前のセリフを録音し、それを近くの壁に貼り付けておいたのです。
次いで彼は、ロングを窓の下に潜ませてから、一人ドアへと走りました。そして機を見て音を再生し、それにつられたガンをロングが奇襲。そのあいだに隣の部室へ移動したスマイリーが挟み撃ちをしかける、という流れだったのです。
スマイリーの作戦構築力と、それを即座に伝達できるロングとのコンビネーションがあったからこそできた、今回の戦法。
二度も背後を取られた上に挟み撃ちまで受けたガンは、ついにリタイアとなってしまいました。
「ガン……っ!」
渋い声で叫んだのは、『チーム・ビッグベイビーズ』のリーダー・ボムでした。隣には彼の仲間、ヒールも立っています。
ボムは高校生らしからぬ野性的な顔立ちと、肩まで伸びた黒髪が特徴のキャラです。ガンとはデザインの異なるトレンチコートをまとい、様々な国のコインで飾り付けたテンガロンハットをかぶっています。
一方のヒールはかわいらしい、言われなければ女の子にも見える容姿でした。その二つ名のとおり、CBでは珍しい治癒能力を持っています。凄腕の闇医者という設定のキャラで、フード付きの白衣のようなトレンチコートを身につけていました。
「これはこれはボムさんにヒールさん。お早いお着きですね」
「ふん……御託はいい。さっさと遺言を考えるんだな」
異能によって生み出された爆弾を手に、ボムが静かに告げました。
その宣告どおり、確かに奇策を行う余地など無い状況でした。
しかしスマイリーの顔に浮かんでいたのは、あくまで彼のキャラらしい、余裕の微笑でした。
「はて。遺言とは不可解ですね。これから我々が行うのは、『取引』でございましょう?」
「……取引、だと?」
「はい。こちらの要求は、我々の体力の回復。それと引き換えに、最後のお仲間には手を出さないと、お約束いたします」
「な……っ!?」
驚愕に目を見開いたボムが、直後、全身から激しい怒気を立ち上らせます。その隣ではヒールが、隠し切れない狼狽をにじませていました。
そんな彼らをロングが――まあ彼女はよくわかっていないようでしたが、とりあえずは無表情キャラを維持していたでオーケーとしましょう。
……しかし、そう設定されたキャラとはいえ、この状況でよくあんな大胆なことが言えるものです。一種の瀬戸際外交とでも言うのでしょうか。
ヒールを道連れにしない代わりにこちらのHPを回復しろとは、ある意味で先代キャラのジョーカーよりもえげつない戦法です。
とはいえ、その効果は極めて強力でした。
ヒールはCBにはめずらしい、回復の異能を持つキャラです。動きが激しくなる後半戦は「祈って」回復する余裕が少なくなるため、その存在はなおさら貴重となります。
しかしヒールは回復役の定番にしたがって、ステータスは低めに設定されていました。それこそスマイリー達が本気でそうするなら、彼を道連れにできる程度に。
加えて『チーム・ビッグベイビーズ』の面々は、無法者である分、仲間達は強い絆で結びついているという設定です。
そんな彼らが仲間と引き換えに勝利を得るとは、考え辛い選択です。上手くエンジればできないわけではないでしょうが、それによって信者がどんなリアクションを起こすかは未知数です。
そうした各種の条件を総合して判断した結果、ボムは手の中の爆弾を消しました。
「……いいだろう。ただし治すのは一度だけだ」
そのセリフに、ヒールが慌てて振り向きました。
「な、なに言ってんのさボム!」
「構わん」
なおも戸惑うヒールに、ボムが顎をしゃくります。ヒールはすねた子供のような表情へと変わり、スマイリーの元へ向かいました。
「それでは、よろしくお願い致します」
「ふん――」
スマイリーの偽善的な笑みに、ヒールが無視で応えます。
それから渋々といった調子で、両手を伸ばしました。
「“破傷封”」
その手に現れたのは、一本の注射器でした。中には技名どおり、ピンクの液体が入っています。それをスマイリーとロングに注入すると、彼は言いました。
「終わったよ……」
「ありがとうございます」
唇を尖らせるヒールに、スマイリーがなおもやさしく微笑みかけます。二人の体力は、全体の七割強まで回復していました。
「それではお約束にしたがい、わたし達は退散するといたしましょう」
「……ああ」
スマイリー達の言葉に、ボムは静かにつぶやきます。調子を落としているとはいえ、感情を抑えたその表情は、さすがのエンギ力です(まあ一方で、その渋さが地味な印象につながっていたりもするのですが)。
そしてスマイリー達は体育館の方へ、ボム達はそれを見送ってから、部室棟へと消えていきました。
それからおよそ三十分、キャラ達に目立った動きはありませんでした。来るべき『給食時間』に向けて、ヘタな動きはしない方がいいと判断したのでしょう。
今回は早い段階で大量のKが再投資となったことで、皆さん様子見を選んだようです。
時計が十時五〇分を指すと、学校全体に二時間目終了を告げるチャイムが鳴り響きました。
一時間目の終了時同様、倒されたキャラがアナウンスされます。
今回倒されたのは、『チーム・ビッグベイビーズ』のガンだけ。
よって残った十一名で、離脱したキャラの寄進を奪い合うことになります。
ただし、すぐに『給食時間』が始まるわけではありません。その前に再投資を選択するための時間、通称『配膳時間』が設けられているからです。
この時間帯は、校内の様子が非公開となり、それに伴いキャラのエンギも不要となります。
代わりに行われるのは、生き残ったキャラのスタジオによる「PR合戦」です。該当するクラスには五分の持ち時間が与えられ、そこで再投資が自分達のキャラへ行われるよう、様々な方法で信者にアピールするのです。
たいていは事前に用意したPVを使うことになるのですが、時には主力キャラのリタイアで映像の差し替えが必要になるなど、スタッフの判断力が要求される場面でもあります。




