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織田教諭(創造番号第1549天使)の実況②

予選と変わらない『チーム・イノセンス』のエンギは、実に見事でした。この派手な出だしは彼女達の信者ファンのみならず、他のキャラの信者からも注目を集めたようです。

おそらく前半は狙われないであろう立場を逆手に取った彼女達は、『給食時間』に向けて大きなアピールができたかと思われます。はい。


そして彼女達がひと暴れを終えたちょうどそのあと、一階の理科室では、話し合いの場が持たれていました。


机や薬品棚が並ぶ薄暗い教室の中、二組ふたくみのキャラは向かい合って立っていました。


「なるほど……」


その内の一方、廊下側に立っているキャラが、静かにつぶやきました。

顔全体に包帯を巻き、わずかに右目だけを露出させています。全身を黒い衣装で固めているため、顔だけがぼんやりと浮かんでいるようでした。


そんな彼の名は、『網目スリム・スライ』。

三年五組『チーム・異形フリークス』が作り出したキャラです。

「異形」というテーマが示すとおり、服の隙間からのぞく皮膚にはひどい火傷のような傷が浮かび、また全身を虫がい回っているかのように、シャツの下では不規則な脈動が繰り返されています。


その『スリム』に対し、もうひと組の代表者である彼女は、妖艶に微笑みかけました。


「ね? 言ったとおりでしょン❤?」


その甘い声は、三年四組『チーム・チャーム』の三姉妹が長女、イシュタルの発したものでした。彼女の腕の中では三女のリリスがスヤスヤと眠り、隣には次女のカーミラが控えています。


イシュタルは妹の髪をやさしくなでながら、再びスリムに語りかけました。


「だから――ねぇン❤?」

「ふん……信用できんな」


スリムは冷たく言い放ちます。露出した右目は警戒心に満ちていて、そこには殺気すら漂わせていました。


「あらぁン❤ 嫌われたものねぇ――」


しかしイシュタルは臆することなく、むしろ面白がるような調子で言いました。


「――だったら、そうねぇン❤ ウチのカーミラちゃんを差し出して、“2対2”にするっていうのは、どうかしらン?❤」

「なんだと……?」


その意味を理解したスリムが、右目を見開きました。その瞳からは警戒が消え失せ、殺意一色に染まっています。イシュタルの提案は、スリム(というキャラの)逆鱗に触れてしまったのです。


「……いいんじゃないかな」


しかし不意につぶやかれたそのセリフが、スリムの瞳をたちまち狼狽へと変えてしまいました。


「なっ――何を言ってるんだ、『チック』!」


スリムが、右に振り向きながら叫びます。チックこと『残刻チック・タック』は、窓の下にうずくまりながら、じっとスリムを見つめ返していました。


同じ『チーム・フリークス』のキャラである彼は、スリムの反対――つまり頭のてっぺんから足の先までが、雪のような純白でした。体は細く、下ろした前髪が右目を隠しています。着ているのは、ゆったりとしたセーターとジーンズ。弱々しい微笑を浮かべた中性的な顔立ちは、触れば簡単に壊れてしまいそうなほどに(はかな)い印象を与えます。


その『チック』が弱々しい微笑を浮かべたまま、しかし固い決意を込めた瞳でスリムを見つめます。


「イシュタルさんの作戦……ぼくはいいと思うよ」

「ふ――ふざけるな! わかってるのか! そんなことをすればお前が――」

「……うん」


チックは小さく、しかしはっきりとうなずきました。スリムを――いえ兄をさとすように、やさしく微笑みながら。


「ぼくはもう……いいんだ」

「いい……だと……?」

「……うん。ぼくはもう満足だったから。兄さんが里から連れ出してくれた瞬間に、ぼくは解放されて……覚悟はできてたから」

「チック……!」

「だから、そんな顔しないで。ぼくは嬉しいんだ……兄さんの、役に立てて」

「やめ――」


しかしスリムの手が届くよりも先に、チックの手刀が己の心臓を貫きました(絵的にはわずかな血液が飛び散ったくらいでしたが)。


「チック!!」


床に倒れこもうとするチックを、スリムが抱きとめました。


「ありがとう……兄さん……」

「なぜ! どうしてこんなバカなことを――!!」

「……そんな顔……しないで……? ちゃんとわかってるんだ……今のぼくじゃ、役に立てないって……ね?」


最後の問いかけに、スリムの目が見開かれます。

それを否定しようとした兄の口を、弟がそっとふさぎました。


己を包む手をやさしくどかし、チックが立ち上がります。

ゆっくりと、しかし確かな足取りで進む彼は、穏やかな声で言いました。


「兄さん、優勝してね。そして良子さんと、幸せに暮らして」

「――――!!」


弟のゆるぎない覚悟に、兄は叫ぶことすらできませんでした。


……と、もしここだけ見た人がいれば、きっと何が何やらさっぱりわからないことでしょう。


しかし『チーム・フリークス』をずっと追ってきた信者ファンにとって、ここは感涙必至の大クライマックスシーンなのです。


スリムとチックは、一言でいえば「抜け忍」という設定のキャラです。

彼らは、いにしえから存在し、闇よりもさらに深い場所で暗躍してきた一族の元に生まれました。過酷な任務に耐えるため、あらゆる方法で改造を繰り返してきた彼らの身体は、文字どおり異形と化していました。

それはスリムとチックの兄弟とて例外ではなく、しかし彼らが“里”の者と違っていたのは、外の世界を望んだことでした。


そして紆余曲折の末に行われた、“里”からの脱出。

波瀾万丈な逃亡生活やその合間のラブロマンスなど、ドラマはいろいろと続くのですが、ともかく追ってきた“里”の者に追い詰められ処分されそうになったところを神さまがCBに召喚した、というのが彼らの設定なのです。


その悲劇的な設定と濃密な人間関係、また平常時は息を飲むような美形なのに、異能を使った途端に全身が醜く変形してしまうギャップ。そういった要素を好む人達が、彼らの主な支持層です。


彼ら兄弟の望みは、自らに流れる忌まわしい“血”の呪縛から解放されること。そのためにハルマゲドン優勝を狙っているのです。


ということで、話を戻しましょう。

過去との決別を果たすため、弟が自らを犠牲にしようとしているシーンです。


チックは振り返りません。またスリムも動くことはできませんでした。弟の覚悟が本気であることを悟ったからです。


そんなチックの元に、『チーム・チャーム』の次女、カーミラがゆっくりと近づいていきます。


「ふん――いい心がけじゃないか」


冷たい美貌の少女が、紅い唇を三日月の形に歪めました。そのあいだからは、二本のするどい牙がのぞいています。背中に巨大なコウモリの羽を生やした彼女は、その見た目どおり、吸血鬼の異能スキルを持っていました。


彼女が使おうとしているのは、“同化サイクル・エンド”という技。

これは相手の喉元に噛み付くことで、そのキャラの命と、異能スキルを奪う効果を持っています。


「カーミラさん……だったよね……」


そう言うと、チックはセーターの(えり)を引っ張りました。


「いいよ」


白く細い首筋を露わにしながら、彼は告げました。


先ほど、自らの体を貫いたことにより、彼のHPは四割ほどにまで減っていました。

カーミラの技、“同化サイクル・エンド”は、相手の体力が半分以下でないと使えないからです。その上で相手の喉元に噛み付くことによって、効果が発動するのです。


カーミラは微笑んだまま、チックに左手を伸ばしました。血のように紅い爪が頬に触れた瞬間、彼の身体が小さく震えます。


「心配するな――」


カーミラは静かに告げると、手のひらで頬を包み、背中に回した右手で彼を引き寄せました。


「――痛いのは最初だけだ」

「ぁ……!」

「チック!」


たまらず叫んだ兄の声に、しかし弟は応えません。


カーミラは両腕で、チックの身体をしっかりと固定しています。彼の首元に押し付けた唇の隙間からは、皮膚を突き破る二本の牙がのぞいていました。

セーターをつかんでいたチックの手が、力無く垂れ下がりました。するとその白くなめらかな皮膚が、まるで急速に老化しているかのように朽ちていきました。


「あはぁン❤」


様子を見守っていたイシュタルが、コツコツとヒールを鳴らしながら、カーミラの元へ歩み寄ります。


その時にはすでに、チックの姿はどこにもありませんでした。


カーミラが持っていたのは、あちこちが擦り切れた古いセーターだけ。足元には、チックが着ていたジーンズや靴が無造作に転がっていました。


「調子はどう? カーミラちゃん❤?」

「最高ですよ――姉様」


カーミラが答えると同時に、チックの衣服は消滅しました。しかし彼女達も、さらには兄のスリムでさえも、そのことを気にする様子は見せません。これはCBの仕様であり、「気にしてはいけない」ことになっているからです。


そして彼らのエンギは続きます。


弱くやさしく、いつも護ってやらなければならなかったはずの弟。

しかしその彼が見せた、誰よりも強い決意のエンギによって、ステージの緊張感は最高潮に達していました。


そんな中、口火を切ったのは三姉妹の長女、イシュタルでした。


「さて、それじゃあ次に移ろうかしらン❤?」


眠る末妹を抱きかかえながら、彼女はスリムを見つめます。


「……いいだろう」


応えながら、スリムは怒りと忍苦のせめぎ合う瞳で、彼女の挑発的な視線に対抗します。


するとイシュタルの視線が、次女へと戻りました。


「それじゃあカーミラちゃん、よろしく❤」

「はい……」


カーミラは応えると、足音をたてずに二歩、進み出ました。


「……」

「……」


スリムとカーミラが、およそ一メートルの距離で向かい合います。


「ふん……」


数秒の沈黙を挟み、スリムが右手を伸ばしました。

瞳から苦悩は消え、代わりにあったのは、静謐せいひつと呼べるほどに純粋な決意でした。


弟の犠牲を無駄にはしない――


セリフに頼らないそのエンギは、さすが濃密な人間描写を得意とする三年五組の『アクター』です。


カーミラに向けられた右手の指は、何かをつかむかのように曲げられていました。


「心配するな――」


多くの声フェチをとりこにした美声が、静かに告げました。

同時に周りから、雑音が起こりました。何かをこする音や風を切る音、それらが教室のあちこちで混ざり合っています。


やがてその音が不意に途絶え、スリムは言いました。


「――痛みなど無い」


直後、彼の右手の指先から、白く細いものが飛び出しました。

それはカーミラの両肩、喉元、脚の付け根に突き刺さり、まっすぐに張りつめます。


「はぅ……っ!」


全身を痙攣けいれんさせたカーミラが、上半身を大きくのけぞらせます。

白く細いそれは千切れそうなほどに引っ張られ、スリムが右手を持ち上げると、彼女の体がゆっくりと浮かび上がりました。


「あんッ! ああっ! ぅんッ――――ああああっ!」


……はい。知らない人が見ればいろいろと誤解を生みそうな場面ですが、もちろんやましいものではありません。

これは、スリムの異能スキルなのです。


ある意味でカーミラの“同化サイクル・エンド”と似たその技の名は、“孤立無援のラストワルツ”。

体内に侵入させた特殊な糸で相手の神経を支配し、対象者を操る効果を持っています。操られた相手は完全に思考能力を奪われ、自身のHPがゼロになるか、技を解かれるまで解放されることはありません。


「ぁ――――」


全身を震わせていたカーミラが、ぐったりしたまま動かなくなりました。

すると浮いていた体が、ゆっくりと下ろされます。


彼女はその場に崩れ落ちることもなく、先ほどと変わらぬ姿勢で立っていました。


しかしイシュタルを見つめるその瞳からは、完全に光が失われていました。


「ふん――」


そんなカーミラを横目で見ながら、スリムが忌々しそうにつぶやきます。


「――で、どういう作戦で行くつもりなんだ?」


それから彼は、イシュタルに向かって言いました。


そうです。

カーミラがチックの異能スキルを吸収し、そのカーミラをスリムが操るといったことをわざわざ行ったのは、同盟を組むためだったのです。


その同盟の目的は、「『神のシャイニング・アイ』を倒すこと」。

116口もの寄進を集めた優勝大本命のキャラに対抗するため、彼らは手を組むことにしたのです。


両者の取引は、互いの利害に一致していました。

チックの持つ技は、『神のシャイニング・アイ』を倒せる(正確にはその突破口となる)可能性が高い。


しかし一方で、彼はその技のためにステータスが極端に低く抑えられており、しかもそれを発動させるためには、直接相手に触れる必要があるのです。


おそらくチックのHPでは、『シャイニング』に一撃でやられてしまうでしょう。

加えて、シャイニングが神さまから与えられた能力も、いまだ不明のままです。

この同盟は、それらの要素を克服するために行われたのです。


チックをカーミラに吸収させ、その彼女を操り人形にする。そうすることでチックの異能スキルをキープしたままステータスもアップでき、しかもイシュタル・リリスという兵力も加わる、というわけです。


トータルの評価として、この同盟はスリム側に有利だったと言えるでしょう。

実質的にはチックがパワーアップしただけであり、さらにはカーミラを人質に取った形になったのですから。


「……そうねぇン❤――」


艶めかしく輝く唇をうっすらと曲げながら、イシュタルは言いました。


次女を差し出してまで、成立させたがった同盟。

次にどうするかを問われた彼女は、顔をわざとらしく横に傾けながら、明るく答えました。


「――とりあえずスリムちゃんには、死んでもらおうかしらン❤」

「な……っ!?」


それが彼の断末魔でした。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。


これから随時、各キャラがそれぞれの戦略を元に行動を起こしていきます。

厨二なキャラと技名が大量に出てきますので、それぞれの黒歴史を思い出しながら読んでいただければ幸いです。


それではまた。できれば二日後に。

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