織田教諭(創造番号第1549天使)の手記⑥
さて、気づけば日付も変わろうとしています。何気なく買った一冊に、つい夢中になってしまいました。手記をキリの良いところまで記し、明日に備えるとしましょう。
前回は、斬斬りとクリーンの戦いに、ジョーカーが乱入してきたところを書きました。
しかし、新たな戦いが始まろうとした時、不意に斬斬りは武器を収め、「くだらん」との言葉を残し、戦いの舞台から去ろうとします。
そこに、甘い声が響きました。
「あらァン❤」
それはもちろん、『民知らずの王』でも『姫のまにまに(クリーン・キラー)』のセリフでもありませんでした。
「斬斬りちゃんってば、とんだ食わせ者なのねん?❤」
それは彼らの上空、およそ五メートルの場所に浮かぶ“霧”の中から聞こえてきました。
「あれは、『チーム・チャーム』の三姉妹……!」
皆の視線が集中した瞬間、エキストラの一人が、すばらしいタイミングでつぶやきます。
その言葉どおり、霧の中から現れたのは、三人の女性キャラでした。
ロリ・黒髪・エロいお姉さんというセットで固めた彼女達は、三年四組が作り出したキャラ(ちなみに『チーム・チャーム』とは、四組のテーマである『魅惑』に由来する呼び名です。ひとつの組に複数のキャラがいる場合、このように総称する慣例なのです)。
「ふん……食わせ者とは、いったい何のことだ?」
振り返った斬斬りが、三姉妹の中の長女――エロいお姉さんを見つめました。
肩の下まで伸びた豊かな髪。顔は妖しいほどに美しく、身体も完璧なラインを描いています。
その体を包むのは、チューブトップの水着から、犯罪にならない程度まで面積を減らしたような、黒い服。それもカラスの羽で作られた特別製なため、動くたびに隙間から肌がのぞくという、フェティシズムあふれる仕様です。脚には黒いタイツとハイヒールを履き、完全に露出した背中からは、艶やかに輝く黒い羽が生えていました。
素材が衣装を選び、衣装が素材を輝かせているそのキャラをエンジているのは、
三年四組六番 『空間 もなみ』
その二つ名は――『聖室昇華』
イシュタルは微笑を浮かべると、射るように睨む斬斬りに応えました。
「あン❤ だって斬斬りちゃんったら、冷たいふりしてちゃぁんとクリーンちゃんに協力してるんだもの❤」
「……チッ――」
より険しくなった斬斬りの顔を見て、彼女の笑みは深まります。
それから彼女は、抱いている妹に視線を移すと、その頭をなでながら言いました。
「――ねェン❤ あなたも見てたでしょ?」
「……」
コクン、と妹はイシュタルの首に抱きつきながら、うなずきました。
彼女は三姉妹の末っ娘キャラ。だっこという体勢からわかるように、非常に小柄で、かつ幼い容姿をしています。
その外見は、あの一年三組の『捻子森 美樹』よりもさらにロリ寄りで、大きいお兄さん方を中心とした信者からは、“奇跡の女子高生”“JKはここまで進化した”“人類よ、これが幼形成熟だ。”と讃えられるほどです。
サラサラの髪は金髪のセミロング。スモックのような服に身を包み、お尻からはしなやかな金色の尻尾が生えています。容姿に見合わぬ醒めた瞳は、不純物のない湖のように青く澄んでおり、足には小さなアンクレットのほか、何も身に着けていませんでした。
そんな彼女の名前は、
三年四組八番『穸口 紅』
その二つ名は――『夢中放縦』
三姉妹で一人だけ飛ぶことのできない彼女でしたが、それを補って余りある高い戦闘力は、これまでに数々の敵を屠ってきました。
斬斬りの視線が、イシュタルからリリスに――そしてイシュタルに戻されます。
「……で、俺が何かを仕掛けておいたから何だと言うのだ? 卑怯だとでも言うつもりか」
チャキ――と音がして、彼の愛刀、『斬咲一紋』が鞘から姿をのぞかせます。爽やかな昼の陽光を浴びた刃は、それを凍るような冷たい光に変えて輝いていました。
「クク……ずいぶんとご立腹じゃないか。そんなに悔しいのか? ジョーカーを倒せなかったのが」
しかし彼に応えたのは、イシュタルの横に浮かぶ人物――三姉妹の次女をエンジるキャラでした。
姉とは対照的な、長くまっすぐな黒髪。笑んだ唇からは牙がのぞき、切れ長の瞳と共に、恐ろしいながらも不思議な魅力を生み出しています。
チャイナドレスのようなデザインの衣装は、その引き締まった体型を浮き立たせ、イシュタルと同じく、露出した背中からは巨大なコウモリの翼が生えています。
主にM属性の信者達から熱い支持を集める彼女は、
三年四組十二番『日門 文美』
その二つ名は――『妖艶禁忌』
戦闘能力は高くありませんが、とある特殊な異能を持つ、要注意なキャラです。
と、このように魅力的なキャラがそろった『チーム・チャーム』ですが、その寄進数は三人合計で二位、平均では六位に位置しています。
そんな彼女達を怒りの目でにらむ斬斬りに対し、長女のイシュタルがさらなる挑発を重ねました。
「あン❤ ちがうわよカーミラちゃん。斬斬りちゃんは、クリーンちゃんを助けられなかったのがくやしいの――ねぇン❤?」
直後。
シャッ――
という音と共に、魔刀・斬咲一紋が抜き放たれました。
氷のように冷たく輝く刃を突きつけながら、燃えるような赫い瞳が三姉妹を見つめます。
「……いいだろう。かくまで戯けるというのであれば、まずは仇より先に貴様達から屠ってやろう」
「……あはぁン――❤」
と、なおも微笑むイシュタルでしたが、しかしその瞳には、しっかりと殺気が宿っていました。
まあ実際はこれまでに何度も戦っているため屠るも殺気もないのですが、そこは経験豊かな両キャラ、まるで本当に殺し合いをするかのような緊張感を生み出しています。
殺気で牽制し合いながら、仕掛けるタイミングを図る両者。エキストラの面々も、呼吸すら抑えてその時を見守ります。
そしてついに両者の歯車が噛み合った瞬間、斬斬りはわずかに膝を沈め、三姉妹の身体にも力が込められました。
しかし、
「ハッ――」
明らかに小馬鹿にした笑いが、またもや場の緊張感を台無しにしてしまいました。
斬斬りたち四人の視線が、一斉にそちらへ向けられます。
「――くだらないわね」
鉄扇を苛立たしげに上下させながら、彼女は言いました。
「おい……?」
彼女の後ろに控えているものを見つめながら、斬斬りが困惑した声で呼びかけます。
それもそうでしょう。
ジョーカー、イシュタルに続く三度目の邪魔は、『姫のまにまに(クリーン・キラー)』から発せられたものだったのですから。
どうやら生来の目立ちたがり屋である彼女は、スポットが三姉妹に移ったことに立腹してしまったようです。
「したいんなら勝手に殺り合ってればいいわ。あたしは帰らせてもらうから」
そう言ってクリーンは、背後に控える“車”の後部座席に、どさりと腰を下ろしました。
そこにあったのは、クラシックなデザインのオープンカーでした。
通常のそれより二回りは小さく、マニアが特注で作らせた贅沢な模型といった感じの趣です。大きな立襟のコートと帽子で顔を隠した運転手は、クリーンが乗り込むと同時にキーを回しました。
「おい待――」
しかし斬斬りが言い切る前に、車は去って行きました。
クリーンが異能によって創り出したそれは、音も排気ガスも出さず、高速で移動することができます。乗っているあいだは攻撃も防御も不可になってしまいますが、垂直の壁を上ることもできるなど、非常に便利な能力です。
……さて。
そうして一人抜けたあと、改めて彼らはバトルの続きを――というわけにはいきませんでした。
いま戦っても寄進に結びつかないと判断したのか、再び刀を納めた斬斬りはその場を去り、三姉妹も現れた時と同じく、霧の中に姿を消しました。三姉妹とジョーカーの対決は未だ実現していないカードのひとつでしたが、今回もそれは叶いませんでした。
ということで、ハルマゲドン前のビッグイベントとして期待されていた、『斬斬り刀』と『姫のまにまに(クリーン・キラー)』のバトルでしたが、終わってみればなんとも肩透かしな結果となってしまいました。
些か評価めいたことを書けば、今回は三年四組、『チーム・チャーム』の登場が余計だったかと思われます。
ジョーカーだけならば、あの時斬斬りが仕掛けていた“トラップ”をきっかけに、
『民知らずの王』対『斬斬り刀』&『姫のまにまに(クリーン・キラー)』
という、非常に魅力的なバトルが成立していたでしょう(すでに記したように、『傾国の参謀』と『不実な執事』は、戦いに参加しない設定です)。
しかしそこに三姉妹が乱入してきたことで軸がぶれ、それがクリーンの離脱を引き起こしてしまったのです。
もともとイシュタルたち三姉妹はジョーカー同様(というか彼らより前から)、バトルに乱入してはかき回すタイプのキャラだったのですが、今回はめずらしく状況を見誤ったようです。
結果、信者の多くはこのバトルを評価せず、またKの寄進もあまり行われませんでした。
……と、ここで時刻は午前の二時。
テンション的にはもう少し書きたいところですが、ここで筆を置くことにしましょう。
今のわたしには、教師というもうひとつの顔があるのですから。
その重責を果たすためにも、睡眠はきちんと取らなければいけません。
まだ手付かずの新刊と共に、布団に入るとしましょう。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
手記は一段落し、次回は主人公の語りとなります。
寄進数二位のジョーカーに、重大な危機が訪れます。織田先生がきちんと眠れたのかは、わかりません。
できるだけ早くアップできるようがんばりますので、またお付き合いください。
それでは失礼します。




