織田教諭(創造番号第1549天使)の手記⑤
そんなわけで、『ハルマゲドン』です。
先ほど記したように、CBでは、Kの寄進だけがレベルアップの方法となっております。
そのため各組はキャラの設定のほか、どのキャラと戦い、どのように勝ち、場合によってはどのように負けるかといったことも考えて戦わなければなりません。
スペックが不利であろうとも、キャラが立っていればたくさんのKが集まりますし、他のキャラとのライバル関係が成立すれば、それに煽られた信者が寄進数を増やしてくれます。また敗北を重ねることで信者が親近感を抱き、かえって大量の寄進が行われることもあります。
そうしてキャラ達は様々な方法でKを集め、『ハルマゲドン』と名付けられた大会での優勝を目指すのです。
この『ハルマゲドン』とは、年に二回、学期末に開催されるイベントで、校内の最強キャラを決めるための大会です。はい。名付けたのは、もちろん神さまです。
しかし、今わたしの勤めている学校が「羽舞原校」であることからもわかるように、当初は一校だけで行われていたこのイベントも、現在では各地のキャラクターズスクールで勝ち抜いてきた最強キャラが集まって、“真の最強キャラ”を決めるまでに拡大しています。
毎週土曜日に行われているCBが、勝っても負けても、また戦わずともよいとされているのに対し、バトルロイヤル形式のハルマゲドンは、負ければ即失格、最後の一人もしくは一クラスとなるまで続けられます。
さらにCBの時はバトル中にも寄進が許されているのに対し、ハルマゲドンでは新たなKの加算は認められていません。
つまり、各キャラは原則的に、ハルマゲドンまでにひとつでも多くの寄進を集めておく必要があるのです。
そして今年の前半戦、第九回ハルマゲドンまで、残り一ヶ月弱。
各組はK獲得のために奔走し、様々な方法でキャラの宣伝を行なっています。
その方法のいくつかは先ほど挙げましたが、本日行われた“果たし合い”――二年五組と二年六組によるタイマン戦なんかも、キャラの知名度を上げるやり方のひとつです。
これはいつどこで行われるかわからない通常のバトルとは異なり、あらかじめ場所や時間、条件などを決めておく戦い方です。事前の予想や期待感などによって、寄進熱が上がりやすくなるのです。
ただしそれが効果を発揮するためには、戦うキャラ同士に何らかの必然性を持たせる必要があります。
勝敗や実力が拮抗しているとか。
どちらかが雪辱に燃えているとか。
あるいは今回のように、何らかの想像をかきたてる組み合わせであるとかいった具合にです。
本日戦った二人は、勝敗や実力も同じくらいですが、それ以上にこの二人が同じ空間にいるということ自体が、『信者』にとって大きなアピール力を持つのです。
その二名の所属と二つ名は、以下のとおり。
まずは刀使いをエンジる正統派キャラ。
二年五組二番 木月 光太
キャラテーマは、『不屈』
その二つ名は――『斬斬り刀』
対するは、高飛車ながらもどこか憎めないお嬢様キャラ。
二年六組一番 屋久鈴 芽炒
テーマは『派手』
その二つ名は――『姫のまにまに(クリーン・キラー)』
両者は同じ学年でクラスも隣同士、かつ両キャラの性格もよい対照性を示しているということで、ライバルというよりは心の奥で共鳴し合っている――すなわち、一種のカップリングのような関係として、信者からは見なされています。
その二人が本日の昼休み、校舎の屋上を舞台に決闘を行いました。
ちなみに決闘の約束を取り付けたのは、スタッフの中で『交渉』の役割を担っている生徒です。彼らは今回のように決闘の条件を契約したり、新しいキャラについて神さまに説明するなど、キャラが活動するために必要な説得や調整を行なっています。
今回の決闘は、午後の一時から一時半まで。使用武器や場所の制限は無し。対決の模様は、CB専用サイトにアップすること(画面の大きさや位置も含む)――などの契約が結ばれました。
そうして行われることになった決闘ですが、元々のキャラ人気に加え、さらには『宣伝』スタッフによる様々なPRによって、非常に前評判の高い試合となりました。
そして迎えた午後一時前。
H型校舎の屋上は、試合を見届けようとする『エキストラ』の生徒で一杯でした。
『エキストラ』とは、まさに文字どおり、バトルを盛り上げる役割を負った生徒達です。
各学年の一組と二組に所属し、それらは三組から六組の『CC』に対し、『EC』と呼ばれています。
キャラ設定には一切関わっていない彼らですが、代わりにバトルの盛り上げ役として、「うわああっっ!」といった適切なリアクションを取ったり、「あの技は前に破られたはずじゃ……!?」などの解説を入れることで、視聴者に興奮をわかりやすく伝える役目を負っているのです。
ちなみにバトル中の彼らの安全についてですが、我々が霊子体となって保護しているため、爆発で吹っ飛ばされようがモンスターに襲われようが、絶対にケガをすることはありません。
そのエキストラ達は、「H」の形をした校舎の、縦棒のところに集まっていました。
そして二つの校舎をつなぐ横棒の部分、その一端に目付きの鋭い少年――『斬斬り刀』は立っていました。
長い髪を高い位置でのポニーテールでまとめ、袖の無い白いシャツと、細身の黒いパンツを身につけています。腰には複雑な手順で編んだ赤い紐を斜めに巻き、そこに武器である刀、その名も『魔刀・斬咲一紋』を挿していました。
それは頭部のメイクを中途半端に残した平常時とは異なる、バトルモード中の姿です。
『斬斬り』は腕を組んだまま、十分前からそこに立っていました。
しかしその視線の先に、彼の相手である『姫のまにまに(クリーン・キラー)』の姿はありません。
そのまま、時は過ぎていきました。
やがてエキストラ達からもざわめきが起こり始め――ついにリミットを迎えようとしたその時、彼女は現れました。
場所は斬斬りの正面。校舎の陰から勢いよく飛び出してきた彼女は、綺麗な一回転を加えて屋上に降り立ったのです。彼女の能力をもってすれば何でもないとはいえ、わざわざ校舎の壁を登ってくるとは、いかにも派手好きな彼女らしいやり方です。
「あら、もしかして待たせたのかしら?」
薄い笑みを浮かべると、『クリーン』は手にしていた鉄扇を広げました。
顔の二倍はあるそれには、固有名こそありませんでしたが、打ったり叩いたりするほか、斬ることも突くことも可能な万能型の武器として作られています。
「ふん……待ってなどない。それよりもさっさと始めるぞ」
斬斬りは応えながら、右手で魔刀・斬咲一紋の柄を握りました。同時に、その瞳は血のような赫に染まり、左頬には細長い葉のような形の黒い紋様が、点々と浮かび上がります。
これは、斬斬りの武器が、“魔”を帯びた刀であるという設定から来た変化です。
そもそも彼の流派である『霧裂一刀流』は、創始者が凶悪な“鬼”を屠ったあとに――と、キャラ設定はいろいろ続くのですが、長くなるので止めておきましょう。
ともかくその伝説の流派の末裔である彼は、その魔刀を武器に戦うキャラなのです。
「あらあら、ずいぶんと焦ってるのね?」
クリーンは鉄扇で口元を隠しながら、余裕の笑みを浮かべました。
腰よりも長い髪は巨大なリボンを使ってツインテールにまとめ、体にはキャラのテーマである『派手』を体現した豪華なドレスをまとっています。それもただ派手なだけではなく、肩の部分が大きく露出しているなど、機動性も兼ね備えたデザインです。
そんなふうに、非常に目立つ外見の『姫のまにまに(クリーン・キラー)』ですが、その設定は意外にも、「代々裏社会で暗躍してきた暗殺者の一族」だったりします。
一族の中でも変わり者で通ってきた彼女は、いつまでも影の存在であることに飽きたらなくなり、ついには己の実力を大々的にアピールするためハルマゲドンに参加した――というのが彼女の設定なのです。
その暗殺屋らしからぬ性格と、戦闘時の冷酷な表情のギャップが、寄進数第四位の人気を呼んでいます。
「くだらん……生憎と俺は貴様なんぞに構ってはおれんのだ。もっとも、貴様が“仇”というのなら、話は別だがな」
斬斬りはつぶやくと、左手の親指で鍔を押し出しました。
彼の目的は、殺された父の仇を討つこと。その相手がハルマゲドンに参戦しているのことを聞きつけ、参加を決意したのです。
ちなみにこの「仇が参戦している」というのも、もちろん設定の一部です。キャラの多くは出場の動機付けとして、「優勝者にはどんな望みでも叶えられる」など、ハルマゲドンに自由な付加価値を設定することを赦されているのです。
「ふふ――もしかしたらそうかもしれないわよ? って言っても、殺した相手のことなんて覚えてないんだけど」
直後、クリーンの瞳が、不意に表情を変えました。余裕の笑みから一転、最適な殺し方を見極めようとする、冷酷な観察者のそれに。
その変化を受け、斬斬りも表情を引き締めました。こちらも五位の寄進数を持つキャラだけのことはあります。クリーンとは対照的な、野性的な迫力に満ちたエンギです。
「……」
「……」
強い日差しの下、二人が無言で睨み合います。それは見ている方が息を飲むほど、緊張感に満ちたシーンでした。
そうしてたっぷり間をもたせたのち――二人は同時に動きました。それはとてもアドリブとは思えないほど、絶妙なタイミングでした。
CBでは、どれほど激しく動こうとも、衣装が破れたりウイッグが取れたりすることはありません。また身体能力の方も、キャラの時は常人を大幅に上回っています。
つまりエンジる生徒は、まさにそのキャラとして戦うことになるのです。
その戦闘はまさにゲームといった感じで、体力が減っても動きが衰えることはなく、また殴ろうが斬ろうが、当たったところが一瞬しびれるくらいで、実際に相手が傷つくこともありません。刃物で斬れば血しぶきが上がったりはしますが、あくまで演出ですので、安心してメッタ斬りしてもらって大丈夫です。
そして二人が打ち合うこと数刻。
バトルのステージは屋上から校舎の中、さらにはグラウンドへと移動しながら続きました。
絶え間なく続く破壊と攻撃と防御。それは画面の外で見守る信者を熱狂の渦に叩き込みました。様々なサイトに立てられたスレッドは興奮に満ちたコメントであっという間に埋まり、即座に立てられた新しいスレも同じ勢いで埋まっていきます。
その熱いバトルは信者のみならずエキストラの皆さんにも伝播し、吹き飛ばされ逃げ惑いながらも、実にすばらしい叫び声や説明ゼリフを発していました。
そうして主役である二人を中心に盛り上がっていたバトルでしたが――その饗宴はあまりに唐突に、また最悪な形で終わりを告げました。
場面は、斬斬りがクリーンの中・遠距離攻撃をくぐり抜け、彼女の懐に迫ろうとしたところ。
それを彼女が、鉄扇で迎え討つ動きを見せた瞬間でした。
不意に飛来した小さな影が、二人のあいだに割って入ったのです。
それは、
カッ――
という乾いた音をたてて、地面に突き刺さりました。
斬斬りとクリーンは攻撃体勢のまま動きを止め、それを見つめています。
またエキストラ達も、何が起こったかわからない――というリアクションで、二人を見つめていました。
「……ア~ハー、アハ、ウ~――」
そこに聞こえてきた、奇妙な声。それは我流の発声練習のような、あるいは酔っぱらいがマイクテストをしているような、なんとも言えない代物でした。
「――ヘ~イ! ハローハローハローハローハッ――ロオウウウゥゥゥッッッ!!」
甲高い絶叫と共に、エキストラの一部が悲鳴を上げて飛び退きました。
「……ウィ~ハッハァ――」
“彼”は満足そうに笑うと、エキストラが見つめる中、目の前にできた通路を悠然と歩き出します。
不自然に背中を曲げた姿勢。黒く縁取られた瞳はまばたきひとつしないまま、じっと上目で正面を見つめています。その後ろには二人のキャラが付き従っていましたが、人々の視線のほとんどは、“彼”一人に集中していました。
重苦しい沈黙の中、“彼”は不意に立ち止まると、その視線をクリーンに向けました。
「……どうだい、ハニー? ご気分は?」
「最悪よ」
クリーンは、吐き捨てるように応えました。
「フ……ヒャハッ――ヒャハヒヒャハハヒャ! 最悪か! 最高だ!」
そう言って狂ったように笑う“彼”を、クリーンは冷たい瞳で見つめます。
そしてまた不意に笑いを止めると、革手袋に包まれた指を胸の前でモゾモゾと動かしながら、二人を見つめました。
その瞳は楽しげなものから一転、奇妙に冷めた、相手のすべてを見透かすようなものに変わっています。同時に場の空気も、重苦しい困惑から、首元に針を突きつけられたような、強い緊張感に包まれました。
クリーンの言うとおり、最悪なタイミングだったにも関わらずこれほどの支配力を発揮するとは、さすが大物ルーキーと言ったところでしょうか。
二年生の中で頭ひとつ抜けていた二人も、“彼”の前では少しばかり分が悪いように思われます。
そんなすばらしいエンギ力を持った“彼”ですが、何を隠そう、それはわたしの担任するクラスの生徒でした。もちろん天使でありCBの審判でもあるわたしが、それを理由に贔屓などするはずもないのですが、それでも親しみと――少しばかり複雑な気持ちを覚えてしまいます。
それは個性豊かな我がクラスが、『狂気』をテーマに作り上げたキャラ。
『一年五組五番 黒村 正之介』エンジる――『民知らずの王』。
そして彼の背後に控える二人のキャラは、
『一年五組十一番 古機 誠』エンジる――『傾国の参謀』。
『一年五組九番 野影 純香』エンジる――『不実な執事』。
後者の二人は、キャラでありながらバトルに加わることはないという異例の設定を与えられていましたが、それでも『民知らずの王』というキャラを支えるために、無くてはならない存在なのです。
「なるほど、“最悪”ですか――」
その内の一人、『傾国の参謀』は、指をまっすぐ伸ばした右手で眼鏡を持ち上げると、薄い笑みを浮かべながらクリーンに言いました。
「――それなら、ぜひとも“彼”を倒してくれませんか? 麗しの『姫のまにまに(クリーン・キラー)』?」
ピクリと片方の眉を持ち上げ、クリーンはスマイリーに視線を移しました。
そんな彼女に向かって、もう一人の異例キャラ、『不実な執事』が、手元の本を見つめながらつぶやきます。
「解放……」
――はい。
その瞬間、わたしは心の中でホッとしたことを、正直に告白しなければなりません。
そのページに書かれている様々な二字熟語には、きちんとルビが振ってあるようですが、このあいだの小テストで「平安時代」を「平餡時代」と回答し、いやむしろそんな字どこで覚えたんですかという気分にさせられた身としては、不安な気持ちを抱いてもしかたがないかと思われます。もちろん彼女がエンギの時に見せる特別な集中力は知っていますが、それでもあのキャラが未だに『降板』されていないのは、本当に不思議です。はい。
それはさて置き、とりあえず無事にスマイリーもロングもエンギを終えたところで、ジョーカーも含めた彼らの設定について説明しておきましょう。些か人を――あるいは神さまをと言うべきでしょうか――喰ったようなその設定を。
『民知らずの王』は、「悪魔を我が身に取り込んだことで誕生した」という設定のキャラです。
しかもそれは、「町おこしで行われた召喚の儀式で現れるはずだった」悪魔なのです。
彼らが作った設定によると、その悪魔は顕現の寸前で神さまに割り込まれたことが原因で、地獄に戻ることも、現世で形を取ることもできない不安定な存在として人間界をさまよう羽目になり、とりあえずの避難先として、近くにいた男子高校生の体に憑依したのです。
そうして悪魔は自身の存在を安定(このあたりは「霊的エネルギー」と「肉体」の関係が云々と理屈付けられているのですが省略します)させ、地獄に戻るためのエネルギーを蓄えようとしたのですが、ここで第二のアクシデントが起こりました。
この悪魔に憑依された男子高校生、実は平凡な外見からはまったく想像できないほどの『狂気』を内に秘めていたのです。
その支配力たるや、本物の悪魔を蝕むほどにすさまじく、なんと彼は悪魔の力を我がものとするために、自らの「理性」と「知性」を放棄してしまったのです。
それらを放棄してしまった彼は、もはや人ではなく虚無とも呼ぶべき存在であり、その中で自身の形を維持できなくなった悪魔は、ついに力を吸い取られてしまったのです。
その悪魔とも人間ともつかないモンスターこそが、『民知らずの王』という存在です。
そしてそれに付き従う二人――『傾国の参謀』と『不実な執事』は、彼が放棄した「理性」と「知性」が具現化した姿です。
彼ら(あるいはそれら)は、いくら排除されたといってもよそに行くわけにもいかず、ジョーカーの中の悪魔が消滅するのを願いながら、しかたなく主人に従っている(という設定)なのです。
このように、『民知らずの王』は仲間からさえも敗北を期待され――しかし決して負けることのない、最狂にして最強という最凶の存在なのです(ちなみに、あの召喚で呼び出されるはずだった本物の悪魔は、今も地獄で元気にやっています)。
しかし、ジョーカーをエンジる黒村君には、本当に驚かされました。
黒村君といえば、大きな荷物を持ったおばあちゃんを助けていて遅刻したことがリアルにあったほど、おとなしくやさしい子です。また演技についても、過去に幼稚園の発表会でスズムシの役をやったのが――それも他のスズムシの「きれいな月だね」というセリフに「うん!」と応えるだけの役が――最初で最後だと聞いています。
そんな彼が、狂気そのもののキャラを完璧にエンジるなど、誰が想像できるでしょう。
しかしジョーカーは、登場するやいなや衝撃的なデビュー戦を果たし、現在(かなり変則的な形ながら)寄進数第二位という地位を確保しているのです。
そのジョーカーが、冗談っぽく両手を広げながら、クリーンに言いました。
「アハァハァ――麗しのハニー。優雅に動く肉塊よ。アンタ、本当におれを倒してくれるのかい? だとしたら最高だ。オレはいつだって、殺されるならアンタにだって決めていたんだ」
同時に、バラララッ――という乾いた音をたて、その両手から大量のトランプがこぼれました。クラブ・スペード・ハート・ダイヤの、1~Kのカード。枚数は足元に落ちているもの含めて、百枚以上はあるでしょうか。
「さあ、ハニー。オレ達が愛しあう数を決めようじゃないか?」
その瞬間、場の空気が一気に張りつめ、息苦しいほどになります。
そんな中、しかしジョーカーだけは、むしろそれが心地良いかのようにニンマリと笑い――
「――ヒャアッハア!!」
手にしていたトランプを、クリーンに投げ放ちました。
凄まじいスピードで襲いかかる、何十枚ものトランプ。
予備動作もなく繰り出されたそれは、クリーンの動作をわずかに惑わし、その停滞が回避の選択肢を失わせます。
「くっ――!」
彼女は苛ついた表情で鉄扇を構え、
ガガガガッ――!!
と、ハンマーを高速で叩くような音が響きました。
「……ァ、ハア――?」
「くだらん……」
ニンマリと笑ったまま、からかうように首を傾げるジョーカーに向かって、彼は言いました。その周囲には両断されたトランプが、力無く宙を舞っています。
斬斬りは、ジョーカーをにらみつけながら続けました。
「……さっさと失せろ。道化」
風鈴のように澄んだ音をたてて、彼の刀――『魔刀・斬咲一紋』が鞘に納められます。その背中には鉄扇を構えたままのクリーンが、呆然とした様子で立っていました。
「あんた――」
呼吸さえ憚られるような静寂の中、クリーンがつぶやきました。
そして、
バシィッ!
鉄扇の重い一撃が、斬斬りの後頭部を襲いました。
「ぐはっ!?」
「なにおいしいとこ持ってってくれちゃってんのよ!? 助けなんかいらなかったのに!」
「何を言う! しっかりと焦っていただろうが!」
「あんなのフェイクに決まってんでしょ!? バカじゃないの!」
至近距離でにらみ合いながら、二人の口論はヒートアップしていきます。
クリーンの言う「おいしいとこ」とは、信者に対するアピールも含めてのことなのでしょう。
一応、キャラ達は視聴者がいないものとしてエンジるのが原則なのですが、一方であのセリフは、目立ちたがり屋で借りを作るのが嫌いな彼女のキャラにふさわしくもあるので、今回はセーフとしておきました(ちなみに彼女が斬斬りに行ったツッコミですが、あれは攻撃としてきちんとダメージにカウントされています)。
「……アハァ――」
ゲップのような笑い声と、鋭く短い摩擦音。
クリーンと斬斬りによって生み出されたコミカルな空気は、一瞬で不安と緊張に塗り替えられました。
「――オォォォケェェェイィィ……拒まれたのならしかたがない。いさぎよくブチ切れて殺してしまおうじゃないか?」
そう告げたジョーカーの手には、再びトランプが出現していました。
ただし前とは違い、そのカードには彼の二つ名と同じ、ジョーカーが描かれています。
両手をだらりと下げ、不規則に体を揺らしながら、ジョーカーは二人を観察するように見つめています。それは獲物をなぶり殺しにする猫のような、興奮と冷静が絶妙に混ざり合った瞳でした。
対する斬斬りとクリーンですが、先程の軽いノリから一転、シリアスモードの表情に変わっています。基本的にすべてがアドリブで進むCBでは、バトルの強さと同じくらい、状況判断能力が問われます。その点、彼らの切り替えはさすがと言ってよいでしょう。
さて、そんなわけで二種類のカードを出してきたジョーカーですが、もちろんその効果は異なります。
というか、群を抜いて特異なキャラである『民知らずの王』が扱える技は、寄進数に関係なく二つだけであり、しかもその二つが群を抜いて厄介なのです。
まず彼が最初に出した技――1~Kまでのカードですが、その技名は、『意味なし革命』。
これは、相手に刺さったカードに書かれている数と同じだけの攻撃を喰らわせれば、そのキャラのK(=KAMISAMA)をすべて奪えるという、とんでもない効果を持っています。
たとえすべてのカードが刺さっても、残るのは一枚だけ、つまりカウントダウンは最大でも「13」です。またカードが刺さった時および、その後の攻撃はすべてノーダメージとなります。
よってこの『意味なし革命』を喰らった場合、すぐに逃げ出すか、カウントダウンが終わる前にジョーカーを倒す必要があります。
そして次に出した道化のカードですが、その技名は、『人なし裁判』。
こちらもやはり相手に投げつけるのですが、その効果は奪うのではなく「与える」、それも相手の防御力や状態に関係なく、自身のHPと同じだけのダメージを喰らわせるという、これまたとんでもない効果の技なのです。
しかもこちらは、『意味なし革命』とは違って、刺さる枚数に制限はありません。おまけに彼は攻撃力と防御力が抑えられている代わりにHPがやたらと高く設定されているので、場合によっては一撃で勝敗が決する事態も起こり得るのです。
と、神さまからこんなステータスを与えられたジョーカーですが、彼が初めてCBに姿を現したのは、先月の終わりのことでした。
時期としてはやや出遅れた彼らでしたが、登場するや否や、いきなりその時の上位キャラと中堅キャラ――二年三組『観殺者』と二年四組『ビッグベイビーズ』のKを奪ってしまったのです。
この事件について、他の組と信者は、とてつもない衝撃を受けました。
というのも、相手を状態異常にする技を持つキャラはいても、Kを奪うキャラは過去に存在しなかったからです。もっとも、それを狙った設定を作ってくる組なら存在したのですが、作り込みが甘かったのか何なのか、神さまがその能力をお授けにならなかったのです。
そんな中、ついに登場した『民知らずの王』でしたが、案の定と言うべきかどうか、その評価はまっぷたつ――の、わりと批判多めな感じに分かれました。比率で言うなら八:ニくらいでしょうか。
しかもKは金銭ではなく善行によってしか貯まらないのですから、それを不意に現れた――しかもあんな訳のわからないキャラに奪われるとあっては、怒りたくなるのも当然でしょう。
とりあえず現状維持で、という結論でまとまりましたが、実際にKシステムの再改定について話し合いが持たれたほど、その反響は大きかったのです。
「……ふん――くだらん」
ということで、バトルの方に戻りましょう。
ため息と共にそのセリフを口にしたのは、二年五組のキャラ、『斬斬り刀』でした。
爆発寸前の緊張感の中、不意に投げかけられたそれは、ジョーカーにとっても不意だったのでしょう。
「アハァ――?」
と、獲物を見つけた猫のような瞳から一転、首を大きく傾げて、不思議そうな表情に変わりました。
しかし斬斬りは鞘に添えていた左手を放すと、驚いたことに手ぶらのまま、ジョーカーに向かって歩き出したのです。
「遊びたいならお前らだけでやれ。生憎と俺は、そんな戯事に付き合っている暇は無いのでな」
すれ違いざま、斬斬りは言いました。
「……クケッ――カアァァッヒャヒャヒャァッッ! 聞いたかいハニー!? オレはアンタをぶっ殺してもいいそうだ!」
去り行く斬斬りを見ることもなく、ジョーカーが狂喜乱舞とでも言うような瞳でクリーンを見つめました。
「く――」
独りになったクリーンが、苛立った声と共に鉄扇を構え直します。
周囲は再び緊張感に満ち――
「あらァン❤」
――しかし不意に聞こえてきたその声によって、一瞬で弛緩してしまいました。
……はい。
ごく簡単に記して終わりのはずでしたが、気づけば空には、暁の明星が輝いています。
本当はもう少し書かなければいけないのですが、続きはまた今夜にしましょう。
休日の今日は、掃除、洗濯、DVDの返却、新刊チェック――と、他にもすることがたくさんあるのですから。
すいません…中編となりました。織田先生はまた夜更かしをすることになりそうです。きっと買ってきた新刊を読みふけることになるでしょうから。
これからはこんな感じに分割するることが増えてきそうです。三分割はあまりないと思いますが。
次回は、また新キャラが出てきます。
様々な設定を持つキャラが集まる作品ですが、そのカオスな感じを楽しんでいただければと思います。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。




