第零話 「少年」
俺は普通ではなかった。
気づいたら普通ではなくなっていた。
俺は他人には見えないものが見える。
幻覚ではない。
実体があるのは確認済みだ。
それの毛深さも筋肉の硬さも本物だ。
しかし、俺にしか見えない。
『見えない』だけで特別な呪文を唱えれば触らせることは出来る。
炎を吐くことだって出来るし氷らせることもできる。
悪用すれば軽く世界を滅ぼせるだろう。
だけどそれに何の得があるんだ。
英雄にも、支配者にも興味はない。
俺は何にも興味はない。
ただ、俺と同じことができる奴がいるなら見てみたい。
何度もそう思ったが、そんな人が現れることはなかった。
オンリーワンのフレンドゼロ。
虚しすぎだろ、俺。
「くうーん」
犬のようで犬じゃない奴が俺の近くによってきた。
こいつが今のところ一番俺に懐いてるやつだ。
正式名称は知らない。
ペットじゃないから名前も付けてない。
「ガルルルル! ガオオオオオオ」
いきなり巨大化した。
目が赤くなり白い毛は黒くなる。
大きな牙が生え、可愛さではなく獰猛さがあふれる。
何回かこいつが巨大化するのを見たことはあるがそれでも驚く。
そしてこいつが巨大化するのは大抵、人に会った時とかだ。
もしくは同類に出会ったときとか。
そして今俺がいる場所は、ビルの屋上。
出入口に寄りかかっている。
それなのに目の前に現れるような奴は、いないはずだ。
この日から普通じゃない俺に普通じゃない日常が舞い降りてきた。