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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第五章 中央奪還作戦
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第六十話 武器屋の主人の選択

 日が落ちた中央国。竜たちが北へと撤退を始めて数時間が経過したことを、月明かりが示す。

 町に明かりが戻る中、中央国の、中央に位置する城内では、怒号と罵声が飛び交っていた。

 しかし、一人の王女に一喝させられる。

「あなた方を――許します」

 数万を超える民は押し黙り、王女の言葉をただ、聞いている。

 ついさっきまで、牢獄に閉じ込められていた民と騎士たち。中央国の現王女であるユーティリアは、牢獄に閉じ込められていた全ての民と騎士たちを王宮へと招き、侵略作戦を指揮したマシューと、その側近であるリーアムたちの処遇について話をすると言い出したのだ。

 玉座に腰かけるユーティリアの前に、腕を後ろに回されて結ばれたまま、立たされたマシューとリーアム。数千の民が集まった頃だろうか、それを見て、体調不良を訴える者、同じ様に地下牢に閉じ込めろと怒鳴る者など、反応は人によって様々であった。

 そして、数万の民が集まり、各地区の騎士たちも怒りを抑えられなかったのか、下を向いて立っていたマシューの胸ぐらに掴みかかり、思いの丈をぶつける。

 次いで、住民たちも混じった乱闘になるはずだったが、一喝させられた民と騎士たちは恐れ多くも、と前に言葉を付けると、その理由を尋ねた。

 どうして、彼らを許さなければいけないのか、と。

 立ち上がるユーティリア。亜麻色の髪を揺らし、代々に受け継がれてきた杖の底を床に当て、話を始めた。

「ええ、そうですね。確かに、彼らは許されてはいけない行いをしました。私も、許せません。ですが、北の魔神出現に始まり、魔法使いたちを守ると言っておきながら、守れなかったことも事実。それは、許されていませんよね? そう、許されていないのですよ。許すか許さないかを決める立場にある人間も、もうこの世には存在しません。そして、私たちが最優先に行わなければならないことは、魔神による、これから起きる死を無くすこと。そのためにも、彼らを許さなければいけないのです。許されない行いをした私たちが許されるためにも、彼らを許さなければいけない」

 王女の言葉。

 優しさに満ち溢れている言葉。

 あまりにも、正当性を持ち合わせない言葉。

 そんな言葉で許されるはずが無いのだ。魔神であろうと、竜であろうと、命が失われるという結末には変わりが無い。

 それでも王女は、許したいと言っている。

「まぁ、何も罰は与えないわけではないですから、そうですね……。手始めに、壊れてしまった中央国の復旧作業でもしてもらいましょうか。民の皆さんも、じゃんじゃんこき使って下さいね」

 笑顔で。

 ユーティリアは、近くにいた騎士の剣を借りると、マシューとリーアムに結ばれた紐を――断ち切った。


「それで、全ての竜操者たちは中央の再建材料に使われているってこと? 本当に、王女様は甘いというか、ずる賢いというか……」

 途中から、自分が仕える王女の悪口を言い始めていたミュエルに、リーナは苦笑いで答える。

 モンキー武器屋内の、ハイルの部屋。

 だが、主人は帰っていない。

 もう、日を三回もまたいでいる。

 ついさっき、北の森に聖剣を刺しに行ったラルフとマイヤとディアが帰ってきた。自分がずっと使ってきた剣を、家族が大切にしてきた聖剣を手放すのは辛いと旅立つ前までは言っていたが、その聖剣はリーアムのものを代用したらしく、ラルフの聖剣は相変わらず、腰から下げられていた。

 今、三人は夕飯の買い出しに行き、ここにいるのはリーナとミュエルの二人だけである。

「ハイルは、どこに行ったのです?」

 中央国の南側に出現した、全長数百メートルを越える金色の水晶。夜では中を確かめることはできないが、日が出た今なら分かる。中には、竜操者たちが崇めていた竜神の姿があったのだ。

 最初に出た言葉は、どうしてこれがここにある、だそうだ。その話が聞かされたのも、王宮内での王女の話が終わって次の日になった時。魔物を狩るために外に出ていた騎士たちが、その存在に気付いた。

 すると、竜操者たちは、自分たちが崇めてきた竜神の周囲に新たな国を建てたいと言い始めた。流石に許されないだろうと、王女を見ると、「許す」、の二文字の言葉が飛び出す。本当に、現王女は自由な生き方をしていた。

「さぁ? またどこかに逃げたんじゃない、の?」

 二人は椅子に腰かけていた。更に言えば、目の前に置かれた机を挟んで、座っていた。

 だから、分かる。

 目の前に置かれた一枚の紙切れ。

 ミュエルが気付く今の今まで、置かれていなかったそれを手に取ったのは、リーナである。

「『もう戻れない。体から瘴気は溢れ、模様も消えなくなった。去っていく竜たちもいたところを見るに、きっと良い結果になったんだろうな。ま、俺の弟子なら当然だろ。さてと、先に南に行っているから、マイヤを連れて来てくれ。ハイルより』。以上が、この紙に書かれている事です……馬鹿」

 読み終えると、紙を破り去り、南の方角を見据えるリーナ。

 まだ、終わっていなかった。

 本当の旅の終わりは、これからなのだ。


第五章 END

第五章が終わり、次から終章となります。


長いようで、短かった気がしますが……いえ、まとめをするには早すぎますね。


では、誤字脱字、間違った文章表現等ありましたら、一報をお願いします。


また次回の更新をお待ちください。



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