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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第五章 中央奪還作戦
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第五十九話 決戦 

 まだ残る太陽の光が眩しい。地上よりも雲の方が近い場所にそびえる王女の部屋へと続く通路は、竜操者マシューが連れて来た竜神によって分断され、どうやって元来た道を戻るのか分からなかったが、当初の目的は王女の救出なのだ。

 先にそちらを優先させなくては、とリーナは足を踏み出そうとしたが、王女の部屋に入ろうとする足は動かなかった。何故なら、腹部を押さえたマシューがリーナの足を握って離さなかったからだ。

「離してくださいです! それに、何だか竜臭いし、気持ち悪い。触らないで、です!」

 じたばたと足踏みし、マシューが手を離す。いや、それはリーナに手を踏まれる事が嫌であったわけでは無いのだ。

 竜臭い。その言葉がマシューの頭の上を回り始める。

 そもそも竜臭いとは、どのような臭いなのか分からなずにいたマシューは、知らないうちにそのような臭いが自分から放たれているのかと思うと不安になった。

「ち、ちなみに、竜臭いってどういう風に臭いのか、説明を……」

「いや、冗談です。本気で勘違いしないでください、です」

 気を悪くさせてしまったと、リーナは地面に伏せて落ち込むマシューに謝った。

 だが、それもマシューの作戦の内であることを理解する代価として、頬から一筋の血が流れる。

 腰から抜かれた、刺突型の剣がリーナの頬をかすめる。

 マシューも、リーナと同じレイピア型の武器を扱うようだ。違うのは、剣を握る部分と周りの装飾。

 そうだ、造ってくれた人の思いも、違うのだ。

「!」

 頬に触れ、手の平に付いた自分の手を見て青冷めるリーナ。

 対して、笑い声をあげるマシューはリーナが繰り出す剣の突撃を予測していたかのように、間合いを取る。

 自分が確実にリーナを仕留められる、完璧な間合いを。

「……残念です」

 心配して損したと、リーナは怒りに震えながら、剣先をマシューの心臓に向ける。稽古以外で人に剣を向けたのはこれが初めてでは無かったが、意識を正常に保っている人間い向けるのは初めてだ。

 そして、マシューは剣を持つ腕を曲げて胸の位置で固定し、剣先を天井に掲げ、体を横にずらした姿勢でリーナと向き合う。これが、マシューの戦いにおいての構え。一体一であれば、剣を持つ腕を伸ばし、全身を使った突きに特化した構えをとるリーナよりも、マシューの方が避けるのには向いているだろう。

「あなたは、良い師匠に恵まれなかったのです」

 ハイルから教えられた。ただ、剣を力任せに振っても、力が無いリーナでは致命的な一撃にはならない。腕の力で足りないのであれば、足を、腰を、全身を使えば良いのだと、教えられたのだ。

 だから、負けられないのだ。力押しで勝てると思い込んでいる、目の前のマシューに。

「ふん、剣術なんて独学でも学べる。敵の体に刃を突き刺し、肉をえぐる。それだけで勝敗は決するんだ」

 突きに続き、突き。マシューの突きは的確にリーナの体を狙うが、当たらない。

 リーナの方が、マシューよりも素早く、戦い慣れをしている。

 それはそうだろう。魔神に最も近い男の側で剣の修行をしていれば、普通の人間であるマシューの突きの速さなど、天と地の差。

 間合いをとっていたはずのマシューが、自然とリーナのペースに飲まれてしまう事は目に見えていた。

「分かったのです? 独りで学んだとしても、限界に直面することになることを」

 お互いが、全く同時に行った突き。同方向に作用したはずの力は瞬間的に片方へと流れ込み、耐え切れなかった結果、マシューの手から剣が離れ、赤い絨毯を滑りながら王女の部屋の前で停止する。

 敗北。瞳の輝きを失うマシューの鼻先に、リーナのレイピアの剣先。後一歩リーナが踏み出すことで、レイピアの尖った剣先はマシューに到達することだろう。

 そこで、少女の叫び声がこだまする。

「マシュー!」

 泣きそうな声で、優位に立つ自分に酔いしれていたリーナと怯えるマシューの間に割り込む、マシューと似た顔を持つ少女。

 目元を赤く腫らし、言葉にならない言葉を発し続ける少女の白い髪を撫でながら、抱きしめるマシューの目はいつの間にか、人を殺めようとしていた者の目では無くなっていた。

「リーアム……地下牢の警備は?」

「心配無用、彼女等安全、一緒魔物、退治連携」

 単語を繋ぎ合わせただけの、意味が読み取れない言葉の並び。けれど、ずっとリーアムの側にいたマシューなら、全てが分かる。

 次いでに言うとすれば、分断された向こう側の道で、リーナに向かって手を振っているのであろう、三人の騎士たちと洗脳したはずだった一人の魔法使いの姿を見付けたからである。

「本当に、決心を折るのが得意な国だな。いや、あの王女がいる国の民なら、そのくらいできて当たり前なのか」

 泣いたまま、離れようとしないリーアムと一緒に立ち上がるマシューは、リーナに言った。

「もう、中央国はいらない。俺は、俺の国を建てる」

 王女の居る部屋に、マシューとリーアムは向かう。リーナは、日が落ちても尚、輝き続ける二人の後ろを追って、駆けた。

前振りは抜きにしまして、本題に入りたいと思います。


まず、後一話で第五章も終わりますので、ここで第五章のキャラ紹介を行っていきます。


他の章から登場しているキャラクターの紹介は、 第七話、第十九話、第三十四話、第五十話をご覧下さい。


竜操者の長 マシュー

 数ヶ月前に、自分の住む村を北の魔法使いたちに奪われ、安定した住処を得るために、復讐の矛先を中央国に向ける少年。年にして十五、双子の妹のリーアムを騎士として鍛え上げ、気が付けば自分よりも強くなっていた事に驚きを感じている。悪人としての心を持ち合わしている反面、自分の身内にはとても優しい一面を持っている。


二人目の聖剣使い リーアム

 マシューの双子の妹で、聖剣を扱う少女。本作では語られないが、聖剣精製に必要になる鉱石を生み出す生物は、東に住む獣の魔物だけではなく、東西南北全てに隠れている。その内の、北に住む竜の魔物に出会ったリーアムは、聖剣精製に必要になる鉱石を渡されると、宿っていた精霊の指示を聞きながら、自分で聖剣を作ってしまう。また、その聖剣で数々の魔物を倒していく中、北から逃げてきた魔獣と戦っていたリーアムは知らぬ間に魔獣の瘴気を浴び、ディア程では無いにしろ、精神汚染(進化型)によって言語能力に障害を受け、悩まされる事になる。


以上となります。

明日以降も、この更新ペースを保てれば良いのですが、本当にぎりぎりまで時間を使ってしまうかと思われます。また、誤字脱字、読み難い表現等が多々あるかと思いますので、ご指摘を宜しくお願いします。


(この冬休みという期間を大事にしなければいけませんね……!)


では、また。

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