表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第四章 熱鉄を叩き続ける日々
42/64

第四十二話 魔神の魂

 水晶が砕け散り、中に残っていたのは黒髪の騎士――リーナ。

 真上から見た時に居たはずの、うずくまるようにして眠っていた女の姿は無くなっており、月の光に反射して、破片が心地良い音をたてながら地面へと落ちる。

 リーナは目を擦り、両腕を掲げて背伸びをする。

「うーんっ! ただいま……えと?」

 自分と似た者の気配が、すぐ近くに。

 舌なめずりをしたリーナは、きょとんとしている騎士二人に声をかける。

「さ、バカ娘の頭を冷やしに行きますか」

 暗い月夜に晴れやかな顔。

 この状況を楽しんでいるように見えた。


 魔神と、戦っている。

 東西北の国が総出となっても敵わない魔神と、その幼い少女は一人で戦っている。

 ミュエルとラルフは呆然と見ているだけで、何もしない。いや、しようと思っていても、手の出しようが無いのだ。

 何故なら、二人の目には何も見えていないからだ。

 光をも凌駕する速さ。

 凹んでいく木々の表面には、加速するために踏まれた足跡が無数に付けられていた。

 リーナがレイピアで突き、シエルは鋭利な爪で対抗する。互角のように見える戦いであるが、ハイルには分かる。

 傷を付けた数であれば、リーナが勝っている事に。

「いい加減にしたらどうなの?」

「はぁ? 何言っているの?」

 突撃。

 剣でシエルの爪を受け止めたリーナはシエルに声をかけるが、代わりに疑問符を浮かべている。

 距離をとり、再び交える。

「そんなに背は大きくなっていないみたいね。私に似ちゃったのかしら」

「だからさ、何言っているのか分からないんだって!!」

 重い一撃。

 受け止めたはずだったリーナの腕からレイピアが弾き飛び、シエルの爪が迫る。

 リーナを貫くべくして向けられた爪は、リーナの皮膚をかすり、地面に突き刺さって止まった。

 何かを呟いたような気がしたシエルは、目の前のリーナに尋ねる。

「今、何て言ったの?」

 好戦的であった言動が全て、年相応の子供へと切り替わる。

 殺意が込められていた瞳も、今は驚きに見開かれていた。

 リーナはもう一度、同じ言葉を喋る。

「立派になったね、シエル」

 シエルの頭へと伸びたリーナの手。その手は払われることなく、素直に受け入れるシエル。

 夜風が、涙を流す魔神の頬を優しく撫でた。


 ――リーナの心はとても広いが、空虚で、何も描かれていない。

 全ての魔神が少女のように、他人の心の中に干渉できるわけではないが、こんなにも広いのに、物一つ置いていないのはおかしい。

 何でも良いから、形を持つ何かが無いだろうか。少女は銀色の長い髪を揺らしながら歩き回る。

 だが、やはり何も無い

「そうです。私には、なりたいものが無いのです」

 空間から、ぬっと出てきたリーナ。別の見方があるとすれば、白い紙にリーナが描かれたのだろう。

「騎士だって、周りがなるべきだよと言ったからなったのです。でも、体を動かすことは好きでしたから、騎士として生活する上では問題は無かったのです」

 何も無い白い世界を見ながら、リーナは続ける。

「結果が出なければ、この世界は人を評価しません。私はいつしか、第十三地区最弱の騎士と呼ばれるようになっていました」

 訓練に熱心でなかったから。周りの方が努力していたから。

 言い訳するのに必要な素材ばかり揃うのに、自分が成長するための素材は得られずにいるリーナ。

 少女は、我慢できなかったらしく、口を開いてリーナを叱る。

「いい加減にしなさい! あなたは、ハイルに出会って何も思わなかったの? 楽しくなかったの!?」

 人を助けるための旅であるのに、楽しいとは。茶化すような言葉が出そうになる口を止めて、別の言葉を探す。

 探した結果、一つの結論に達する。

 ――楽しかったです。

 自分の思いの丈を、全て話すのだ。

 そこで少女は、神妙な顔つきになっていたが、最後には普段通りの笑顔をリーナへと向ける。

「ほら、世界を見てみなよ」

 少女から、周囲に視線を移すリーナは、あることに気付いた。

 花。

 何も描かれていない、白色の無機質な床から、白い花びらが特徴的な花が生えていた。

 そう、少女は分かっていたのだ。

 リーナが自分の言いたいことを理解し、分かってくれることを。

 無理して、自分にはできないことに挑戦する事は無い。

 ならば、人は頑張らなくなってしまうのではないか。そう聞くのは無理も無い。

 だが、自分のしたいことが出来ないでいる方が、無理だ。

 この花から教えられたのは、『無理して自分の個性を変える必要は無い。でも、形を変える努力はしていかなくてはならない』、ってことだった。

昨日ぶりです。上雛平次です。


投稿を早くしようと息込み過ぎているせいか、文章が少なくなり、内容にも異常が出ているかもしれないので、おかしな箇所があれば、ご指摘をお願いします。


では、また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ