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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第一章 下克上とは緩やかに行うものである
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第四話 模擬戦

改正内容は、後書きの部分ですので、本編には影響がありません。

どういう状況なのだろう。

 リーナは剣を構え、第十三地区最強の騎士――ラルフ・アインセルと対峙している。

 短めの金髪で、最強とはとても言い難い風貌と軽めの防具を身に付けるラルフの方も、緊張のせいか、落ち着きがないように見える。

「模擬戦開始!」

 ミュエルの声を皮切りに、観客である騎士達が盛り上がる。

 本来なら、黙って戦いの様子を見なければいけない模擬戦だが、騎士団長であるミュエルが、「今日は大いに盛り上がって良い」、等と言うものだから、皆が悪乗りしてしまっているのだ。

 いや、半ば本気で盛り上がっている者もいるだろう。

「じゃあ、リーナ。怪我させたらごめんね?」

 腰から下げた鞘を握り、剣を引き抜くラルフ。

 青銅で造られたその剣は、今にも折れてしまいそうな程ぼろぼろであるが、ラルフが最強と言われる理由は武器の性能では無いことがはっきりと分かるだろう。

「――うぉらっ、飛ばせ! もっとだ!! 」

 性格の変化。

 ラルフは武器と捉えられる物を持つだけで、性格が豹変してしまうのだ。

 普段の礼儀正しさと弱々しい雰囲気を放つラルフとは違い、こちらは作法に逆らい、荒々しく戦いを行う。

 他の騎士達の間で、狂戦士とも呼ばれているラルフ。実戦経験は無いにしろ、第十三地区にいる騎士達全てを圧倒した剣の実力は本物だった。

 だから、最強の名は、彼に与えられたのだろう。

 対して、ラルフの連撃を受け流すことしかできないリーナは、打開点を戦いながら模索していた。

 けれど、ラルフの剣の勢いは衰えるどころか早まる一方。リーナは受け流そうにも受け流せずに、尻餅ばかりついてしまっている。

 とどめ。

 六度目のリーナの尻餅で、その鼻先に剣を構えるラルフ。

 これ以上の戦闘は無意味だと言わんばかりに、ラルフは去ろうとする。

「攻めろ! リーナ!!」

 歓声がこだまする中、男の声が響いた。

 ハイルである。

 スイッチが入ってしまったミュエルを任せて、戻ってきたと思ったらギャラリーに回っていたハイルに、リーナは侮蔑の眼差しを送る。

「へぇ、まだ戦うのかい?」

 ラルフは振り返り、恍惚に満ちた表情を浮かべる。

 まるで、戦うことが生きがいであるかのような、そんなイメージを抱かせた。

 リーナの方は戦意を喪失してしまったのか、立ち上がってもふらついている。

 小柄なリーナに合うような武器を造ったつもりであったと、訝しげにリーナを見るハイル。

(なるほどな)

 原因はそこでは無いのだと、観察していて気付いた。

 リーナは、人と戦うことが怖いのだ。

 強盗まがいの行動をしてきた時に気付いてあげられれば良かった。

『どうして、そんなに怯えているのか』

 最初から、剣を振るうような生活をしていなかったのかもしれない。

 リーナは、相手を傷つけてしまうことを恐れていたのだ。

「怖がるな、リーナ!」

「で、でも……」

「狙うのは人じゃない! 武器だ!」

 機転を働かせる。

 理由は分からないが、リーナは人を傷つけることを嫌う。

 ならば、相手の持っている武器を無力化させることができれば、リーナだって勝つことができるはずだ。

 もちろん、それは人であればの話だ。

「や、やってみます!」

「ごちゃごちゃ、うるせー!」

 大振りの一撃。

 刺突用の剣では到底受けきることはできない。

 そう、受けきることができないだけの話。

「何!?」

 剣は、あっさりとレイピアに弾かれた。

 勢いに任せた振りは、一直線にリーナを狙ってきた。

 その刃を目がけて、レイピアの剣先を思い切り突いたのだ。

 これにより、剣は先へと進むことはできなくなり、弾かれた。

 原理としてはこのようになるが、今のラルフで理解しきれる事と言えば、「何が起きたか分からない」、ということだろう。

「まだ、戦います?」

 ラルフに言われた言葉を、そっくりそのまま、目を見開いて驚いているラルフに返すリーナ。

 静まり返っていたギャラリーから、歓声があがる。

 たった一撃を凌いだだけのはずだった。

 だとしても、最弱の騎士であったリーナが、最強の騎士と言われたラルフに勝る瞬間でもあった。

「み、見ましたか? ハイ……ル?」

「勝ったのを見たよな? じゃあ、うちの武器屋に資材を提供してくれ」

「っち、分かったよ。でも、あたしの願いも本気だからさ。前向きに考えて欲しい」

「……ああ」

 ミュエルとの賭けの話に夢中になっていたハイル。

 背中をちくりとした感覚に苛まれていることに気が付いていないようだ。

 数ミリ達したところで、悲鳴をあげる。

「いって!? な、何だよリーナ?」

「ハイル。資材とは?」

「え?」

「ハイル。資材とは?」

「ごめんなさい! いやさ、炭鉱に近い第十三地区なら、鉱石くらいいっぱいあるだろうなーって……すいませんでした!!」

 レイピアで思い切り突いてきたリーナ。

 後、二秒程遅れていたら、心臓が一突きされていたのではないか、そのくらいリーナの突きは早かった。

「よし、明日から修行開始だからな。頑張っていこうぜ!」

「いえ、まだ懺悔は済んでいません。ほら、行きますよ」

「ど、どこへ……?」

 震えるハイルに、リーナは告げるのだ。

「闘技場(満面の笑み)」

 次の日から、ハイルはしばらくの間、包帯を巻いて生活するようになった。


 ミュエルの苛々スイッチは相変わらずのようだ。

 子供の時に付けた名称を今でも覚えているなんて、と懐かしい思い出に浸るハイル。

 癖で逃げてきたが、多分、戻れば巻き添えになるはず。

 久しぶりに、訓練場を見て回ることにした。

「やっぱり、ボロボロだな。いつ改修するんだろ?」

 武器庫に入る。

 一応、武器屋の主人として見ておきたい場所ではある。

 中には、様々な武器屋が造った武器が並べられており、最新の物から古いものまで取り揃えてあった。

 状態が悪い物を見て、これは幾らになるだろうと考えるハイル。

 はっと我に返り、首をぶんぶんと横に振る。

「人様の物だしな。うんうん」

 自分に暗示をかけるように頷き、一本の剣の、柄に目が移る。

 人の名前が刻まれていた。

 以前にリーナが話していたことだが、騎士は、自分の持つ武器に自分の名を刻み、そして戦地へと赴くのだ。

 これは、冗談半分で書かれた物だろうか。

 冗談にしては、笑えなかった。

 この訓練場に居るのは、騎士団長を除けば見習いとも呼べる若き騎士達。

 そんな騎士達が戦地に向かい、早死する様を黙って見ていられる訳が無い。

 そう、それほどまでに、魔神という敵は圧倒的であるのだ。

 激しい戦いには発展していないが、この国が戦いの場になるのも時間の問題かもしれない。

 そうなれば、武器を造る場所さえ奪われてしまう。

 いや、まともに武器が造れる訳ではないが。

 愚痴をこぼしていると、扉が開かれる音が聞こえた。

 開いた主は、落ち着きを取り戻したミュエルである。

「あれ、リーナは?」

「……稽古に戻ってもらったけど」

 何かを言いたそうな、不満顔のミュエル。

 八年もの歳月が流れたのだ。変わらずに話ができる方が凄い。

 しかしハイルは、変わらない。

 ハイルだけが、何も変わっていない

「気にせずに話せよ。ミルが話さないなら、俺から交渉を持ちかけるぞ」

 露骨に煽りを入れるハイル。

 昔であれば、挑発するまでもなく話をしてくれたが、時間というのは友情にも影響してくる複雑な物らしい。

「ハイルは、本当に――変わらないな」

 言われなくても分かってる。ミュエルは一つ息をついて、口を開いた。

「騎士の道に戻る気は無いか?」

「悪い。俺は武器屋の主人だから、それはできない」

 話をするまでもなく、ミュエルが何を言いたいのか分かっていた。

 八年というブランクがあっても、同じ釜の飯を食べていた仲なのだ。そう簡単に切れる絆でも無い。

 だからこそ、はっきりさせておかなければならない。

「俺も、昔は騎士になりたかった。いや、今でもそうだな。外でうろうろしている魔神を滅ぼして、外に出たい。だけど、滅ぼすのはお前たちで、滅ぼすための武器を造るのが俺たちなんだ。この違いが分かるよな?」

「……交渉というのは?」

 無言からの、話の切り替え。

 返事が無いのは肯定の証拠と言われるが、逆に考えると認めていないわけだから否定としても受け取れてしまう。

 等と問答しても仕方ないため、今度はハイルから話を始める。

「資材だ。モンキー武器屋は壊滅的な資材不足に陥っている。おたくの騎士様のおかげでな」

 リーナを悪く言っているようで心が痛む。

 だが、これも死活問題だと思って、前向きに考えることにする。

「そ、そうだったの。リーナ、後で説教してあげないと……」

 半分位スイッチが押されているだろうか。

 まだ、完全に押させるわけにはいかないと、ハイルは続ける。

「でな、ただ資材を頂くのもどうかと思って、一つだけ提案があるんだ」

「無理なことはできないけど?」

 大丈夫、と手でミュエルを制し、ハイルは咳払いをする。

 ここまでくれば、もうひと押しだろう。

 指を一本立て、話し始めた。

「これからは、モンキー武器屋をひいきにして欲しい。ここに置いてある武器を見て気付いた。これじゃあ、練習にならないってな。本物の武器の重さはこんなものじゃないだろ? 奴ら、鉄をケチって簡単に造るもんだから、錆ができてるだろ? で、俺が造れば、そんな心配はいらない、と続くわけだ! 頂いた資材で最大限の努力をし、受注された物以外には絶対に資材を使わないと約束しよう。ここにある武器も、まだ使える物があるみたいだから、俺が使える物に直してやろう。……どうだ?」

 話し終わり、王様の演説に引けを取らない出来栄えだ、と誇らしげに頷くハイル。

 しばし悩んだ末、ミュエルも指を一本立てて、ある条件を提案した。

「この第十三地区で最弱の騎士は誰か知っているか?」

「リーナだろ?」

「じゃあ、最強は誰か知っているか?」

「知らん」

「よし、その最強をリーナが倒したら、お前の条件をのむことにし、承諾する。だが、リーナが最強に負けたら、お前は騎士になってもらう。どのみち、資材と金が無ければ、店を畳むしかあるまい」

 我ながら良い条件を提示したものだ、とこちらも誇らしげに頷いている。

 似た者同士であれば、似たり寄ったりな条件を出してしまうのだろうか。

 お互いが、お互いを気遣いあい、お互いが、得をする条件を提示するなんて。

 ハイルは一つも嘘を言っていなかった。

 本当に武器は軽かったし、名前を刻んだのだって、ここに居る騎士ではなく、武器屋側が行ったブラックユーモアであることにも気付いていた。

 対して、ミュエルも本当はハイルが騎士になりたいということを知っていた。だから、どうにかして騎士の道に戻って欲しくて出した条件だった。たとえリーナが勝ったとしても、ハイルの武器屋に貢献することが出来ると考えていた。

 これが、二人の絆が切っても切れない所以かもしれない。

昨日ぶりです。上雛平次です。


一章が終わる頃に、各話の解説的なものを後書きに挟もうかなと考えています。

キャラクターが増えてきますと、どのキャラが何をしているんだっけ、とプロットと見合わせしながら作業をしなければならないので、どこかにまとめる場所を作ろうと考えた末、後書きに書いてしまうのはどうでしょう? と思った次第です。


見るのが面倒な方は本文を見て頂くだけで構いませんので(後書きを見なければ分からないような作りには致しません)、終わる日が来るまで、末永くお楽しみください。

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