第三十九話 黒い光
水晶の元へと引き返す騎士一同。
リーナの、「水晶が、光ったような気がしました」、という言葉を聞き、もう一度だけ調べてみることになった。
ラルフとミュエルは再び、水晶の周りを調べ出すのに対し、リーナは真正面に立ち、手を表面に当てる。
黒い光は中から放たれていた。どうやら、二人には見えていないのか、光の方を見ようとせず、花の形を模した水晶の周囲を調べることに集中しているようだった。
(この光は、一体なんです……)
他の人には見えていないものが見えていると言うのは、あまり気分が良いものではない。まるで、自分が優位に立っているような錯覚をするかもしれないが、裏を返せば、変な人になってしまう。だから、今現在も見えているとは言えなかったリーナ。
冷たかった表面が、温かくなる。太陽の光とは異なる黒い光が光量を増して、顔を照らす。
本来であれば、光を目に受けると眩しいはずなのに、はっきりと視えるその光は、内側に居る人の影を強く照らし、形を作っていく。
丸くなるように、地面に寝転がる人の姿。腰まで伸びた、癖が強い銀色の髪。体型は女性のようで、身長はリーナと大差が無い。
その姿は、似ていた。
師匠と呼ぶべき、あの男に。
寒そうに震える体から伝わってくる思いが伝染したリーナは、そちら側に行かなければいけないような気がしていた。
――何もかもを受け入れ、自身を変容させる。全てを受け止められる体へと、心へと、変わっていく。むしろ、そうなったのだと考えることもできた。
同時に、水晶の形状も変わる。いや、硬化していた表面が軟化していると言った方が良い。
水しぶきを起こした水晶は、手を包み、腕を覆い、最後には、リーナの全身を取り込んだ。
話を聞き終えたハイル。一番に飛び出した言葉が、「嫌われていたわけでは無かったのか」、である。
アリシアは聞き逃さず、「当たり前ですわ。自分の子供を本気で嫌う親がいまして?」、と返す。
「そうだな。そう、だよな」
急に恥ずかしくなり、俯いてしまうハイル。両親は、嫌って離れていったわけではなく、むしろ自分たちを守るための判断であった事に、感謝しなくてはならない。
数十年が経った今、両親は生きてこの島にいる。父は、精神を汚染され、母は、北に居る。
まずは母に会いに行こう。
次の目的地を決めたハイルは、家を出る。
「夕飯時には、戻ってきてくださいね」
「おう。……あ、そうだ。あいつら、かなりの大食いだから、沢山作らないと足りないぞ」
「分かりましたわ」
アリシアの返事を聞き、背を向けたまま平手を振って、外に出たハイル。
その後ろで、アリシアが微笑んでいたことには気が付かなかった。
――月灯りが届かない森の中。
獣たちの産声が反響する。
マナが少ないせいなのか、力が弱まっているが、生えている木々や地面に所狭しと蠢く魔獣。
腹部の傷が、未だに痛む。自分は、痛みを感じる側ではなく、痛めつける側のはずだが、こんなにも快感であるなら、痛みを感じるのも悪くない。
鎖が解けなくて苦戦を強いられたが、つい先ほど粉砕することに成功したため、こちら側に戻ってくる事ができた。
嘲笑。
まだまだ、この力を使いこなせていない。
向こうに堕ちて一週間も経っていないはずなのに、こちら側に戻ってきた時には、既に十年も経っている事に最初は驚いた。けれど、すぐに思考は殺意へと移行される。
さて、あいつはどこにいるだろうか。まだ、武器造りなどという、人間らしい事をしているのだろうか。
首筋をなぞる。
ここに刻まれた銀の痣が全ての始まりであり、全てを狂わせて、終わらせた。
でも、後悔はしていない。
当然だ。『人間らしさ』と呼べるべきものを向こう側に行くのと引き換えにして捨てたのだから。
だとすると、この涙は何なのだろう。これだけは快感に変わらない。ずっと消えずに残り続ける。
気持ちが悪いものだ。あのまま、鎖を解かずに息絶えていれば、こんな思いをしなくて済んだのか。
考えても分からない。そういう小難しいことを考えるのは、あいつの仕事だ。
空に瞬く月を、黒い瘴気が飲み込む。
渦を巻いて現れる奈落から、銀髪の魔神が飛び出した。
昨日ぶりです。上雛平次です。
第四章は、主人公の心境の変化が著しく大きい章になると思われます。
その分、会話の数が減ってしまっているせいか、読みづらいかもしれません……。
では、また明日。




