第三十七話 後悔せし亡骸 前
この島に来て、まず目に止まったのが、眼前に迫った巨大な城。ミュエルとリーナとラルフの騎士三人は、城の中に入ろうとしていた。
いや、正しく言えば城だったもの、と表現すれば良いのだろうか。
東の国ができた当時は、この城も華やかなものであったらしい。
数千年よりも前の歴史の産物。王様が統治していた東の国は、魔神の襲来により一度、滅ぼされてしまう。けれど、長い年月を経て、今の東の国が完成されていったのだ。
ならば、どうして離れ小島に城が建てられていたのか。それは、元々この島が離れ小島では無かったことを意味している。
東には、城の跡地が二つある。この離れ小島に一つと、東の国内にもう一つある。そちらは、完全に形を失ってしまったが、この島の城は取り壊されることなく、劣化を続けている。
離れ小島ができた理由は、魔神が奈落を開いた場所が原因している。城と国を分断させるかのように、空間を抉りとって現れた奈落。結果的に城は島に取り残され、東の国は魔神の襲撃によって壊滅の一歩を辿ったのだった。
その城を現実に見たことが無かったミュエル。話に聞くだけで、そもそも存在しているのかすら不明確なそれを見て、感慨にふける。
リーナとラルフは、城の周囲に咲かれた美しい花々を見ていた。
「綺麗な花です」
リーナの言葉に頷いた騎士一同は、城の中へと入っていく。
武器を造り続ける父の後ろを通り過ぎるアリシア。家へと続く扉を開くと、ハイルを家の中に招く。
どうしようか、と少しだけ悩んだが、中に入ることにする。
二階建ての木製の家。アリシアの趣味なのか、中は花で作られた工芸品で彩られており、中でも、花びらだけで描かれた一枚の絵が際立っていた。
砂浜で、仲睦まじく走り回る四人の人間。ハイルには、そう見えた。
他には、様々な調理器具が置かれた料理場があるだけで、他に置いてあるものは、皿を置くための机と、椅子しかない。
アリシアは花瓶に水を汲み、取ってきた花の茎を数ミリ程切ると、水にいけた。その後、料理場に立つと、鼻歌交じりに料理を始めた。
「アリシア、さん。親父の容態は、どうなんですか?」
気になっていた質問をアリシアに投げかけたハイル。
一体、いつ頃からこの島に住み始めていたのかは分からない。けれど、聖職者によっては一瞬で精神汚染を治せる聖職者もいるため、万が一にアリシアが聖職者の一人であるのなら、回復の余地があってもおかしくはない。
ところが、アリシアは首を横に振ると、口を開いた。
「分かっていると思いますが、魔神の瘴気を浴びてしまった人間には、良くない事が起きますわ。始めに、精神を食いつぶされ、次に人格、最後に記憶までを狂わされる。あなたのお父さんは二つ目の、人格が無くなってしまっているから、侵食を止める事が出来ても、以前の状態に戻すことはできません」
申し訳なさそうに、自分の無力さを身に染みて実感しているアリシア。ハイルは慌てて謝る。
「俺こそ、何も知らずに質問しちゃってすいませんでした」、
そこで会話は無くなり、窓の外から見える父の姿を、ハイルは眺めていた。
――まさか、他の人に会える日が来るなんて。
汚らしい城の中を歩き回る騎士一同。
敷かれている赤いカーペッドは、天井が突き破られていたために、雨水を吸ってしまったのか、色が変色していた。
気持ちが悪い、湿った音がする足場を歩く。
しばらくは曲がりもせず、他の部屋に入る事無く進むが、巨大な扉の前で足は止められる。
流れ出す、異様な空気。
魔神の瘴気に近いものみたいだが、身体への被害は無いようだ。
そして、扉は一人でに開かれた。
昨日ぶりです。上雛平次です。
今回は、非常に文が少なくなっています。話数稼ぎだと思われてしまっているかもしれませんが、全ての話の投稿が終わった後、一章毎の話を一つにまとめようと考えています。
では、また明日。




