第三十話 (面倒な)聖剣
聖剣のお姉さんは、よく喋る。
お喋りな癖に話し終わるまでの時間が長いため、話が終わるまで待たなければならない。
しかし、それは時間の無駄であるため必要な情報だけ聞き出すと、
「あ、もういいです」
、と言って中断させるようにした。
その度に、見た目は鉱石であるため変化は分からないが、しょんぼりしていることが何となく分かる。
「また後でゆっくり聞きますので」
『本当ですかぁ』
喜びに身を震わせているのか、声に抑揚が出る。
感情の浮き沈みが激しい青銅の鉱石に対しリーナは、面倒です、とは口が裂けても言えない。
行くべき場所は分かった。
聖剣のお姉さんが言うには、盗人は鉱山にいるらしい。これから自分たちもそこに向かうとなると時間がかかってしまうため、ハイルたちを心配させないようにとメモ書きを残しておく。
さて、徒歩だと行きで三日と半日を費やし、車でも二十数時間を必要とする距離を瞬時に移動できたのはどうしてだろうか、とリーナは腕を組んで考える。
秘密の答えには、聖剣の鉱石が置かれていた部屋ではなくて、もう一つの部屋に置かれている物が原因していると聖剣のお姉さんは言う。
いや、答えだと言っているようなものだ。
魔法が扱えない人でも魔法が扱えるように、東はマナを吸収する永久機関を開発した。その取り入れたマナを使い、魔法が使えるようにしたのも東。
これで分かるだろうか。
工場に戻り、部屋へと入る。
無数のパイプが繋がれた、大人が二人くらい入れそうな程に大きい白い箱。周囲には、壁を通じて外へとコードのような物が箱から伸びてきていた。
リーナとラルフは箱に近付くと、聖剣のお姉さんがぽつりと呟いた。
『瞬間移動』
箱は、魔法を効率良く運用するための機械――転送装置であった。座標を指定することで、自分の行きたい場所に自由に移動することができる夢のような機械。けれど、本来なら座標を指定する工程を加えなければいけないはずなのに、聖剣のお姉さんは勝手に動作させてしまう。
すると、白い箱の中から風が溢れ出し、続いて白い靄が部屋を覆う。身を吹き飛ばすような突風と視界が見えなくなる恐怖に耐えながら、いつの間にか、自らが鉱山の頂上に立っていることなど、気付くわけも無かった。
「な、何が起きたのです?」
靄が晴れていくと、突き出た岩盤に、鉱山内に入るための巨大な通路、遠くには東の国と広い海。そこには、昨日ぶりの光景が眼前に広がっていた。
再び美しい景色が見れたことに対する感動か、瞬間移動ができる装置を作ってしまう東の技術に圧巻されているのか、感嘆の声が二人から漏れ、リーナに握られた聖剣のお姉さんが喋り始める。
『聖剣の鉱石である私にはぁ、マナを補給するための力は無いんですよぉ、だからぁ、他の物質が得たマナをぉ、自由に使うことがぁ……』
「あ、もういいです」
そこまで聞けば、後に何を説明されても納得しか出来ないだろう。必要なのは過程と結論なのだ、とリーナは心の中で思う。
ところが、余計な事を喋るな、という意味で聖剣のお姉さんは捉えてしまったらしく、押し黙ってしまう聖剣のお姉さん。
『ごめんなさい(です)』
ラルフとリーナが声を揃えて謝る。
あまりにもいじめ過ぎたのかもしれない、聖剣のお姉さんは少しだけ元気を取り戻してくれたようだが、まだ覇気は無い。
『……通路の奥にぃ、本体がありますぅ』
まだ続くのか、としばらく待つが、二言で話を終えた聖剣のお姉さん。
違和感を覚えながらも、二人と一個は暗い闇が広がる通路の中へと入っていった。
道中は何も問題無く進めた。
発光する鉱石に、道を示した標識が通路の中には置かれている。また、落石注意と書かれた看板も幾度と無く見ていたが、聖剣を取り戻すためにも、引き返すわけにはいかない。
そこで、思い出したかのようにリーナは、盗まれた時の状況を聞いてみた。
ラルフが言うには、ベッドで眠っていたところ、窓から入ってきた侵入者に鞘ごと強奪されたらしい。鞘を外すためには、腰を一周して結んでいる紐を外さなければいけないわけだが、犯人の手際の良さにリーナは感心する。
何故、体を一回転されているのに目を覚まさなかったのかと聞けば、体を回転された事が気付けない程に、自然だったという。
魔法でも使ったのかもしれない、落石注意の看板が再び通り過ぎ、リーナが上を見た時だった。
「避けて、です!」
響く声。
左右に避ける二人は、チェーンが回転するように金属が擦れる音と、地面を突き刺す鋭い鞭を視界に入れる。
更に、空中にはその鞭のようなものを振るう、黒いマントを羽織った男が飛んでいる。
滞空時間が異様に長いせいで分からなかったが、もう片方の手にも鞭が持たれており、天井に突き刺してぶら下がっている。
リーナとハイルの間に刺された鞭を引く。チェーンが回転し、手繰り寄せるかのように、鞭が縮んでいった。
東独自の精巧武器。魔法と武器を兼ね備えた魔法武器とは打って代わり、こちらは完全に知恵と技術が物を言う武器である。どんなに効率が悪かろうと、それが相手にとって致命的な一撃になり得る武器のことを、総じて精巧武器と呼んでいた。
男は空中にぶら下がりながら、二人に話しかける。
「死にたくなければ――このまま去れ」
短い黒髪に、鋭い目つき。体は細く、背が高い男は二人に脅しをかけるかのように威圧する。
対してラルフは、作業員が忘れたのか、ツルハシを握り、リーナはレイピアの剣先を天にいる男に向けて言うのだ。
「人の物を盗んで、偉そうな事を言わないで欲しいです!」
紛れもなく、正論だった。
昨日ぶりです。上雛平次です。
普段通りの適量に戻せたかと思います。物足りないかもしれませんが、今はこれが精一杯ですので、見るのは辛いかもしれませんが、見て頂けると嬉しいです。
では、また明日。