表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第一章 下克上とは緩やかに行うものである
3/64

第三話 結託

 ハイルには、大好きな姉がいた。

 優しくて、時には厳しくて、真面目な姉。

 そんな姉と平和に暮らすハイルの住む第十三地区に、魔獣の群れが入り込んだ。

 人に擬態し、住民を襲っていくそれは、まさに悪と称すべき物であった。

 こんな話を始めているのだから、察してもらえるだろう。

 姉は、魔獣に襲われた。

 ハイルは姉のおかげで難を逃れ、無謀にも姉は剣を持ち、魔獣を追って消えた。

 そして、帰ってくることは無かった。安否も確かめたわけではないが、魔獣を追って帰って来れる確率など、騎士でない限りは無いに等しい。

 それから、姉の仇を討つために、ハイルは騎士になるための修行を詰んだ。

 年にして、六歳の出来事である。

 子供の時のハイルに分かるはずもないことだが、武器屋を継ぐことは決まっていて、騎士になんてなれるはずがないのだ。

 なのにハイルは、修行だけは今の今まで欠かすことをしなかった。

 ――いつか、世界に存在する全ての魔神を滅ぼす。

 そう、誓った。


 リーナは、何と言ったら良いのか、という表情を浮かべて、口を閉じた。

 成り行きで全てを話してしまった。正直に言えば、今すぐこの場から離れたい。

 ハイルの心境は複雑である。

 騎士の失態により、姉は命を落とす羽目になったのだ。その騎士であるリーナは一言、「ごめんなさい」、と言った。

 そもそも、悪いのはここにいるリーナではない。それにハイル自身、十数年もの間、騎士を憎み続けることなどしなかった。

 ただ、同じ惨劇が起きるような事態には、ならないで欲しい。

「そういうことだから」

 ショートソードを腰にかけた鞘にしまうと、ハイルは工場から出て行こうとする。

 しかし、リーナは立ちはだかるように、前に立つ。

 リーナの青い瞳が、ハイルの黒い瞳を捉えて離さない。

「――良いですよ。私でよろしければ」

「えっと、え?」

 胸を張るリーナに対し、困惑しているハイルは首を傾げる。

 続けて、レイピアの柄をハイルに向けた。

 何のことかと思えば、とハイルは笑顔をリーナに向ける。

「騎士の誓いです。このモンキー武器屋を世界一の武器屋にします」

「……なら、俺は第十三地区最弱の騎士を世界一の騎士にしてみせる」

 二人の力強い頷き。

 同時に、ハイルはリーナが向けたレイピアの柄を掴み、リーナはハイルの瞳を見つめて、互いに誓いを立てるのだった。


 日が完全に上りきり、昼を過ぎてしまった頃。

 第十三地区訓練場の前に、一人の男と一人の少女が立っていた。

 ハイルとリーナである。

 道中、武器屋と騎士が肩を揃えて歩いているぞ、などと囁かれていたが、もう陰口にも慣れてしまった。

「そう言えば、騎士団長の名前は?」

「ミュエル・ガーランド様です」

 リーナの答えに鼻を鳴らしたハイルは、訓練場の中へと極自然にずかずかと踏み入っていく。

 中まで入らなくて良いのに、と叫びながら、リーナはハイルの背を追った。

「おーい、ミルはいますかー?」

 聞こえ易いように、両手を口周りにつけて、大声をあげるハイル。

 ハイルの行動に、リーナの表情は真っ青である。

 騎士団長と言えば、魔獣も悲鳴をあげて逃亡し、魔神とも互角に渡り合える人物であることを意味する階級だ。それを、愛称で呼ぶことなど、必死千万だ。

 その時。

 二メートルは優に超える巨大なハンマーが、風を裂き、滑空してきたのだ。

「……だ、誰がミルじゃぁー!」

 ハンマーが起こした地響きと共に、女のけたたましい奇声が轟く。

 声の主は、銀色の鎧を纏い、所々から垣間見える鍛え上げられた肉体を持ち、赤色の髪を後ろで結う少女が飛ぶように、ハイルに殴りかかる。

 これが、ハイルの旧友であり、幼馴染――ミュエル・ガーランド。

 略してミルと、ハイルは呼んでいた。

 会うのは、訓練場を離れて以来だから、八年くらいだろうか。

「このっ! 勝手に修行から逃げて、許さんからな!!」

 拳をかわしたハイルを尻目に、ミュエルはハンマーの落下地点に着地すると、軽々しくハンマーを持ち上げて、振り下ろした。

 再び避ける。

「避けるな! ハイル!!」

「いや、避けなきゃ原型留められてないからさ。危ないよ、ミル」

「ミ、ミルって呼ぶな!」

 ハイルとミュエルの争いに、呆然と眺めるだけのリーナは、ミュエルに声をかけた。

「ミュエル様! お止めください! ハイルは、私の剣の先生なのです!」

 ハンマーの動きが止まり、ゆっくりと地面に下ろされる。

 リーナはほっと一息つき、ハイルにも説明をしてもらおうと、姿を探す。

 けれど、ハイルの姿はどこにも無かった。

 続けて、冷や汗がリーナの頬を伝う。

「リーナー? どういうことなのかなー? 剣のせんせー? へぇ、ほぉ?」

 ミュエルの周囲に何か、気迫のようなものが現れ、鬼のような形相でリーナの方を見る。

 スイッチが入ってしまう瞬間まで、忘れていた。

 このミュエルは、一度スイッチが入ってしまうと、鬱陶しい言動ばかりをするようになるのだ。

 一番大きい事件では、王国が奇襲を受けてしまい、原因が第十三地区の警備が甘かったと知るとミュエル自身が、睡眠をとることもなく二十四時間の警備に勤めていたという。それも、王様が気付いたから良かったものの、誰にも気付かれなければ、そのまま立ち往生するところだったはずだ。

 要は、自分に素直なのだ。

「い、いえ、ハイルは私に剣を造ってくださって、それで……」

「へぇ? 造ってもらったら、剣の先生になる必要があるんだー、なるほどねー」

 普段は温厚のリーナでも、ここまでむかつく言動をするミュエルに、苛立ちを募らせていくばかり。

 当事者であるハイルは消えてしまったし、ミュエルが元の状態に戻るまで、このまま相手をしなければいけないのか、とリーナは消えたハイルを恨むのだった。

昨日ぶりです。上雛平次です。


後書きというのも、書く事があまり無いものでして、とりあえず現在はここまでとさせて頂きます。

また次回に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ