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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第三章 騎士団長と変わってしまった東の国
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第二十八話 似た者同士な兄妹

 東の国に戻ってきた。

 遠い鉱山からの行き帰り、リフトでの戦いと、アズマとの出会いを考えれば、日が傾くのも当然だった。

 鉱山とは逆方向に位置する太陽。逆とはつまり、人間たちが住む大陸の外、海の方を指す。

 東に来た事は無いため、海を見ることが初めてであるだけに、その大きさは遠いながらも計り知れないものである。あれが、ほぼ塩で出来ているのかと思うと口の中が塩っぱくなった。

 消えゆく太陽の光が波に反射し、揺れている。この大陸が地上で最も大きく、後は獣人たちが住む大陸が南の奥に、他の大陸は人が住んでいるかどうかも分からない小島ばかりである。

「おっと、お出迎えか」

 ガーランド武器屋に戻り、車庫に車をいれると、前にミュエルが立っていることに気付く。何故かハンマーを構え、今にも振り下ろそうとするミュエルの姿。

 そして、振り下ろされた。

 黒いハンマーはボンネットからヘッドライトを砕き、フロントバンパに到達して止まった。多分、前から見れば無残な光景が広がっていることだろう。車庫内は、車から飛び散った破片でいっぱいだった。

 今日で二台も壊されているスタット。ハイルは黙って肩に手を置こうとすると、叩かれた。

「俺のよりも酷いな」

「いや、お前の場合は原型が無いからな」

 自分の罪を軽くしようという試みは失敗したようだ。舌を打つハイルは車を降り、スタットも続いて降りた。

 ミュエルはと言えば、鬼のような形相で再びハンマーを頭上に振り上げて、振り下ろそうとしていた。

「ちょっと待てって」

「ごめん、ハイルは関係無いからさ」

 普段からの強い口調とは違い、今は声がか細い。まるで、期待していた何かが思わぬ方向に行ってしまったかのような、不信感を抱いているようだ。

 ハイルでは無いとすると、スタットしかいない。

 騙された側であるハイルだが、騎士であるミュエルに対し、スタットはただの武器屋、敵うはずがない。

 だから、剣を引き抜いてしまったことを許して欲しい。

「なっ!?」

 驚きで目を見開くミュエル。黒いハンマーは軌道をそらされ、震えて動けずにいるスタットの右隣に落ちる。

 両手で振られたハイルの剣は、ミュエルのハンマーが振り下ろされる時に横から、力が重なるように打撃面を狙って振られた。ミュエル側も想定されていなかったらしく、加わっている力は重力だけで、ミュエル自身はただ持ち上げているだけ。真っ直ぐに芯を捉えたハイルの剣とミュエルのハンマーは打ち消し合うように、力が横へと逸れたのだ。

 まとめてしまうと、直線上に障害物があれば、それを迂回して前に進むしかない話。最も、ミュエルが本気で振っていたとしたら、ハイルの剣も無傷では済まなかっただろう。

「で、ミルはどうしてこんなことを?」

 剣を抜いて、構えたままミュエルに尋ねる。

 表情と動作が噛み合っていないミュエルは、兄を指して告げる。

「兄貴はね、一週間に一回しか武器屋を開いていないんだって。家が大変だってことは知っているはずなのに、どうして?」

 自分の話であるはずなのに、黙っているスタット。

 言えるわけもない、魔神を倒すための研究施設に入り浸っているなんて。

 でもそれは、実の妹であるミュエルにさえ、言ってはいけないことなのだろうか。

「なぁ、スタット」

「黙れ」

 守ったはずのハイルに、スタットは冷たく言い放つ。

 まるで、これは家族の問題だと言わんばかりに。

「じゃあ、先に戻る」

 剣を納めたハイルは、ガーランド武器屋の中に入っていく。

 残されたミュエルとスタットは、車庫を出て、外に出る。

「俺はな、別に武器を造ることが嫌なわけじゃない」

 肩を並べて歩きながら、スタットは口を開く。

 神妙な顔つきで、「どうして」、とミュエルが聞いたスタットは笑っていたのだ。

 本気で考えていた事なのに、自分のせいだと思っていたのに、当てが外れたミュエルは、スタットが次に何を言おうとしているのか、分からなかった。

「武器を造り続けても、魔神は今も尚、命を弄んでいる。だから、終わらせなくちゃならないんだ。俺は、そのために頑張っている」

 何を、が欠落した話に、ミュエルも笑う。

 隠し事をするのは、兄も妹も、一緒なのだと。

 そして、何かを守るために頑張ることも、一緒なのだと。


「リーナ、ラルフ?」

 ガーランド武器屋の中を隈なく探すハイル。

 一日中家の中に居るとも考え難いが、帰ってきていても良い時間だろう。

 部屋を一通り見終えると、ハイルは最初に起きた部屋へと入る。

 窓が開かれ、カーテンが舞う以外に変化は見られない。

 ところが、一つだけ違和感を見つけたのだ。

 ベッドの隣に置かれた机。その上に、一枚の紙が置かれている。

「これは……」

 書かれていたのは、『ラルフと、聖剣のお姉さんと一緒に、鉱山に行ってきます。リーナより』という文字だった。


 第三章 END

昨日ぶりです。上雛平次です。


この三章は短めになっていまして、次からは三.五章として話を進めていきたいと思います。時間軸は同じですが、登場人物が異なるため、このような処置をとりました。登場人物の紹介は三.五章でまとめて行おうと考えています。


では、また明日。

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