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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第三章 騎士団長と変わってしまった東の国
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第二十七話 皆の技術

 目的地に着いたのか、下降を止めるリフト。

 前には鉄製の扉があり、駆動音と共に開いていく。停止した計二十一の塊に当てられていた光は、扉の方に向けられている。

 この扉の奥には何があるのか、疑問であった。

 しかし、今のハイルには、手の甲から手首を通り腕、いや、肘へと伸びている銀の痣の方が重大であった。つまり、初期の状態より痣の量が増してきているのだ。

 いつ、これが全身を覆うのか分からない。そもそも、痣を気にかけることが出来なくなる時が来るかもしれない。

 怖かった。

 自分が、自分で無くなってしまうような気がして。

 相談するべきなのかもしれない。

 みんなに。

「ようこそ、魔神的な君」

 扉が完全に開かれると、光の先に立つ人の姿が見えた。

 武器屋には到底見えない白衣を着た女。年齢は自分たちよりも遥かに上に見える。整えていないのか、巻き毛のような緑色の髪、縁が赤い赤色の眼鏡をかけている女は手を広げると、「さぁ、飛び込んでおいで」、などと気色の悪い言葉を発してくる。

 一応、歓迎の言葉として受け取り、「頭は大丈夫か?」、と返事をしておく。

 呆気にとられるハイルの後ろに、落下してきた車が火を周囲に撒き散らすと爆発した。その爆煙の中から、スタットが飛び出すように現れる。

「ちょ、後一歩で死ぬところだぞ。車も爆破されたし!」

「こっちは半歩でも死んでいたね。命は一つしかないぞ」

 怒鳴るスタットに、明確な殺意を向けるハイル。女はやれやれと頭を抱えながら、手を叩く。

 睨み合う二人が女の方を向くと、女は付いて来いと腕を振った。

 素直に従うスタットに対し、従う義理は無いと言わんばかりに、ハイルはその場に居た塊の制御を奪おうとする。

「あ、無駄だから。こっちだって伊達に研究者をしていない。君は、彼らが魔法を使った途端に血を使わなくなり、機能を奪った。その瞬間も、モニターで見ていたから間違いないよ。だから、マナを供給するためのバイパスを切らせて、燃料による供給に切り替えたのさ。まぁ、コスパは悪いけど」

 途中から何を言っているのかさっぱり分からなかったが、大体合っている。

 面倒事に巻き込まれたと溜め息をつきながらも、自ら動いて戦う武器を造れる技術者に会ってみたいと思っていた。

 扉の方に向けて歩き出すと、女は嬉しそうに道を戻っていく。

 そこで、思い出されたかのように自己紹介を始めた。

「私の名前はアズマ・ランドルフ。アズアズって呼んでくれても良い」

 会釈はしておくが、ニックネームの部分は無視したハイル。

 扉をくぐり、狭い廊下を歩く。中は妙に涼しく、無数に伸びる様々な色の線が床を埋めている。壁の作りはリフトと同じらしく、鉄でコーティングされ、上には薄明かりの街灯が間隔を空けて設置されている。

 鉱山の中にどうしてこのような設備を作ったのか。聞いてみると、アズマは意外にも口を割った。

 話されたのは次の通り。

 まず、ハイルが魔神であることをこの地下施設に居る者全てが知っていること。それを教えたのはスタットであることだ。

 スタットを見ると、目線を逸らされた。悪いことをした、という気は微塵もないわけでは無いらしい。

「でね。君を使って武器のテストをしようと考えたのさ」

 名案だと言わんばかりに慎ましげな胸を張るアズマ。

 あの塊は、対魔神用の武器だったらしい。全く相手にならなかった気がしていたハイル。

「十点かな。あれで魔神にかすり傷でもつけられれば奇跡じゃないかな?」

 挑発混じりの物言い。ハイルの、あまりにも辛口の評価に、アズマはむっと頬を膨らませた。

 そして、女の足が止まるまで延々と、塊の開発秘話を聞かされる羽目になった。


 普段の自分とは違う、妙に喧嘩腰であった喋りに、歩きながら後悔を覚えるハイル。

 あの塊の性能や戦法は、魔物や魔獣であれば難なく倒せるだろう。だとすれば、十点では無く九十点と言う方が正解だ。

 ただ、あれが曲がりなりにも魔神を倒すための武器であるなら、足りない。だからハイルは、協力したいと考えていた。

 自分(魔神)を倒すための武器を完成させるために、協力したい、と。


 工場とはかけ離れたものが視界に広がっている。

 扉を抜けると、白い空間に出る。広い部屋を囲む壁の前には、鉄製の箱が並べられ、数字を表示させたり、文字を写すものもあった。近くに行こうとすると、透明の壁が遮る。どうやら、入るためには何らかの工程を加えなければいけないらしい。

 後で見るとして、アズマに付いて行くと、ドアが開く音がする。アズマは何もしていないのに、不思議である。

 聞くには、東の武器屋と北の魔法使いの技術が合わさって生まれたこの施設。半年前の北に落ちた魔神によって、国民の半数はマナを扱うことが出来ない状態になってしまった。残りは、西と北に生き延びたらしいが、事実だったらしい。

「で、君はどう思う」

「何が?」

 アズマは急に止まると、周囲で話をしながら作業に勤しむ姿を指して尋ねた。

 質問の意味が分からないハイル。代わりに、スタットが説明しようと前に出て行こうとするが、アズマに遮られる。

「この、他の国の人間たちが一つのことのために協力し合う姿を見て、さ」

 楽しそうとは到底言えない光景。目的が違えば楽しそうに見えたのかもしれない。けれど、間違っているとも言えないのだ。

 集まった目的は、人の命を救うため。

 それだけで、十分な目的である。

 だから、ハイルは答える。

「まだ、俺がここに来た目的を果たせていない。この東の国には、聖剣を精製できる者が居ると聞いた。俺が完成に協力するのはそれからだ」

 交換条件。

 協力したいと思うが、自分がこの場所に来た目的を達成することの方がハイルには大事だった。

 待っている者たちも、居るのだ。

「聖剣? ……スタット、君の方が詳しいのでは?」

「いや、でもな」

 ハイルの言葉に、アズマはスタットの方を見て聞いていたが、何故か渋るスタット。渋ると言ったが、妙に嫌そうな顔をしているところが気になる。

 何か問題があるのかもしれない。

「あいつは面倒だからな」

「頼む、会わせてくれ」

 頭を下げるハイル。ここで駄目と言われたら、来た意味が無くなってしまう。

 その誠意を感じ取ったのか、スタットは頷いた。

「分かった。でも、後悔するなよ」

 重々承知している、と答えたハイルであったが、知らないからな、と返すスタットの表情に、翳りがあったことに気付けなかった。

昨日ぶりです。上雛平次です。


やっと風邪が完治したのか、体の調子が良いです。寝相が悪いのか、毛布を蹴飛ばしてしまう癖があるんですよね。


誤字脱字、誤った表現がありましたら、ご報告をお願いします。


では、また。

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