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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第三章 騎士団長と変わってしまった東の国
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第二十五話 振り返り、解く

 砂煙が見えなくなると、スタットの運転する車は可動リフトの中に入る。

 すると、上がるはずだったリフトは重力に従うように下降する。よく見れば、周りには他の車両や人は無く、スタットの車しか無い。

 どうして下に移動しているのかと聞くと、「試作の武器を造る工場に案内する」、と答えるスタット。

 地下に作られた工場。鉱山の下で、密かに武器を造る武器屋たち。

 浮かんだ言葉に疑問を投げかけるとすれば、どうして、人目に付かない場所で作業をしているのか、だろう。

 考えられることは、人には知られてはいけないことをしているから。

 しかし、そうなるとハイルを連れて来た理由が何か分からない。

「よし、そろそろだな」

「何が?」

 可動リフトを動かすためのベルトが止まり、スタットの車が後進する。

 まるで、今さっきまでいた中央に、何かが落ちてくることが分かっていたかのように。

 衝撃。リフトが今にも落ちてしまいそうな程に強い重力を受ける。

 黒い塊の落下が原因だった。街灯が弱いせいか、姿を確認しきれないが、何かが中央部分にいて、徐々に大きくなっていくことが分かる。

 数メートル地点に備え付けられた街灯を隠す程に巨大化したその黒い塊は――向かってきた。

 真っ直ぐに、スタットの車を目がけて。

「じゃあな、ハイル」

 スタットは、ハンドルのレバーを調節して下げると、隠されていたかのように備え付けられたボタンを押す。黒い塊が跳躍した瞬間、スタットの車、厳密には車のタイヤから火が吹き出して上昇していった。

 どうして暗い中、ハイルがそれを理解できたかと言えば。

「え」

 ハイルの座っていた座席は今も尚、リフトの上に残っていたのだ。

 スタットが押したのは、座席の切り離しと、車の制御機構を変えるものだった。つまり、普段は魔法による制御をしているが、東独自の機械制御にも移行できる。

 滞空時間が異様に長いせいか、落下地点を辛うじて予測したハイルは座席から立ち上がると、黒い塊から離れる。

「おーい! これは、どういうことなんだー!」

 声を張り上げるハイル。けれど、スタットは既に、タイヤから吹き出す火が見えない高さまで上ってしまっていた。

 再び、黒い塊が落下してくる。先から、跳躍し、落下するという一連の動作しかしていないような気がする。そもそも、どうやって跳躍しているのかすら分からない。

 身の危険を感じる状況に思考していると、可動リフトが再び下降を開始する。また、薄明かりだった街灯が急に強い光を放ち始めたせいで、目が眩む。

「あれが、武器なのか。いや、あんなのは、武器じゃない」

 自分には到底理解できないものが目の前にいた。

 鉄の鎧を纏った、巨大な人型の物体。図体は全体的に横に広く、両腕と肩に付けられた計四機の射出機が物々しさを表している。その立ち姿は確かな人型であった。

 だが、頭部には目が付いていない。見る限り、その部分は空洞だった。

 続いて、塊は腕を滑らかに動かすと、石を撃つ。

「!」

 横に避けて、飛んできた巨大な石の軌道を見ていた。

 見ていて、目を離さなかったはずなのに、石は壁に吸い込まれるように消えていた。

 再び、射出機から撃たれた石が風を裂いてハイルに向かう。

 意味が分からない状況。

 戦いたいと、疼いて止まない銀の痣。

 甲から伸びたそれは、気付けば顔にまで到達していた。もうすぐ、全身を覆うことだろう。

 体に流れる魔神の血が、『あれを壊せ』、と囁く。

 だとしても、意思を強く保たなければならない。

 自分は人間であると、自分に語りかける。

「よし」

 腰からバスターソードを引き抜く。スタットに車に乗れと言われた時、置いていこうかと悩んだ末、持っていくことを決めたハイル。その選択は間違っていなかった。

 そして、剣の刃に自分の右腕を当てて、切る。

 銀の痣を腕から流れる血が隠す。深く切りすぎたせいか、流れる血の量が多い気がするが、あれを相手にするとしたら、少ないくらいかもしれない。

 血は手を伝い、握られた剣から地面へと落ちていく。そのまま、何もいない空中へと、剣を振ることで血を撒いた。

 シエルとの戦い以来、使っていなかった魔神の力。心臓が異常なまでに脈動し、気分が高まる。その状態が心地良くて、取り込まれそうになるが、取り込まれるわけにはいかない。取り込まれたら、シエルの二の舞になる。

 飛んできた石。剣を振るい、血を前に放つと、先に空中を漂わせた血が周囲のマナを取り込み形を造る。

 一枚の壁がハイルの前に落ち、石を受け止めた。

 次は何をしてくるのだろうかと、血からマナを抜き、壁を無くす。石が落ちる音がしたが、肝心の黒い塊がいなくなっている。

 ハイルは、大事な事を忘れていた。

 ここが、あれの製造場所であることを。

 捉えられる範囲で二十体。頭上から、射出機以外の武器を付けた物体が次々に落下し、ハイルに向かって攻撃を行う。

 危うい状況のはずなのに、高揚を隠せなかった。


 訓練場に通う日々。

 そこに、ミュエルという女の子が加わった。

 朝、シエルがハイルを起こし、モンキー武器屋の前でミュエルが来るのを待つ。この流れが、数ヶ月くらい続いた頃だった。

 その日は、シエルに用があり、ミュエルと二人で訓練場に向かう予定であった。けれど、何時間待っても、ミュエルは来ない。

 中に入り、ミュエルが来るまでお爺さんの工場で待たせてもらおうとした時。

 声が聞こえた。

 お爺さんと、ミュエルの父。

 また言い争いか、ハイルは溜め息混じりに工場に入ろうとした足を止める。

「ミルが、こちらに住みたいと言っているんだ」

 今日の工場は、本当に冷えている。

 ハイルは盗み聞くように扉の裏に立ち、耳を密着させる。

「なんじゃ、良いことじゃないか」

「だけど、東には家がある。女の子一人で、中央に住まわせるのはどうかと思ってな」

 ミュエルの父は不安そうな声でお爺さんに尋ねる。それから、母親は別に住まわせても良いと言っていたと続けた。

 お爺さんは唸りながら、思い出したかのように答えた。

「んん。確か、ミルちゃんは騎士になりたいと言っていると聞いたぞい。なら、騎士寮に入れるんじゃないかのう」

 ミュエルが、東の出身。騎士になりたいという話は何度も聞いていたが、中央の出身だと思っていただけに、内緒事をされていたようで、複雑な心境になるハイル。

 ――それが、今日の今日までミュエルが口にしていないことは、明確な事実だった。

昨日ぶりです。上雛平次です。


実は、来週で投稿を始めてから一ヶ月になります。一週間前祝いで、自分に拍手を送っておきます。


などと無駄な話をする前に、誤字脱字、文章の中に誤った表現がありましたらご報告をお願いします。


では、また明日。

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