表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第三章 騎士団長と変わってしまった東の国
23/64

第二十三話 振り返り、知る

 出会いはいつで、どこから始まったのだろうか。

 スタットの運転する車の中でハイルは、ミュエルと出会った遠い日のことを思い出していた――。


 ――お爺さんは、暑い工場に一日中入り浸っていた。

 そのせいもあり、昔の話が聞けるのは夜ばかり。仕事終わりの汗まみれで、手にまめばかりを増やした大きな手で頭を撫でてもらったときは、何故か泣いてしまったことを覚えている。

 しかし、その日のお爺さんは違っていた。

 朝。

 ハイルは姉――シエルに起こされ、お爺さんの工場に向かう。

 何の用か分からなかった。いつものように訓練場に行き、シエルと共に修行をするつもりだったから。

 事情を聞くが、シエルも知らないと答える。

 早く済ませて訓練場に行こう。そう言い合ったとき、違和感に気づく。

 今日の工場は、冷えていた。

「だからな、ガーランドのように新しい物にほいほい手を出していたら、身が保たんわ」

「ふん。だから、モンキーはモンキーで、モンキーなんだよ」

 いや、完全に冷えているわけではない。人同士の言い争いは、今にも殴り合いに発展しそうなほどに熱い。

 そこへ、止めるようにシエルと、隅っこにいた女の子が出てくる。

 ホットパンツにシャツと、簡素なシエルの服装に対して女の子の方は、白いワンピースと腰に巻きつけたリボンが際立つ。

 まるで、この国の王女を模しているかのように綺麗だった。

「モンキー、モンキーって、お前さんはモンキーしか言えんのか!?」

 怒鳴っている方は、ハイルのお爺さん。普段は温厚であるが、頭に血が上っている時は手の付けようが無い程に荒々しい口調になる。

 呆然と立ち尽くしているハイルに、お爺さんは気が付く。だが、再び男に向かっていこうとしたため、流石にシエルが止める。

「少し、大人になろうね?」

 威圧。

 子供の戯言かもしれないが、シエルのそれは違う。

 当時から、姉の迫力は凄まじいものだった。模擬戦でも、姉の気迫に抵抗できなければ、まず剣を抜くことすらできないと巷で噂になっている。

 まぁ、事実であるが。

『はい』

 二人は口を揃えて返事をすると、シエルのお叱りを静かに受けていた。

 ところで、もう一人の男は誰なのだろうか。

 お爺さんと似たような作業服を着ており、バンダナのように頭にタオルを巻く男は、どうして子供に怒られているのだろうか、と肩を落としている。

 蚊帳の外になっているハイルに、もう一人の、蚊帳の外に出されていた女の子が話しかける。

「お名前は?」

 恥ずかしそうに体を揺らして、勇気を振り絞って話したのか、声がか細くて聞き取れなかったハイルは、思わず聞き返してしまう。

「何?」

「だ、だからぁ、な、名前……」

 余計な言葉が多すぎるためだろう。やはり聞き取ることができなかった。

 なので、もう一度聞き返してみる。

 そこで、何かが切れる音がした。

「耳、聖職者様に診てもらったほうがいいね。呪われているかもしれないから」

 恥ずかしがっていた姿はどこかに消え、姉に負けない気迫を放つ女の子はハイルの腕を掴むなり、引っ張って行く。

 むしろ、切れる音では無く、押される音かもしれないと、この時のハイルは考えていた。

 

 ――石を踏んだのか、車が勢い良く跳ね上がると、ハイルは意識を戻した。

「それでな。あの機械、名前を魔力式武器精製機械マジックマニュファクチュアと呼ぶんだが、あれを中央へ持ち込もうと計画が練られていてな。実施段階になったら、モンキー武器屋を最初の利用者ということで、中央のどこの武器屋よりも早く運び入れてやるよ」

 得意気な顔をしたスタット。それにハイルは、面倒くさそうに言うのだ。

「いや、大丈夫だ。武器の製造くらい、自分の手でやる」

 完全に断ったハイルは無言になったスタットが、運転席でどのような顔をしているのか見たかった。

 とは言ってみたものの、少しだけ感動している。紙を入れるだけで武器が造れるなど、本当に夢のような話だ。それがまさか、現実となるなんて、と考えてすらいなかった出来事に、ハイルは興奮を隠しきれない。

 それを見抜いていたのか、スタットは続ける。

「聖剣を、使えるようにしたいんだって?」

「そう。でも、この国は武器屋を見かけないな。俺、まだガーランド武器屋しか見てないぞ」

 車で国を出るまでは町中を疾走していたが、シャッターが降ろされた家々があるだけで、武器屋や道具屋など、中央に行けばすぐ見つかるような店も無い。田舎というわけでも無いとすると、他に原因が分からないハイル。

 その疑問に、スタットは一言で答えた。

「儲からないから、だろうな」

 悲しそうに答えるスタットに、ハイルは何も言う事ができなくなる。

 確かに、利益が出なければ続けたって意味が無いだろう。しかし、そこに自分の目指したいものがあるのであれば、続けるべきでは無いだろうか。

 喉から出たがっている言葉も、今は飲み込むしかないのだ。

 この世界の現状に嫌気がさしながら、ハイルは頭上に瞬く太陽の心地良い光から感じ取る幸せと天秤をかけていた。。

昨日ぶりです。上雛平次です。


遅れまして申し訳ありませんでした。作者、昨日の夜から風邪を患ってしまったらしく、今日の午後まで療養していました。

そのせいで、という言い訳がましい事を言ってしまう自分が情けなく感じます。


とにかく、一日一回の更新。この目標は何としてでも達成致しますので、時間は遅くなるかもしれませんが、ご観覧をお願いします。


また、誤字脱字、誤った表現がありましたら、ご報告を宜しくお願いします。


では、また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ