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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第三章 騎士団長と変わってしまった東の国
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第二十二話 揺らぐ思い

 無音だ。

 東で、こんなにも静かな朝を満喫したのは初めてだ。

 朝から、工場で武具を造る音や機械のエンジン音。十年前は鳴り響いていたのに、今は無いことに違和感を覚える。

 唯一変わらなかったものと言えば、我が家にかけられた『ガーランド武器屋』という看板だけである。

 家の中も、外装も、大きく変わった。まず、部屋が多くなったことが一つだ。以前は、兄と一緒の部屋で生活をしていた気がするが、今は家族一人一人に部屋が与えられている。まだ行っていないが、客間も追加で作ったらしい。

 殆ど、東の国の殆どが変わってしまっていた。ミュエルは、何も言わずに朝から出かけていった兄に呆れを感じながら、散歩と称して町並みを眺めていた。

 子供の頃に通ったお菓子屋さんが、今はもう店仕舞いして、道具屋を始めたらしい。当時は、扉を開いておくとすぐに店内が埃まみれになっていたことを思い出す。あれから随分、成長したものだと改めて実感する。

 とりあえず、入店してみる。

「いらっしゃい!」

 茶色い髪で右サイドに髪を垂らす少女は、来店したことが嬉しかったのか、とても笑顔だ。

 やはり、お婆さんでは無い。あれから十年も経つのだ。経営者が変わっていたとしても不思議ではない。

「お婆さんはどこに?」

「え、あのー……」

 言いづらそうにする少女。

 それで、全てが分かったミュエルは、側に置いてあった地図を持ち、少女に渡す。

「これ、下さい」

「はい!」

 お金は、兄から少しだけ貰った。別に使い道など無かったが、貰ってくれ、と言うのだから貰うしか無い。

 店を出て、入口すぐのベンチに座る。そして、地図を開いた。

 見れば、町の構造まで変わっていた。東には、中央国と違って城は無く、変わりに、各地区の長がその地区をまとめる王様のような役割を帯びていた。

 他の国から仕事が渡ってくれば、全地区の地区長が集まり、会議を開く。

 会議では、どの地区が効率良く仕事ができるのかを話し合われて、他の地区はメインの地区を補佐できるように、サブとして仕事を行うのだ。

 みんなが一致団結して仕事を行う。ミュエルは東の匂いや音は嫌いだったが、民同士の強い絆を感じていた。

 今は、悲惨なものになっているらしい。

 長を決める制度が無くなり、各々の工場で仕事を取ってこなければいけないのだ。自由を求める民によって改正されたらしいが、仕事が回ってこなければ利益が得られないわけで、生活に苦しむ人々が出ることは必然だった。

 それが、生活に魔法を取り入れた最大の理由になった。

 魔法があれば、食べ物にも、生活にも苦労は無い。希少価値とされてきた魔法が、東の国に行けば当たり前のように手に入るのだ。人々は技術提供するだけで、利益が出てくる。

「……変わったね。この国は」

「おお、あんたもそう思うかい?」

 一人でに呟いた言葉を聞かれてしまったらしい。若いとは言えない男が、ミュエルの方を向き、騎士の姿であることを確認する。

「あんたは、東の出?」

「そう。ガーランド武器屋って知っている?」

 ガーランド。男はその名前を聞くなり、怒鳴り始めた。

「お前、あの家の子供か? なら、お父さんにも言っておいてくれ、お前の家の長男は馬鹿だってな!」

 唾を吐き捨て、男は離れていく。

 しかし、ミュエルの投げたハンマーが男の前に落ちて、道を遮った。

「兄貴を侮辱しないで。それより、どうして馬鹿なのか説明して欲しいね」

 兄貴は馬鹿である。それは、最も兄に近い場所で生活していたミュエルだから分かる話であり、他人に言われるのは無性に腹が立つ。

 スイッチはとっくに入っており、ミュエルの現在の状態がどうなっているのかを知らない男は震え上がり、口を開いた。

「魔法抑制派っての、知っているか?」

「何それ?」

 首を傾げるミュエルに、男は親切に説明してくれた。

 今、この東の国では二つの派閥に分かれている。

 それが、『魔法推進派』と『魔法抑制派』。魔法を使い、魔法を極めなければならないと訴えている派閥が推進派。魔法を使うのは良い、でも、東は東の文化を大切にするべきだと訴えている派閥が抑制派であった。

 兄は推進派の代表として、抑制派に圧力を加えているらしい。抑制派は、二、三地区の民でしか構成されていないが、推進派は十数地区以上。もう、結果は見えているというのに、抑制派は諦めようとしていない。噂では、古代に封印された兵器を持ち出すぞ、などと夢のような話をしているらしいが、今日まで何も起きていない。

 話を聞き終えたミュエルは、男に謝る。

「何も知らずに、怒りに身を任せてしまったあたしの無礼を許して欲しい」

「い、いや、良いよ。最近帰ってきたみたいだし、知らないのも当然さ。こ、この国内での問題だからね」

 男も謝ると、そそくさと離れていく。本当に申し訳ないことをしてしまったと思ったが、兄の現状に愕然とする思いの方が優っている。

 ハンマーを回収したミュエルは、兄が帰ってきたら問い詰めてやろう、と意気込んでいた。


 リーナを追いかけて、部屋を出たハイル。忘れていたが、リーナは足が早く、ハイルでは到底追いつけない。

 そう、足は速い。でも、体力はハイルの方が上である。

 一階に降りると、数々の道具が所狭しと置かれていて道が入り組んでいるせいか、リーナの姿を見失ってしまったハイル。

 何故か、整備工場に来てしまっていた。

 そこに、男の姿を見つける。

「お、目覚めたか。そう言えば、まだ俺の車に乗せていなかったな。……丁度良い。乗れよ」

「えっと、どちら様?」

 男は自分を指し、スタットと名乗った。

「お前は名乗らなくて良い。ミュエルから聞いた、ハイル・ライクスだろ? モンキー武器屋の主人なんだよな?」

 頷くハイルに、楽しそうにするスタット。

 すると、スタットは車の隣に置かれていた機械を見る。

 球状で、透明の扉を開くと、球の中が空洞になっていることが分かる。外装は、無数のパイプが外に繋がっていて、ハイルには、その機械が何かの精製機械のように見えた。

 そして、スタットは手に持っていた紙を球状の機械の下にある専用の挿入口に入れた。

 紙を全て飲み込むと、機械が光を発し出す。同時に、中で何かが回転しているのか、振動が伝わってきた。

 数分が経過すると、扉が開き、スタットはその中に手を入れて、引き抜いた。

「凄いよな。もう、工場で熱鉄を叩く時代は終わったんだぜ」

 取り出されたのは、一本の剣。ハイルであれば、造るのに一日はかかるそれを、この機械は数分程で造ってしまった。

 これが――東の国。ハイルは、自分が来たいと思っていた場所の実態を知り、思っていたものと違っていたせいか、奇妙な喪失感に駆られた。

昨日ぶりです。上雛平次です。


完成したものが自分の想像していたものよりも違っているとショックですよね。ショックしたからこそ、自分で完成品を改造するかしないかで、その人の性格が変わってくるのだと思います。


という余計な話は置いておき、誤字脱字、誤った表現がありましたら、ご報告をお願いします。


では、また明日。

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