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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第一章 下克上とは緩やかに行うものである
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第二話 将来の夢

 夜。

 月明かりが窓から部屋の中を照らす。

 しかし、光の魔法によって生み出された精霊によって、灯りについては、何不自由無く生活できていた。

 精霊の形状は、何と言い表せば正しく伝えられるのか。

 言ってしまえば、周りに細い毛のようなものがついている球体だ。実は、この毛が発光現象を引き起こしていると気付いた時は、毛だけをくれよ、と口走りそうになっていたハイル。

 それを言っては本末転倒である。

 本体は、球体の方なのだから。

「ひっく……」

 ベッドに座っている泣きそうな、いや、もう泣いているリーナの頭上に薄明かりの光の精霊を漂わせる。

 かれこれ六時間。

 ハイルのしつこいくらいの謝罪の末、やっと落ち着きを取り戻してきたリーナであったが、まだ、まぶたが赤い。

「な、なぁ、ごめんって」

「うぇっく……じゃ、じゃあ、剣が欲しいです」

 涙を利用し、人の良心に付け込んでいる図々しいリーナ。

 この子、天然みたいだけど、本当は頭が良いのでは、とハイルは思う。

「いや、すまんが、ここにある剣はみんな錆び付いていて、騎士さんの期待に応えられるものは残っていないんだ」

「あれは?」

 リーナが弱々しく、棚に飾られたショートソードを指す。

 武器を造らなくなってから、あの剣が自分の誇りであり、自分が武器屋であることの証明にもなっていた。

 だから、あの剣を渡すようなことはしたくなかった。

「あれは、観賞用でして」

「あ! 王国で見たことがあります! 戦で功績を成した者や死んでいった者たちの名前を掘り、飾るんです」

「へぇ」

 別にどうでも良いと言わんばかりに、用意した椅子に腰かけるハイルは、相槌を適当にうつ。

 とりあえず、持って行かなければ何でも良い。

「で、でも、どうしましょうか。自分の剣を造ってもらいなさいという、騎士団長様の命に逆らうことになってしまいます……」

「というか、どうしてこの店なんだ? 他にも、真新しい店ならいっぱいあるだろ?」

 この国には、騎士の戦を支えられるようにと、数々の武器屋や道具屋が配備されている。むしろ、それしか無いんじゃないかとさえ思えてきてしまう程に、数が多い。

 最近では、改装工事と言って、新しい鉄や部材を取り寄せる武器屋もあるらしく、モンキー武器屋だけが、その流れに逆らっていた。

「私の祖父が、この店の武器は一流品ばかりだと言っていましたから」

 期待される目が、心を突き刺す。

 ハイルは、自分のお爺さんにも同じような目を向けられ、死ぬ間際まで、その目をハイルから離さずにいたことを思い出した。

 辛い。

 心の底から、辛かった。

 期待されて、裏切ってしまうことが、辛かった

「お、俺は武器を造れない、造れないんだ」

 涙が、目を覆う。

 男なのに泣き虫だなんて、誰にも知られたくはなかった。

「どうしましたか? それに、武器屋なのに、武器を造れないなんて……」

 リーナが立ち上がり、ハイルの側に近付く。

 顔をリーナに見られないように、下に向けるハイル。

 その時だった。

 頬を柔らかな両手で掴まれ、優しく、動かされた。

 満面の笑み。

 リーナは笑っていた。

 さっきまでの涙が嘘であるかのように、リーナは笑っていた。

「事情は分かりません。どうして、武器屋なのに武器を造れないのか、私は貴方ではありませんから、理解できることは少ないでしょう。でも、分かってあげることはできるのです。ですから――」

 手が離されたハイルの頬に、リーナの唇が触れる。

 思わぬ出来事に、ハイルは同様を隠しきれない。

「――泣かないで」

 リーナの温もり。

 何かが、ハイルの背中を強く押した。


 忘れてしまうところだった。

『先代を超える武器屋になる』

 ハイルの目標はそれであり、まだ、達成されてはいない。

 半年振りだ。

 武器を造るために、工場に入るのは。

「なんか、恥ずかしいな」

「見たいですから、私が使う武器が出来上がる瞬間を」

 リーナはハイルから少し離れたところで、先ほどの大人びた顔とは打って代わり、入店直後の、子供っぽい顔を見せていた。

 誰かに見られながら造るのは、お爺さんが亡くなって以来だ。

 それ以来、ハイルは他の剣を溶かして、それを再利用して剣を造っていた。

 もちろん、劣化はま逃れないが、誰かに使ってもらえるような武器を造れない時点で、新しいか古いかなどは重要では無い。

 けれど、今は違う。

 争いに使われる武器なのだ。

 敵を切るための武器なのだ。

 大切な人を守る武器なのだ。

 だから、完璧を追及しなければならない。

 お爺さんが、「本当に必要になる時まで、使うな」、と言っていた箱を開く。

 中には、いっぱいに敷き詰められたブロック状の鉄片。

 お爺さんの配慮に、ハイルは泣きそうになりながらも、すぐに作業に取りかかる。

 それからは、あまり覚えていない。

 無心に鉄を溶かし、形を造る。ほぼ、水の流れのように頭に組み込まれた動作を自分なりにアレンジを加えていく。

 鉄の含有量や質量の調整。その全てを形に沿って造り上げていく。

 長い時間が流れ、工場の熱気は、とてもじゃないが、耐えられる温度を超えていた。

 しかし、ハイルも、リーナも、工場を出ようとはしない。

 完成を、待ちわびていた。

 そして、完成した。

「できた、できたぞ!」

 細い剣先。いや、相手を切る剣と呼ぶよりも、刺突型の剣――レイピアと呼ぶ方が正しいのかもしれない。

 リーナに見せようと、振り返る。

「ふ、ふぇ? あ、できましたか、おめでとうございます!」

「……。お前、寝てたよな?」

 感動する場面のはずなのに、なんでだろう。

 また涙が出てきそうになる。

 慌てたリーナは剣を取り、形状を確認すると、頷いて構えた。

 やはり、何度見ても訓練で習っただけの模範的な構えである。

「どこで訓練していたんだ?」

 ハイルの問いに、リーナは、「第十三地区の騎士団長様のところです」、と答える。

 騎士団長。数万の兵を率いる、騎士の王様的人物のことを指す。

 そして、この国には第一地区から第十四地区までを管轄する騎士がおり、リーナはその中の第十三地区の管轄であるそうだ。

「そうか」

「では、剣の製造ありがとうございました! また、会える日を楽しみにしております!」

 剣を受け取ると、足早に立ち去ろうとするリーナ。

 ここで、ハイルは何かがおかしいことに気付く。

「お前、金はどうした?」

「か、金? な、なんのことでしょうか?」

 まさか、お金の支払いもせずに店から出て行こうとしていたのだろうか。

 冗談ではない。

 残っていた金属を全て使ってしまったのだ。

 新しく受注するにも、金が無い。

「……良い事を思いついた」

「はい? あ、え、まさか、体は駄目ですよ!?」

「違う違う、期待もしてな……ちょっ! 突くのは無し!」

 一旦、お互いが冷静になるのを待つ。

 それから、ハイルはあることを提案するのだ。

「金は取らない。代わりに、お前――リーナが、功績を残せ。そうすれば、英雄リーナが使った武器を造ったモンキー武器屋が有名になる!」

 一人で舞い上がり、ハイルは自分の天才的な考えに酔いしれいていた。

 しかし、浮かない顔をしていたリーナが、その希望を打ち砕くかのように、告げるのだ。

「私、第十三地区で最弱の騎士なのです」

「え? ご、ごめん、よく聞こえなかった」

「私、第十三地区で最弱の騎士なのです」

「ごめん! 聞こえていたから! 同じフレーズを何度も呟かないで!!」

 そうだ。

 ハイルの考えは、リーナがとにかく強い騎士でなければ成立しない。

 どうしたものかと腕を組んで考えるハイル。

 そして、答えは意外とすぐに出せた。

「俺がリーナを、第十三地区……いや、この世界で最強の騎士にさせる」

「何を言っているんですか!? そもそも、武器屋のハイルに騎士の教育など――」

 臨戦態勢。

 ハイルはショートソードをリーナに振るう。

 手加減は無い。

 当たれば、腕が飛び、触れれば、血が流れることを確信している程に、強く振るう。

 リーナはすぐに距離をとり、剣先をハイルに向けて、構えた。

「どういうつもりですか?」

「どういうって、リーナの力試しだが」

 工場は割と広く、武器を振り回すには程よい空間であった。

 戦いは、リーナの方が攻撃範囲は広いはずなのに、劣勢。

 ハイルは一歩、また一歩と距離を詰めていく。

 そう、ハイルは。

「ハイルは、一体……」

「本当は武器屋じゃなくて、魔神を滅ぼす騎士になりたかった」

 ただ、それだけだった。

二話目の投稿になります。上雛平次です。


本当はしたいことがあるのに、現状に妥協してしまい、結局、やりたいことが出来ない。

私は、そうなるのが嫌で、親にはかなり迷惑をかけてしまいました。

来年には就活が始まり、親にも恩返しができるかな、等と期待していたりもしています。

そういう思いも、この小説に少し、反映されてしまっているのかな、と書きながら思いました。


また、明日の投稿になりますが、ご観覧の程、宜しくお願いします。

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