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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第二章 嘘つきと騎士たちと魔法使いと
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第十八話 嘘

 嘘をついたらどうなるのか。

 事と次第によっては、自分の人生も変えかねないものであり、永遠に悔いることになるのだ。

「ハイル、嘘をついた理由を言うのです」

 リーナが、レイピアの剣先をハイルに向けているのは至極当然であった。

 空いた手に握られた魔道書を見て、ハイルは全てを悟る。

 ――ハイル・ライクスは、魔神と人間の間に生まれた子供であり、完全なる魔神と呼べる存在ではない。

 本は事実だけを示し、リーナはハイルを連れて森の外へと出ていた。

「理由か。……怖かったんだよ。俺が魔神だと伝えて、お前たちがいなくなってしまうことが」

 本当のことを話して、全てを――失ってしまうことが怖かった。

 魔神であることを教えて、前と同じ関係を維持できるとは思えなかったハイル。

 しかし、リーナは首を横に振る。

「嘘をついてしまった時が全てを失う時なのです。信頼を得たいのであれば、本当のことを話すべきです。信頼を失ったのであれば、上手い関係が築けるように頑張れば良いじゃないですか。もしも駄目なら、その程度の関係だったと割り切れば良いのです」

 震える声を抑えながら、リーナは話す。ハイルが魔神であるか、魔神ではないか、は重要な問題ではない。それを仲間たちに隠していたことが問題なのだと、リーナは続ける。

「リーナは、俺が魔神だとしても、前と同じように仲良くしてくれるのか?」

 ハイルの返答。

 対して、リーナの返答はレイピアによる刺突であった。

「当然です」

 バスターソードで受け止める。

 今のリーナは、地平線に沈みゆく太陽よりも、輝いて見えた。


「すいませんでした!」

 森の中に戻るなり、ハイルは頭を下げて、自分が魔神であることを告白する。

 ミュエルは、自分の敵がこの場にいると頭に血が上っていたが、目の前の敵がハイルであるという事実と向き合おうとしていた。

 ディアとマイヤは薄々感じていたらしく、ミュエルと違って反応は薄かった。

「他に、嘘は無いです?」

「無いね」

「……おい」

 ハイルへと聞くべき質問は、全て魔道書へと投げかけられる。

 確かに万能ではあるが、使い方によっては人同士の関係がややこしくなりそうな代物である。

 それも、マイヤが住むこの森の中だけの話で、ここから魔道書を持ち出して外で使おうとしても、最も新しい質問と答えが記載されているだけで、次の質問は行えないようだ。

「何か、聞こえない?」

 魔神を封印するための別の術を書物から探していた五人の耳に、音階が聞こえる。

 鳥かご。床に置いていた道標の精霊たちが、綺麗な音を発し始めた。

「これは何です?」

「あれ、リーナの家には精霊はいないのか? 俺の家の精霊も時々、音を出すんだ」

「この音は、精霊たちが働きたがっている音ね。ところで、どうしてここに連れてきたの?」

 マイヤから投げかけられた問いに、ハイルは思い出す。

 依頼。

 精霊たちを見て、行方不明者が続出している森だという話を思い出した。

 結論を言ってしまうと、依頼をすっかり忘れていた。

「え? 行方不明者なら、私の仕業よ」

「おい」

 ハイルの質問にあっさりと答えたマイヤは、舌を出しながら謝る。何だか馬鹿にされているような気しかしないから不思議だ。

 話によると、マイヤの生活している場所に人が近付こうとする者を遠ざけるために、瞬間移動テレポートの術式が張り巡らされているらしい。

 いい迷惑だと思った。

 だとすると、精霊たちを配置させるのはマイヤに任せた方が良さそうだ。

「分かったわ。さ、あなたたち、移動開始よ」

 手を二回叩くマイヤ。

 すると、鳥かごにかけられた錠前がひとりでに開き、中から精霊たちが飛び出した。そして、各々別の場所に飛んでいく。

 流石は、魔法使い。

 精霊を自由に扱えるようになるのは至難の業で、ハイルが家の中にいる全ての精霊と仲良くなるのに十数年が経ったというのに、未だに言う事を聞いてくれない数の方が多い。

「美味しいマナを流したからね。人も精霊も、美味しい物には目が無いの」

 マナも場所によって性質が異なるらしいが、一般人であるマイヤを除く四人には、違いが分からない。

 いや、ディアも少なからず、魔法を覚えているのか。

「そう言えば、ディアはどうして魔法が使えるんだ?」

「え、仲間なのに知らなかったの?」

 魔法が使えることよりも、そちらの方を知らなかったことの方が信じられないという表情を浮かべるマイヤ。

 ミュエルとリーナもここぞとばかりに睨みを送り、無味乾燥な顔のディアが救いだった。

「私、魔神の影響、魔力、戻る」

 そうだ。進化型のディアには、魔神による能力がもたらされている。そのおかげで、失ったはずの魔力は戻ったが、言語能力が乏しくなってしまったのだ。

「うん、配置が終わったわ。これで迷わずに向かい側へ出られると思うけど、万が一に私の家へと近付いてくるようなことがあれば、猛吹雪を拝むことができるかもね」

「……せめて、入口にしてやってくれ」

 ここで出口と言わなかったのは、森の中には少なからず魔物がいて、マイヤが襲われる危険性があるからだ。

 ちなみに、ハイルたちが依頼を受けた『北方組合』は、その周辺地域に潜む魔物を退治し、安全に旅を行わせられるようにする組織であるため、マイヤの住む森にも足を踏み入れることもある。

「考えておくわね」

 絶対に、考えていない人間の顔だった。

昨日ぶりです。上雛平次です。


ばれなければ嘘。という言葉が一時期、言われていましたが、嘘は言った時点で嘘であることを忘れてはいけません。


と、余計な話はせずに、誤字脱字、誤った表現がありましたらご報告をお願いします。


では、また明日。

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