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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第二章 嘘つきと騎士たちと魔法使いと
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第十七話 禁呪

 昼。

 木漏れ日が差し込み、暖かな光が大地を照らす。

 ハイルたちはあまりにも突然で、信じられない事態に困惑しながらも、旅の目的を果たせない事実を受け入れようとしていた。

 その原因。

 つり上がった緑の瞳、。金色の髪は丁寧にまとめられているようで、ハイルと同じく癖があるのか、一本だけ飛び出た髪。年齢にしては若いはずなのに、その顔はやつれて、疲れ果てているようだった。

 少女の名は、マイヤ・オリクス。人類最後の魔法使いであり、魔神に対抗できる力を持つ者である。

「理由を聞かせてくれないか?」

 ――私の魔法は渡さない。

 マイヤの言葉に、ハイルたちはしばらく時間が止まったかのように、思考を停止していた。唖然としていたとも言うのだろう。とにかく、理由を聞かなければならない。

「単純ね。私の物を他人に、勝手に使われるのが気に食わないの」

 本を隣に置かれたテーブルに置くと、マイヤは座ったまま会話を続ける。

 なんて、自分勝手な魔法使いなのだろう。この世界に住む人々の未来など、頭の片隅にも無いはずだ。

「貴方だって……いえ、ハイルだって、武器屋なら分かるでしょ? 例えるなら、自分が造った武器を他の武器屋が、自分が作りましたよーっていう感じで売られたら、嫌でしょう?」

 いつ名前を知ったのか。それを聞くべきなのかもしれないが、マイヤの瞳が許さない。魔法使いであれば、人の名前を調べることくらい造作もないのだろう。

「確かにそうだ。だけど、それとこれとは全く別だ。俺は別に、マイヤの魔法を取ろうとしているんじゃない。ってか、魔法は使えない。……そうじゃなくて、この世界の人々のために、マイヤの魔法が必要なんだよ」

 ハイルの返答にマイヤは黙り、椅子を半回転する。

 何をしているのかハイルには分からなかったが、リーナとミュエルとディアには分かる。

 照れ隠しだ。

「で、でも、やはり私はハイルたちとは一緒に行けない」

 振り返り、腕を広げたマイヤ。立ち上がり、続けられたのは、マイヤの過去であった。

「私が、大地の枯渇を防ぐために魔法を使わなかったのは、この森があるからよ。この森にある木々を育めば、時間はかかるかもしれないけど、緑でいっぱいの大地になる。半年も経ったけど、まだ数メートルしか伸びていないけどね」

 恥じているのか、頭を掻くマイヤ。

 やっと分かったことがある。マイヤは魔法を使わないのではなく、使えないのだ。少しでもこの場所を離れれば、マイヤの魔法は途切れ、森は機能を失い枯れていくのだ。そのために、マイヤは町から離れたこの場所で、ずっと、森の管理をしていた。

 少し、ディアと似ているか。目をディアの方に向けると、気付いたディアはハイルに向かって手を振った。

「何か、方法は無いのです?」

 前に出て、マイヤに尋ねるリーナ。マイヤは訝しげにリーナを見ると、口を開いた。

「無いことは、無い。でも、できるのかしら、これは……」

 マイヤは腕を組み、ぶつぶつと独り言を始める。大丈夫か、とハイルが声をかけようとすると、マイヤは立ち上がり、本を開いた。

「聖剣よ。私がここから離れる方法。聖剣をここに持ってきてくれれば、勝手に魔力が大地に流れていくから、私が魔力を送る必要は無くなるわけ、そのために、樹木に栄養を与える魔法陣を描かないと、私がいなくなっても良いように」

 とても聞き取れないような早さで、マイヤの口から言葉が飛び出していく。しかし、ハイルには聞き取れてしまい、思わず聞いてしまったのは仕方のないことだろう。

「聖剣って、俺はそんなもの造れないぞ」

「本」

 質問に一語で答えたマイヤは、テーブルに立てかけてあった、先端に紫色の形が整っていない水晶が付けられた杖を取る。

 太陽の光と水晶を照らし合わせると、光の線が現れ、地面を焼いていく。

 ハイルたちは本に近付くと、初めから書かれていたのか、線が引かれた部分を読む。

『聖剣は、神によって託された物であり、その一撃はどんな物でも断てる程に、素晴らしい品である。問題は、その剣を真似して造られた剣が複数あり、オリジナルを見つけることは困難とされている。ある家系が剣を受け取ることを許され、世代が変わる毎に新たな聖剣を受け取っている。聖剣と言っても、最初から聖剣であるわけではなく、特殊な鉱石が剣の周りに付着しているため、それを削ぎ落とさなければいけないが、剣を使っていくうちに剥がれていくらしい』、以上が、聖剣について書かれた文だ。

 つまり聖剣は、神様が造った武器ということになる。武器屋のハイルとしては複雑で、一度、その特殊な鉱石とやらを見てみたいと思った。

「で、どこにあるって?」

 口に出し、本を見ると、驚くことに新たな文が追加されていた。よく見ると、この本は周りに適当な話を書いているが、ハイルたちの知りたい情報は全てが一点に集中していた。

 魔道書。題は書かれていないが、質問をすれば何でも答えてしまう優れものなのだろう。

 そして、ハイルの質問の答えが現れる。

『中央国の武器屋』

 途端、周囲にいた全ての人物の視線が全て、ハイルに注がれる。

 直ぐさま、首を横に振り、知っているのならとっくに言っていると話した。

「いや、案外あるかもね」

「無いよ」

 ミュエルの呟きに、即答するハイル。そもそも、聖剣が置いてある武器屋なら、モンキー武器屋はもっと有名になっても良いはずだ。徐々にお客は増えてきているが、その倍以上には上がるはずである。

 答えが分かり、中央国へと戻るか話をしようとすると、ディアはマイヤに声をかけていた。

「魔神封印、禁呪、身、危険」

「あら、知っているの? そう言えば、ディアからも魔力を感じるわね。私程では無いにしても」

 光線が止まり、マイヤは地面に杖を突き刺した。

 どういうことか分からず、ハイルはマイヤに尋ねる。

「身の危険って、何だ?」

「ハイルは知らないのね。魔神封印の禁呪っていうのはね、自分を犠牲にして魔神の周囲に力を使えないようにするための神域を作り出すの。ま、私一人の犠牲で済むなら本望ね。あ、そうだわ、ディア、貴女にこの森の管理について教えるから、また後でね」

 自分を犠牲に。淡々と告げられた言葉に、マイヤは何も思うところはないらしい。

 しかし、ハイルは思う。

「……待てよ」

 自分を犠牲にして、何かを成し遂げたとしても。

「それじゃあ、お前」

 ――幸せには、到底なれない。

 声に出してしまった言葉に、マイヤは笑顔で答える。

「良いじゃない、それでも。私が死に、みんなが生きれば。人はね、少なからず、他人を犠牲にして生きているのよ。だから、私がその犠牲になってあげれば、他人は犠牲にならなくて済むのよ?」

 頷きかけた。そこは認める。

 但し、頷かなかったのだから、否定はしておく。

「なら、何も犠牲にしないで救う方法を見つければ良いだろう! どうして、自分がいなくなれば良いなんてことを言うんだ! ……みんな、自分を犠牲にし過ぎだ。周りを、もっと頼れよ、俺はそんなに信用ならない奴なのか?」

 熱意と真意に溢れた言葉。ハイルは、真っ直ぐにマイヤを見つめる。どうやら、いなくなってしまった姉と姿を重ねていたのかもしれない。

 そして、マイヤはこう言った。

「じゃあ、一緒に、探してくれる……? 私だって、まだ死にたくない。生きたいの、生きていたいの!」

 人類最後の魔法使いは、武器屋の主人に、そう願った。


 ハイルとマイヤが話を始めたとき、隙を見つけたリーナは他の人には聞こえないように、小声で、ある質問をしていた。

 聞かなければ、未来が変わったのかもしれない。

 けれど、ここで聞かなければ一生後悔すると確信できたから、リーナは聞かずにはいられなかった。

「ハイルは――魔神です?」

 魔道書は、適切な答えを掲示した。

昨日ぶりです。上雛平次です。


日付を確認してみると、一年も残すところ一ヶ月と三十日、となりました。

本当に、時間の流れを実感すると怖くなりますね。


という話は遠くに投げて置き、誤字脱字、誤った表現がありましたらご報告lをお願いします。


では、また明日。

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