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さる武器屋の英雄伝  作者: 上雛 平次
第二章 嘘つきと騎士たちと魔法使いと
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第十六話 人類最後の魔法使い

――この旅にも、終わりが近付いてきた。

 巨大な森の中に開けた場所。

 書棚やベッドなど、まるで、そこで生活しているかのような印象を受ける場所であった。

 その中央。

 椅子に腰かけて、自身の頭を隠せてしまう程に巨大で分厚い本を読む少女がいる。

 彼女が――人類最後の、魔法使い。


 二つ目の村は、ディアたちが住む村よりも規模が大きく、村ではなく町と表現した方が良いのかもしれない。

 町の中は、人々が歩き回っていて、自分たちが歩くスペースがあるのかと感じてしまう程に多い。

 それもそのはず。この町が北に向かう時に通る最後の町だからだ。

 歩いていると、ハイルたちは宿屋を見つける。が、一文無しであることを思い出し、また野宿か、と溜め息をついた。

 その時、宿屋の扉に数枚ほど貼られた紙が目に入る。『行方不明相次ぐ。捜索頼む』と書かれた紙には、報酬も出すと書かれていた。

『これ(だ、です、ね)』

 四人が同じ呟きをし、この依頼を提供していた家へと向かう。

 宿屋より、数分もかからない場所にあったそこは、『北方組合』と書かれた看板がかけられた、古い造りの家だった。

 本当に報酬が出せるのか、と思わず聞いてしまいたくなった。

 などと悪い考えをしてしまったせいか、扉を開こうとドアノブを握ると罰が当たったかのように、ハイルの全身に扉が圧しかかる。

「お、嬢ちゃんたちどうしたん」

 出てきたのは、北に住むに適した厚い生地の服を着た、無精ひげを生やした男。年齢は、明らかにハイルたちよりは倍近くはとっていそうな男は、リーナが貼り紙を持っていることに気が付いた。

「もしや、探索者たちかい?」

「そう、私たち、依頼、果たしに、来た」

 ディアの返事に、感情の大きな変化が見られたわけではないが、男が嬉しそうにしているのが分かる。

 扉にかかる力が弱まり、扉から出てきたハイルは男に、「お前、何やってん?」、と不思議がられた。

「あなたが扉を強く開いて、今の今まで扉から強い圧力をもらっていたんですよ!」

「あ、それはすまんね」

 訛りが強い喋り。方言は仕方のないことだが、本当に謝っているのかどうか分からない対応にハイルは苛立ちを募らせる。

 しかし、向こうも悪気があって行ったのではないと分かると、すぐにハイルは許し、依頼の話に移る。

「俺の方こそ、すいませんでした。……それで、行方不明者とは?」

 詳細が書かれていない紙を渡すと、男は家の中にハイルたちを招き入れる。家の中は、壁に飾られた絵と、そのすぐ前の机に置かれた骨董品でいっぱいだった。

 中央には、人との応対に使っているのか、長机が置かれている。

 そこに四人分の椅子を用意してハイルたちを座らせると、話を始めた。

「北に、大きい森があるのを知ってるん?」

 男は、紙の裏に絵を描きながら話をする。どうやら、森の中の地図らしい。迷う人が多発しているらしく、道に迷ったまま行方不明になる場合もあるらしい。

 ハイルたちの仕事は、森を歩きやすくするための指示精霊を置いておくことと、行方不明になる別の原因があれば、それを改善することであった。

「人類最後の魔法使いがいるのよね?」

 ミュエルが確認の意味を込めて聞くと、男は頷く。

 続けられたのは、この町に元々住んでいた魔法使いたちは自らの魔力を犠牲にし、荒れ果てた土地を豊かにしたが、引き換えに魔法使いでいることができなくなってしまった。また、その魔法使いだけは魔力を使わず、人里から離れた北の森に住んでいるという話。

 もしかしたら、その魔法使いはディアと似た境遇なのかもしれない、とハイルは思う。自分が魔力を渡さないのは、村を守るため、と言ってくれれば、協力を得ることは簡単だろう。

「早速行ってくるけど、何人くらいが行方不明に? 共通点とかあるのか?」

「いんや、確か無かったな。人数は、数十人くらいだったと思う」

 地図と、精霊が入れられた鳥かごのような入れ物を受け取る。

 中には、炎の精霊と似ているが、形が皆変わっていて、矢印やバツ印など、様々だった。

「あと、魔法使いには会わないようにだぁ」

 男の忠告にハイルは理由を尋ねる。

 本来の目的は、その魔法使いの元へ向かうことだ。なのに、出会ってはいけないとは、どういうことだろうか。

「悪戯好きの魔法使いだからなぁ、何されるか分かったもんじゃない」

 少しだが、声色が低くなった気がする。この人も、被害者なのかもしれない。

 それにしたって、悪戯とは。ハイルの知識にある魔法使いの像と言えば、数百年を生きていそうな老婆や老人であった。

 気を付けるよ、とハイルは男に手を振り、四人は組合を後にした。


 再び外に出て、歩き始める。今度は入ってきた方とは逆側の北側。遠くを見ると、木々が生い茂る大地が見えていた。

 目を凝らしても、今歩いている草原と木々の分かれ目が見えないのが不思議であった。

 四人の装備は町から出ても変わらない。

 荷物は組合で管理してくれると言ってくれたが、人が行き交う場所に私物を置いていくのは忍びない。

 あの場所は、他の場所から来た人に町の素晴らしさを教えるためにある場所らしく、その家主があの男性であった。

 この依頼は、人の安否よりも町の評価を下げないようにするためのものだったのかもしれない、と思ってしまう自分が酷く見えた。

 ハイルが反省していると、手に持つ鳥かごに入れられた精霊が激しく動き回る。

 同時に、リーナが勢い良くハイルの服の裾を引っ張った。

「ハイル、ハイル!」

「どうした?」

 振り返り、次にリーナが何を言おうとしたのか、ハイルは分かった。

 一面に広がる森。

 さっきまで自分たちがどこを歩いていたのか分からなくなってしまうくらいに、突然の出来事。

 草原が、瞬く間に森になった。言うとすれば、そうなる。

 木々に触れてみると、感触はあった。どうやら、幻覚ではないらしい。

「ふふ、驚いていますわね」

 王女のように、気品に満ちた声。その裏腹に、悪戯が成功したことに喜びを感じているような笑い。

 声が切れると、森の木々が滑るように道を開く。

 その開けた道の先に、彼女がいた。

 そして、力強く、鷹のように鋭い瞳でハイルたちを睨んだ。

「私は、マイヤ・オリクス。私の魔法は――誰にも渡さないわ」

 マイヤの言葉で、ハイルは気付いてしまったことがある。

 ディアとは正反対の性格で、協力は得られそうにないことを。

昨日ぶりです。上雛平次です。


もしも、自分が人類最後の人間であったら、どうしますか。と聞かれた時に、私なら「自分のしたいことをして、幸せに包まれた一生を過ごしたい」と答えると思います。


等と、無駄な話は置いておきまして、誤字脱字、誤った表現がありましたら、ご報告をお願いします。


では、また明日。

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