第十四話 魔剣士
精神汚染には、症状に種類がある。
魔神に全神経を掌握されてしまった場合は、洗脳型。
魔神に掌握されず、また、魔神の能力を扱えるようになった場合は、進化型。
この二種類に分類される。もしかしたら、まだ隠された症状があるのかもしれないが、一般的に知られているのはこの二種類だった。
つまり、目の前にいるディアの症状は、後者の進化型。魔神との戦争が行われてから半年が経って、まだ治っていないとすると、教会でも治らなかったようだ。
いや、そもそもこの村に教会は無い。すると、ディアが村から追放された理由は、精神が汚染された者であるから、ということになる。
身勝手極まりない。ディアが悪いわけではないのに、どうして、ディアだけが酷い目にあっているのだろうか。
「ディア、一人で辛くないか?」
「辛い、分からない。私、汚染されてから、何も、思わない、感じない」
ディアの、空虚な笑顔。心からではなく、本当に表面上の笑み。
「けど、お父さん、村、守っていた。最後まで、私も、戦う」
正しい力の使い方だ。ハイルは頷き、リーナとミュエルも、口を開く。
「ディアさんは、村に居たくないです?」
「そうそう、村から離れた場所より、村に居た方が守衛もし易いし、奇襲にも対応できるわね」
そうだ。せめて、村に入ることを許されなくては、ディアの生活に支障が出る。もしかしたら、それをきっかけに症状を軽くできるかもしれない。
けれど、ディアは首を横に振る。
「私が、村、居ると、嫌な気持ちに、みんな、させる。私、ここで、守る」
強い意思。これ以上、物を言うのはディアに対して失礼だ。
騎士の親にして、騎士の子ありとは、このことを言うのだろう。
「それなら、俺たちは旅に戻るよ。ありがとうな」
ディアの頭を撫でて、ハイルたちはディアの部屋を出る。
そして、玄関まで見送りに来たディアと、戸を開いたハイルの思考が合致する。
異変。
巨大な羽音と強い風が、村を突き抜ける。
「ドラゴン!?」
上を見れば、空中で静止する竜の姿。遠目で見れば小さいかもしれないが、地上に降り立てば、その大きさはこの村の家々と同等かそれ以上だろう。
網膜のように血管が浮き出た翼、太い胴体と爪を持った四肢に、首は長く、獣を食うために特化した鋭い歯。鱗の色は青く、その口から青い火の粉が飛び出ていた。
魔物界の頂点に君臨する竜が、どうしてここにいるのだろうか。本来、竜は竜人たちの住む北側の大陸に生息している。方角的には居たとしても間違いは無いが、村人を襲っているこれは間違いだ。
ディアは剣を持ち、村へと走る。リーナとミュエルもディアの後ろに続く。
ハイルは、考えている。
(どうして村に? 何か原因が……)
思い当たる節が無い。それなら、と急いで村に向かう。
村に着いた頃には家の半数が燃え、風によって倒され、竜に踏み潰された。
怒り狂う竜は再び、青い炎を村に放とうとする。
「一発もらいなさいよ!」
ミュエルのハンマーが竜の胴体に当たると、体をよろめかした。続けて、ハンマーを持ったまま空中で一回転し、勢いをつけて頭部にぶつける。
「今のは、二発じゃないのか!?」
「どうでもいい!」
ハイルの突っ込みに対し、着地すると罵倒で応えたミュエル。
風。
竜は巨大な羽を開き、空へと逃げる。
「と、届かない!」
一瞬にして、竜は空に。あのような巨体が空を飛ぶ姿など考えられないが、目の前にそれがいる。
人では決して届かない距離に、ハイルは思う。
――自分が、魔神であれば。
甘い囁きが耳に入る。思考が乱れ、模様が手袋から腕を伝おうとした時である。
地響き。
「え?」
先ほどまで空高くを舞っていた竜が、地面に落下していた。
よく見ると、竜の頭上にはディアの姿。
一体、どうやって空にいた竜に一撃を与えたのだろう。見ると、手には朝見た剣ではなく、槍。
まるで、ディアが地上から空にいる竜に跳躍し、攻撃したような。いや、そんなことは常人では無理だろう。ミュエルならしてもおかしくないが、挑戦しなかったところを見るに、無理だと分かっていたのだろう。
やはり、わけが分からない。
「早く逃げるのです!」
リーナは、村の人々の避難を最優先に行動していた。
その時、燃えていた家が崩れるように、リーナに降りかかる。
「きゃっ!」
その場にしゃがみ込むリーナ。
途端に、体が浮く感覚。
「大丈夫」
俊敏で、軽やかな動きでリーナを救ってみせたディア。
ありがとう、と言ったリーナに笑みで応えると、ディアは空に飛ぶ竜に向き直る。
「もう、許さない」
ディアは剣を引き抜き、両手で掴む。
何かを呟くディア。――魔法陣が柄先から剣先を通い、剣に効果を与える。
「それは……?」
リーナの指が向けられた、ディアの剣の形が変化した。
いや、あれはもう剣では無い。
槍だ。柄がディアの体よりも伸び、刃は短くも鋭い。
魔法によって、武器の形を変化させたらしい。
驚いたリーナはディアに、「ディアは、魔剣士です?」、そう聞いた。
魔法使いとしての能力を、剣の道に応用させた者たちのことを魔剣士と呼ぶ。属性を付加させたり、武器の能力を向上させたりと、力押しで戦う剣士とは違い、状況によって戦術を変えることができる魔剣士。
王国にも二、三人程使い手がいるが、ディアのように武器の形状を変える者はいなかった。
「うん。魔法、上手、じゃない。だから、これで、助ける」
槍を前に構え、地面に穴が空く程に強い踏み込み。
跳躍。
人間とは思えない高さまで飛び、竜に迫っていくディアに目を丸くしたリーナ。
ディアの汚染は精神だけではなく、身体にまで影響を及ぼしていたことを理解した。
昨日ぶりです。上雛平次です。
今度は覚えていました。二週間経過です。
初めて書いた小説でして、読み難いと思われます。
その読み難い箇所があれば修正致しますので、お気軽にご意見をお願いします。
では、また次回。