第十六話 「しっぽが生えたよ!」
●しっぽがはえたよ!
「タマちゃん……タマちゃん」
「……なんですか、ヒカリ」
袖の中に隠した真空管に、ヒカリが小声で呼びかける。
「なんとかならないかな……これ」
「ロープと手錠ですか? どちらも困難でしょうね……針金やピンで簡単に開けられる代物でもなさそうですし、まずそのピンも、手元にないのでしょう?」
「う、今日はお団子作ってないし止めてもないからなー、ゴム紐じゃ開かないよね?」
「少なくとも私の知識では」
「何をぶつくさやっとるか、ヒカリに三太郎……というか主、そこにおったのか? どおりで反応がないと思うたわ」
「あの時、咄嗟に……割れたら良くないと思って」
「その咄嗟、をもう半日前に発揮して欲しかったぜ」
「う、ごめん玄海、ハリマ」
「お二人とも……そなにヒカリさんを……」
「いいの、流石に今回は私が悪かったと思うし」
反省してはいるのだが、問題はここからどうするか……その方が肝心だ。
「ところでさ……タマちゃん」
「なんでしょうか、ヒカリ」
「三太郎って、男性名だよね」
「そうですが、今それが何か」
「普通、船って女性名だよね?」
「ああ、そう言われてみればそういう場合が多いようですね。まあ船乗りが男中心の世界の時代が長かったためであるとか、その場合に異性のイメージを船に見るとか、色々と理由はあるようですが……他にも、海の神の性別による影響など、色々と各地ごとの理由があるようですね」
「じゃあ玄海ってホモなのかな」
「……ヒカリは全世界のお坊さんに謝るべきです」
「まず、ワシに謝ろうかのう」
「そんなことより玄海にヒカリ、おまえら術か魔法で何とかできないのかよ、こういうの」
もっともな意見だ。特に、日常的なせせこましい魔法が中心のヒカリはともかく、単発ながら威力の大きな術も使う玄海なら、何かしら手があるに違いない。いつものパターンで言うと……一人だけコッソリと逃げ出すために、自分だけの隠し球すら伏せたままでいることもある。
「出し惜しみはなしだ、玄海」
めずらしくシリアスなハリマに、玄海もたじろぐが……
「それがどうもな……ヒカリ」
「うん、多分これそうだと思う」
「……何のことだ?」
「実は……私もあまり、調子が良くはないのです……」
アスコットと二人、大人しく黙り込んでいたティニーだったが、それも理由のようだった。
「おそらく、だけど結構鉛が入ってる。それも強度を落とさないのは無理だけれど、普通の人間の力じゃ、ねじりきれないくらいにはね」
抗力手錠と呼ばれる汎用性の高い手錠で、現在では既にこのタイプに切り替わっている組織が、多くなっていた。
「対策は万全、ってことか。ヒカリの力でも……ねじ切れないのか」
「人を気味の悪い筋肉馬鹿みたいに言うのは止めて、私の力なんて、せいぜい玄海に腕相撲で勝つのがやっと、っていうレベルなのよ? この間、玄海の利き手と私の左で勝負したら、その時は普通に負けちゃったし」
それでも十二分に大したものではあるというか、通常の筋肉の出力量を計るのによく用いられる、断面積の差で言うならば、それこそあり得ない値なのだが。
「おい、静かにしろ……」
「っ……」「ひゃっ」
先ほどに交代して離れたセントーレの部下の一人が、低い声でこちらを威圧している。小銃の先に着けたナイフがぎらりと光り、戦慣れしていないティニートアスコットの姉弟をすくみ震え上がらせた。
「おい、女子供をそう脅すんじゃねえよ」
「ふん」
もう一人の方は特務には珍しく仕事熱心ではないと見え、向こう側の柱に寄りかかって眠っている様だった。長い間マルレラの番所に詰めている内に、すっかりぬるま湯に浸かりきってしまったのかもしれない。
「そんなことよりあんた……なあ……頼みがあるんだ、同じ元軍人のよしみってことで、最期に、タバコを一服めぐんじゃくれねえかな」
「フン、死刑囚の権利ってヤツか? 待ってろ、後で許可をもらってきてやるヨ」
「そうは言うが……こちとら昨日からドタバタでニコチン切れがマジなんだ。このままじゃいつかブチ切れて暴れ出しちまいかねない……なあ、頼むよ?」
「アタシも、お腹減ったんだけど……」
「飯は後だがアメ玉で良ければクレてヤル。……仕方ねエなどっちも、投げるから勝手に咥えロ」
見張り役の男はそう言うと、自分の作業着のポケットから、くしゃくしゃになったタバコの箱と、紙に包んだ飴玉を放って寄越した。
二つは、それぞれの目の前に落ちて転がった。
「なに? ホントにくわえさせてくんないの?
「首や腰は動くんだロ、身体が硬いってんならソレはオレのせいじゃねエナ」
「汚いわね」
「三メートル以内に近寄ってはならン、と厳命されていルのでネ……安心しろ、毒は入ってイナイ」
自分も煙草に火を着けながら、そう言った。
「せめて、火の着いた方を投げてくんないかなあ、な、火を着けてくれよ」
「ッたく……しょうがねえナ」 と、ぼやきながらライターを手に横合いから近寄ってきた。彼らの背後のいましめが解けていないかを確認しながら、という事なのだろう。こちらの男の方は、眠りこけている方と違って隙がない。ヒカリの方は暢気なもので、そのやりとりを気にした様子もなく、口をもごもごと動かしながら包み紙をより分け、ぺっ とそれだけを吐き出した。
なんとも行儀の悪い食べ方だが、贅沢なことを言える状態でないどころか、下手をすると彼らの食事全てが、こんな風に行われるのかもしれない、とぞっとしない感想を抱く。
――厄介なときに仕掛け寄ったわ―― 実は心中、玄海はそう感じていた。
だが実は、このときは唯一にして正解のチャンスだった。
ハリマは小声で見張りの男に言った。
「子猫のペンダント――返してやるからさ」
その言葉を聞いた瞬間、男が跳ねる。手にした小銃の連射で彼らを皆殺しと思いきや――それどころか銃剣で次々とロープを解いた。
だが、もう一人の見張りは余程熟睡しているのか――というより、彼によって一服盛られていたわけだが。
そうして、ロブを全て片付けると、今度は鍵を使って、ティニーの手錠と、アスコット、次いでヒカリの手錠に鍵を差し込んだ。
「あんた、なんで!? ハリマの知り合い?」
ぽかん、としていたヒカリの手錠にの鍵穴を見付け、手早くそこに差し込む。
「いや、ホボ初対面だ」
「じゃあなー」
「アア、そい……ツ……?」
男の手が止まった。ヒカリの手錠に刺さっていた鍵がかろうじて外れるが、そこまでだった。彼の腹部から――真っ赤な手が生えている――それはおそらく、背中側から貫通したものであり、彼の手で最初に手錠を外してもらった後、アスコットを抱いてうずくまっていたはずのティニーだった。
――まったく同じだ―― 昨日の悪夢が一瞬で蘇り、ヒカリの体中の毛穴という毛穴を開かせた。
アスコットは、ただ転がされたままだが、怪我はないようだ。
ブシャッ、と音を立てて、男の腹部に開いた穴から血が噴き出す。正面にいたヒカリは、コートを脱いで男の腹部にあてがうが、冬の冷気を通さないために綿をしこまれたその厚みすら通り抜ける勢いで、ゆうゆうと滝のようにあふれ出してくる血液を止めることが出来ない。
「もヴいい……ジョヴちゃ……隠れろ……」
その次の瞬間、うす暗かった倉庫に、設置されていた照明の全てと、スピーカーが息を吹き返した。
『あー、あー、聞こえているかね? 諸君? 見られていると分かったまま、閉じ込められた気分はどうだろうか? もし時間が許すならば、遺書なり何なりで感想を書き残しておいてもらえると、私の実験の助けとなること請け合いである。是非とも、ご一考いただけるものと願っているよ』
「ちっ……どこでもいい、とにかく隠れろヒカリ!」
アスコットを片手で引っ張りながら、玄海が叫んだ。
「てめ……勝手に死んでんじゃねえよっ……!」
ハリマのその声に、見張りの男が、苦しそうな――笑顔を見せる。はっきりと聞こえたわけではない。だが、聞こえた。
『しかし、馬鹿であるというのは度しがたいものだな……君たちは疑問にも思わなかったのかね? 我々が正体を知っている被検体――君たちがティニーと呼ぶ少女を、なぜ同じ容姿の彼女に我々がまったく気付きもしないと思ったのか……いえ、その違和感に思い当たらなかったのか』
『これは致命傷でしょうねえ……ま、いいでしょう。一体目はこんなもので (ああ、セントーレ君? 私は記録作業に専念したいので、指揮を変わっていただけますか? ゆっくり、一人ずつお願いしますね)』
『(ビ) あ、あー皆さん、聞こえてますか……聞こえますか? ただいまより指揮を代わりますセントーレです。といってもこの名前も全然本物でも何でもないですし、ま、どーでもいけどね……と、あとやはり裏切っていたか、七号」』
「……バレてるんじゃないかと……ごはっ、かっ……かぐ悟はじべたんスがねェ……それでも、分かっててもウマくはいかないいモンだなあ」
『構成員の身上調査は、定期的に行っていたからな……私は、偽装結婚の命は出したが――子供まで作れとは言わなかったのでね』
「じょうがね…うづっぢまっダんでザ」
『安い工作員の裏切りの末路ですね、お疲れ様です』
「アア……やっど……じね……る……」
上げていた手が、どさりと落ちた。
『さて、『ノートゥング』 剣の王にして炎の船の王……あなたにはまず手始めに、そこの連中を全員、一人ずつすりつぶしていってもらいましょうか……そうですね、最初は、まずあなたの弟から手にかけていただきましょうか』
「させるかあああああああああっ!」
倉庫にかろうじて生き残っていた二十一式を駆り、機関砲を連射しながら玄海が側面から突撃するが、ソレが彼女に対して効果がないどころか、彼女の纏っているメイド服すら、ほんの少々の焦げ目と穴を開けたに過ぎない。
そこへ、一機に距離を詰めたティニーが、メイド服の裾をふわりと膨らませて迫り――装甲服と機関砲ごと片手で握りつぶしながら、持ち上げ始める。あの細腕と小さな掌でどうやっているのか、まるで皆目見当がつかない。
「あだだだだだだだっ! くそっ、脱出装置がお釈迦になってやがる!」
万力のような力に締め上げられて玄海が呻く。サイズの合っていない装甲服を着たせいか、滑って抜け出すこともままならない。
『いえ、あえて脱出装置は潰しておきましたが……「まさか昨日の惨状を見て、それに載ってくださる方が居たのは感激である」 とのことです。よかったですね』
その玄海の耳元で――誰かが囁いた
「力、欲しおすか?」
「寄越せ!」
「わ、躊躇一切なっしゃなー……そういうの、男らしいてええ、思いますよ」
次の瞬間、運転席の頭部から飛び出した輝く光が、玄海の装甲服を締め上げていたティニーの右腕をはじき飛ばした。その間に、割って立つように浮かんでいるのは――全長30センチほど水晶細工で、その見た目は、小さなティニーをが妖精のように飛んでいる姿だった――。
「小さい思もて舐めてはったら痛い目みますえ?」
その言葉か終わるやいなや、全身を回転させながらドリルのように突撃し、進路を塞いだティニーの両の手の平を貫通して縫い付ける。身体の刃の回転に合わせ、その手から血と、肉が飛び散り……やがて煙を上げながら……途から任せに止められた。
「あかん! ……大部分、持って行かれましたわ」
再び弾けて玄海の元へと飛び戻ったが、形こそほとんど変わらないものの、そのサイズ半分以下にまで縮まっていた。
出血していたはずの手の平は、あっという間に真っ白に戻っている。
「ダーリン……撤退を進言しますわ」
「どこへだ」
「どこでも、これはもう……無理どす。今のであの子……わたしん 『花』 ん部分やったとですが、ほんのちょっとでも 『根』 まで揃えてしまいよりました……全力回転でも五秒くらいやったら、昨日のうちの全力の、倍くらいは強い思います」
「なんと……じゃが、わししかどうもできまい!」
「その粋……良し!」
だが、気合い虚しく再度吹き飛ばされ、アスコットの方に吹き飛ばされる被害を食い止めようとしたヒカリも、一緒になって壁まではじき飛ばされた。
「つつう……まっすます手が着けられないかも、こりゃ」
だらりと下がる自分の腕に、治癒呪文を施しながら呻く。
「ヒカリ! だ、大丈夫!?」
「問題ない、むしろ――さっきより力が湧いてくるわ……これが火事場の、馬鹿力ってヤツね!」
強がりではない、血を含んだ魔着の助けがあるとは言え、傷の治りは普段より遥かに早い。肉に食い込んだガラス片も、一瞬で外に――ガラス片?
「――――!! タマちゃん!」
袖の中で、真空管が粉微塵に砕け散り、小さなオタマジャクシの姿は見えなくなってしまっていた――
「げ……玄海、どうしよう! た……タマちゃん潰れちゃった! 」
動揺して、あたふたとするヒカリだが、玄海は命に別状こそなかったが、返事の出来る状態ではなく――有り体に言うと、今の一撃で気を失ってしまっていた。
装甲服の中に入り込んだ水晶ティニーことティルが起こそうと試みるが、起きる様子は全くない。
離れた位置で隙をうかがっていたハリマが引き金を絞る―― ゴゴゴン! と小銃弾のバースト射撃が全弾命中したが、これも牽制以上の効果を生むことはなかった。そしてたちまち、身を隠していたコンテナごと弾かれた。だが、こちらは力の直撃をうまくいなしたか躱したとみえ、次の障害物の陰へ再び滑り込む。
『これは凄い……想像以上です。ですが、そろそろ落ち着いてもらわないと……艦が持ちませんね 『ノートゥング』 子供は後回しにして――脅威度の高い目標から、順にいきましょう。礫は無視して構いません、あの程度の弾丸で、今のお前が傷つくことなど、万に一つもありませんから』
「ハリマ!」
「落ち着き、おぼこ」
「おぼこて!」
バシッ! と、その10センチにも満たない小さな身体から繰り出された平手の威力に、一気に意識を引き戻される。
「やかんし! そいつも、ガキも、あんたんとこの小僧も皆無事や!」
小僧が二人、というのが気になったが、あまり意味の無い言葉だったのかもしれない。
『はい、ヒカリ――ご心配をおかけしましたが――私はこの通り、無事ですよ』
「タマちゃん!? どこに――」
『今ちょうど、ヒカリのお腹の帯の上くらい――川を上ってるところです』
言われて見下ろしたヒカリの見る先に、見慣れた着物の柄があり――その中に、オタマジャクシが一匹泳いでいた。
「上がらしてもらうで』
胸元に、白い蝶がは羽ばたいた。
背筋がぞくりと震える。恐怖ではなく――初めての悦びと共に肌が総毛立ち、汗もピタリと止まった。それでいて、気を抜けば、体中の筋肉という筋肉、不随意筋すらもまとめて蕩けてサボタージュしてしまいそうな、服の生地と肌が溶け合う恍惚感が溢れきて――せき止めきれない。
『二人でもの子にゃ勝たれへん……せやけど、……三人おったら……なんとかなるんと違うかな?』
「ええ、『イケる』わ」
『大丈夫ですよ』
「「『『 さあ、いこう 』』」」
初めて、背に追った大野太刀を振るう――軽い――いや、重みは変わっていない、筋力も、ほぼ変わっていない。
けれど、推進力、重力、慣性――力を進め、向けるべき方向が、何かの流れに沿って自然に連なる。
ティニー=ノートゥングが、まっすぐに、自分を一撃で血煙に変える衝撃を右手に乗せているのが「見え」る。
その97%までを鞘の走りにあわせて斜め後ろに流し、自らは緩やかに遡上する若鮎の如く、力の暴風雨の下を泳いだ。
ふわり とティニーが舞い、何度も踏み込みながら、足場を足で掘ってその場に作りながら、直線的なダンスでアプローチを繰り返す。
その次は、メイド服を翻しながら、幾何学に金属の床を削って迫り来る。
その合間を縫って、何度か、鞘の先と柄を急所にカウンターに叩き込んだが、恐ろしいほどの 「力」 が壁の向こうから注ぎ込まれ、こちらも弾き返される。
「『『 きりがない 』』」
「ふう ……おっけ、わたしに任せて……こういう時は、最期はやっぱ 『スデゴロ』 っしょ?」
『『は? いやいやないない』』
『『二対一、否決――というかヒカリ、何拾ってんの』』
「え? グローブだけど?」
そう言いながら、装甲服のスクラップから、20センチはある拳を手に嵌めるヒカリ。
『『もうスデゴロじゃないよそれ!』』
「似たようなもんよ……言うんでしょ? 三太郎ちゃんのデータにもあったもん……『ロケットパンチまでは格闘扱い』 って! それに……向こうが素手なのに、こっちが刃物って、やっぱズルだよ」
『『さっき三対一にしたとこですよ!?』』
「そこはスルーで」
『『ジャイアニズム理論だ!』』
「それもデータにあったね、よし、その精神でいこう!」
『な、なんなのだ……このデタラメな戦いは……このままでは、本当に……大佐!』
「おお……素晴らしい……これが……」
艦橋からモニターしていた彼らだったが同様は既に各員の心を押し潰し始めていた。実験に使用した捕虜よりも先に、彼らか、彼らの載ったこの艦が沈むのではないか――と。……この戦い以前に、本当にこんな兵器をコントロールできるのか……? 「全ての責任は大佐が負う」 と言っていたが、冗談じゃない。死んでしまったら元も子もないじゃないか……。
セントーレはそっと部下達に目配せをして 「安全装置」 のキャップを開ける。彼女の頭部と腹部には、それぞれシリコンでコートしたプラスチック爆薬が仕込んである。その、送信機のスイッチを入れれば通電し、あの危険物を粉々に吹き飛ばすはずだ。
息を呑む
「いくよ……最初は……」
跳んだ。天上を蹴り返して反転し、そのままの勢いでティニーへと落下する
「 ウ ル ト ラ ス ー パ ー イ ナ ズ マ 大 回 転 ド リ ル キ イ イ イ ィ ー ッ ク!」
思い切り振りかぶった右腕から、ロケットパンチ一号(仮)の拳が回転しながらナックルに迫り――クロスに構えたティニーのガードに弾けた。
「対 閃 光 防 御 !」
玄海のコレクション、スペアからガメておいた (-●-●-) 何チャラモデルを瞬間的に装備。――その瞬間――装甲服のマニュピレーターガードこと、「ロケットパンチ一号(仮)」 の内側に仕込まれていた特殊部隊仕様の、フラッシュグレネードが炸裂し、全てが閃光に染まった。
「捕まえた」
戸惑うティニーを、ヒカリがぎゅっと抱きしめ……その柔らかな唇を、同じくらい柔らかな自分の唇でふさぎ、口の中にずっと転がしていた水晶の 『飴玉』 を下でそっと押し込んだ。
「ま、女の子同士は、ノーカン、ってことで」
その直後、水晶に仕込まれていた全ての対ウィルス――コントロールプログラムが走り出し、ティニーの内に仕込まれていた問題を一瞬で食らい尽くした。
『くそっ! 何がどうなっている! モニターが全部焼き付いたぞ……!?』
「ハァイ♪ これ以上の覗きは……野 暮 よ」
画面を、真っ白な蝶の大群が埋め尽くした、
「ハッキングだ! 非常装置を……なんだ? ソナーに感……全長……七千メー」
「あ、遅ーい。……うん、そのへん」
ごりっ
旧型の潜行駆逐艦の商船改造したセトカ丸。それをさらに改造し戻して、兵装を艤装し直して通常戦力と非正規戦力を保有し、その上で改めて外側に改造商船風の艤装を(以下略)――は――この日、世界最大のナマズにして、最も恐れられた 『イワトコ』 の巨大なアギトに艦橋付近を食いちぎられ、その20年近くに及んだ数奇な艦歴に幕を閉じた。