1・・・ナギ
周りを木々に囲まれ、まるで外と遮断されたかのような空間に、いつから建っているのか定かではない、日本家屋が建っていた。平屋建てのその家には人間は一人しか住んでいない。だが、決して一人暮らしというわけではなかった。
この家は人間と妖怪が一緒に暮らしているのだった。
その屋敷の最奥の部屋が、この家唯一の人間、凪の寝室だった。
そこに、一人の青年が足を踏み入れる。
中では、静かな寝息がいまだにすぅすぅ聞こえてくる。現在午前十一時半を少し回ったところである。青年は、そっと傍らに膝をついてかがみこみ、凪の肩を揺さぶった。
「いつまで寝てるおつもりですか?もう昼ですよ?」
その声に、凪はうっすらと瞳を開く。ハニ-ブラウンの髪、左右で色が違う瞳は、右が赤、左が金色だった。キョロリと動いた瞳が・・青年を捉えるが、まだぼぅっとしているのか、反応が鈍い。
「ん・・・・お客・・・・・?」
「いいえ・・・誰もこの敷地には立ち入っておりません。私はただ、あなたを起こしに来ただけです。」
「んぅ・・・・じゃ・・・・おやすみぃ・・・・・・。」
「って、なんでそうなるんですか!!」
力一杯、布団を引きはがす。これでは寝ていられない。そう思ったのか、凪もようやく体を起こした。
「おはよう・・・雫・・・今何時?」
「おはようございます。只今十一時半少し過ぎです。」
「げぇっ・・・・もう昼なの?あー・・・昨日の依頼のせいだよぉ・・・・。」
「遅くまでかかったのですか?言ってくだされば、お手伝いいたしましたが・・・。」
「ううん・・・そんな面倒な奴じゃなかったし、僕でもできたからね。」
「あまり無茶はなさらないでくださいね。」
「はーい。」
雫は人ではない。水をつかさどるとても高位な妖怪なのだそうだ。水は四大元素の一つである。その力をつかさどるのだから、雫が高位なのもうなずける。綺麗な青い髪、それに劣らず、また違った輝きを持つ蒼き瞳。温和そうな笑みを常に絶やすことがない、凪のよき保護者であり、相棒でもある。
雫は凪と契約を交わした。凪の持つ“蕾炎”を守り、凪自身をも守るように・・・・と。
主な登場人物はこの二人。主人公は凪のほうです。




