12・・・ケイヤク
そして、とうとう綺羅のお迎えが来てしまう日になった。綺羅は朝から縁側に座っていた。いつもの彼からは想像もできないほど元気がない姿。無理もない。結局あれから凪は一度も気らの前に姿を現さなかったのだ。しっぽを無意識にペタンペタン上下に動かしている。耳は下に垂れさがり、普段の活発さなども早皆無だった。
「綺羅・・・そろそろいらっしゃいますから・・・。」
「雫兄ちゃん・・・・凪兄ちゃん・・・会いたいよ。」
「・・・・・・凪次第です。大丈夫ですよ、凪は必ず出てきますから・・・。」
「もう出てきてるし・・・。」
「「!!?」」
今まで固く閉ざされていた凪の寝室の扉が開き、中から久しぶりに凪が現れた。きちんと着物を着こなし、髪もしっかり整えられているのが凪らしい。
「ごめん綺羅、雫も。なんかさ・・・こんなことしてたって意味ないって急に思ってさ。」
「凪・・・・兄ちゃん~・・・・。」
綺羅はすぐに、凪に飛びついた。凪はその小さな体をしっかりと受け止め抱きしめた。
「ごめん。こんな日になっちゃったな。もっといろんなこと学んでほしかったのにな。でも、雫が代わりにいろいろやってくれたろ?お前は立派になったよ。まだちっこいけど、でももう立派な一人前の妖狐だからな。」
「に・・・ちゃ・・・・うっ・・・うわあああああああああああああん!!」
「なくなって、男のくせに。」
「に・・・兄ちゃん・・・お願い・・・あるんだ・・・・。」
「何?」
「僕と契約・・・・して?」
「え・・・・・。」
「おねがい。・・・・僕・・・・もうこれではなれちゃうのいやだもん・・・・だから・・・雫兄ちゃんみたいに・・・凪兄ちゃん守る・・・からっ・・・・。」
「キツネの長になるの、すっごく大変なんだぞ?」
「それでも・・・いい・・・だめ?」
「・・・・・わかった・・・・。綺羅がいいなら、いいよ。」
すっと凪は立ち上がった。
「はい、契約終わり。」
「え・・・・?もう?」
「契約はね、相互が了承すればいいんだよ。言葉にはそれほど縛りつける力を強く持ってるから。そのかわり、契約違反した場合は、それなりの罰が下るけどね。」
「ん・・・・僕がそんなことするわけないよ。えっへへ・・・・凪兄ちゃん、雫兄ちゃん・・・ありがと。」
「こっちこそ、楽しかった。」
「また来てもいいですからね。」
「うん、今度は仲間と一緒に来る!」
「ドンだけいるんだろうな。」
「にぎやかになりそうですね。」
そして、とうとう彼らの前に、綺羅の迎えが現れた。




