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幸せもの同士のバレンタイン

作者: 雪月フィア
掲載日:2026/02/15

「どうすっかなぁ……」

 バレンタイン前日の深夜。いや、もう日付越えてるから当日の深夜か。そんな時間にひとり、ベッドで横になりながらスマホとにらめっこしている。理由は単純。今年のバレンタイン、彼女に何を作って贈ろうかって悩み。

 彼女とは幼馴染で、昔からバレンタインには手作りのチョコとかクッキーとか、色んなお菓子を送ってきた。でも、大学生になった今マンネリというか、ネタ切れ感がある。なにを作っても喜んでくれるのは知ってるから、これは俺のプライドの問題。

「いっそ今年は市販のチョコにするかぁ……?」

 最近はフェアも色々やってるし、それもありな気はする。ただ、バレンタイン当日に行っても種類があるかどうかを、俺は知らない。もしかしてもうホワイトデーフェアに切り替わってたりすんのかな。それもそれで早い気もするけど……。


 悩むこと数十分。

 悩みに悩んだ結果、今まで作った事ない物、ザッハトルテを作ってみることにした。結構難しいらしいから、うまく出来るかはわからないけど。まぁ、失敗したらした時ってことで、その時こそ何か買いに行くことにする。

「とりあえず……寝るか!」

 今から作る、なんてことは材料がないから出来ない。ってことで、さっさと寝ることにした。明日起きるのが遅くなっても、後々困るしな。彼女が家に来るまでに準備終わらせないとだから。来てくれたのにまだ準備出来てない、じゃカッコ悪いしな。そういう所も可愛くて好きって言いそうだけど。

 起きてからの段取りをぼんやりと考えながら、気が付いたら眠りについていた。


 アラーム音を鳴らすスマホを片手で探っては、その音を止める。結構しっかり眠れたらしく、眠気はあまり残っていない。

 軽く伸びをしてから、ベッドを出て朝食の準備だとか家事だとか諸々済ませる。と、あっという間にいい時間になっていて、慌てて準備をして近くのスーパーに材料を買いに走った。

 買い物を終えて帰ってきて、ひと休みしたい気持ちを我慢してキッチンへと立つ。ひと休みのつもりが寝てしまった、なんてことは避けたいしな。

 スマホをスリープしないように設定して、見やすい所に置く。そのまま材料や器具を準備して、やっと作り始められる。

「うし、それじゃあやるかっ!」

 気合を入れるように声を出して、レシピを頻繫に確認しながら作って行く。いつも思うけど、お菓子作りって意外と力仕事だよな。材料を混ぜていくのが結構大変だし、混ぜすぎてもダメだし。慣れたけど、って油断も中々出来ないしな。いや、油断するものでもないんだけどさ。


 そしてなんとか形になって、今は冷蔵庫で冷やしている。コーティングのチョコが固まったら完成、らしい。この間に片づけを済ませてしまうか、って考えてシンクで調理器具を洗って行く。ちらっと時計を見れば、まだ彼女が来るまでには時間があってほっとした。

「でもあの手のお菓子って、味見できないよなぁ……」

 そう、困ったのが味見出来ない事。これじゃあ失敗してるのか成功してるのか、彼女と食べるまでわからない。もし失敗してたらどうしようか、失敗作食べさせたくないんだけどな。かと言って事前に切り分けて味見をするのも、それはそれとして味気ないような気がして。ついため息も出ちゃうってものだよな。

 なんて考え事してる間に片づけも終わってしまう。そろそろ固まったかなと冷蔵庫から取り出して、確認してみることにした。うん、しっかり固まってるみたいだな。それにしても、見た目だけなら完璧と言っても過言じゃないよな。見た目だけなら。これで味が最悪だったらマジでどうしよう。考えても仕方がないんだけど。ひとまずザッハトルテを冷蔵庫に戻して、彼女が来た時に備えて食べる準備や、ゆっくり過ごす準備をする。


 少し時間が経った頃、インターフォンが部屋に鳴り響いた。彼女が来た。嬉しさと少しの緊張を覚えながら、玄関へと向かい鍵を開ける。

「いらっしゃい。外寒かったろ? ほら、あがってあがって」

「えへへ、ありがと。それじゃあおじゃましまーす」

 彼女は慣れたように部屋に入ってコートをハンガーにかけて、そして椅子に座った。

「今年は何を用意してくれたの?」

「ザッハトルテ。もちろん手作りな」

「わ、今年も作ってくれたんだ? しかもザッハトルテって、難しいって聞くんだけど……すごいなぁ」

「それほどでも」

 少しドやり気味に言いながらザッハトルテと紅茶の準備してると、後ろから楽しそうに笑う声が聞こえる。よく聞き慣れた声だけど、それでもいつまで経っても可愛いなと思う。

「あ、でも味見出来てないからな。あんまり期待するなよ」

「そうは言っても、君が作るもので美味しくなかったものってないからね~。さすがに期待しちゃうかな」

「ったく……まずくても知らないからな」

 そう言いながらしっかりと皿に盛りつけたザッハトルテとミルクティーを出す。美味しそうと言いながら目を輝かせている姿が、本当に可愛らしい。その顔をいつまでも見ていたくなる。

「それじゃあ早速食べるか。いただきます」

「いただきま~す。あむっ」

「ど、どうだ……?」

 不安そうに聞くと、彼女は「ん~~!」と幸せそうな声を出していた。その声を聞いて、ほっと胸をなでおろす。本当によかった。

「やっぱり美味しいよ~。毎年こんな美味しいものが食べられて、わたしってほんと幸せものだね~」

「美味しいならよかったよ。こんな美味しそうに食べてくれる彼女がいる俺も、かなりの幸せものだな」

「じゃあわたしたち、幸せもの同士だね」

「はは、そうなるな」

 互いに笑いながら、幸せな時間を楽しむ。杞憂していたザッハトルテも、ちゃんと美味しく出来ていてなによりだな。いい笑顔も見れたし、頑張った甲斐もあるってものだよな。

「こんなに美味しいものもらっちゃったら、ホワイトデーますます悩んじゃうよ~」

「そんなに悩まなくてもいいんだけどな。これだって自己満足みたいなもんだし」

「それだとわたしが納得出来ないの~」

「わからなくもないけどな」

 悩んでることは結局同じってことか。まぁ付き合いも長いから、そうなっても仕方がないよなって思いながら頷く。

「わたしも何か作ったりしてみよっかなぁ」

「いいじゃないか。なら俺教えるけど」

「もう、君にあげるものを君に教わってたら意味ないでしょ~」

「意味なくはないだろ」

「意味ないの。なに作るか~とか内緒にしたいの」

「ならしょうがないかぁ」

 微笑みながらそう言えば、よかったとばかりに笑顔で返される。いつまでも、こうして正面から見て独占していたくなるような、そんな顔。この笑顔だけでもう満足みたいなところあるんだけどな。言ったらそれじゃあだめって返されるから、伝えることもないけど。


「ふぅ、ごちそうさまでした~」

「お粗末様」

 食器を下げて手早く洗い物を済ませて、彼女の正面に戻る。ぽやぽやと幸せそうにしてる彼女の顔をじっと見つめてるだけで、こっちも幸せな気持ちになる。もはや彼女も慣れてるから、こうしてただ見ていてもなにも言われない。付き合いたての頃は恥ずかしがってて、あの頃はあの頃で可愛かったけど、今は今でまた違った良さがある。

 こういう幸せな時間を、これからも彼女と一緒に積み重ねていければいいなと考えている。そして、それはきっと彼女も同じだろうなと勝手に思ってる。ま、聞いたら答えてくれそうだけどな。でもなんかプロポーズみたいで、聞くにはそれ相応の覚悟を持ってから聞きたい。なんて、わがまま。

 時刻はまだ夕方。今日彼女は泊まっていってくれる。時間もたっぷりあることだし、今日をめいっぱい幸せに過ごしてもらいたい。そんな思いを抱きながら、彼女と言葉を交わし合うのだった。

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